第399話 エルフのレミエル

「おい…、エルフだよな? スゲェ腹の音が聞こえてんだけどよ…」



「おなか…すいた…」



 私にお腹の音は聞こえなかったが、そのエルフはか細い声で空腹を訴えると障壁に張り付いたままズルズルと崩れ落ちて膝をついた。



「あわわ、大丈夫!? 『魔法解除マジックリリース』」



 慌てて駆け寄り、障壁を解除すると私の方にパタリと倒れ込んで来たので抱き止める。

 正確には抱き止めようとしてエルフとの体格差に負けて潰れた。



「たっ、たすけてぇ~…」



「何やってんだよ、ったく…」



 ホセがエルフが背負っている荷物を掴んで持ち上げて移動させると、荷物を立て掛ける様にしてエルフを座らせた。



「もう水だけは嫌…、食べ物を…」



「えっと…、どのくらい食べてないの?」



 もしも何日も食べてないなら固形物はやめた方が良いだろうし、倒れるくらいだから1日は食べてなさそうだよね。



「携帯食…少しずつ食べてた…、けど…昨日で無くなって…」



「まるっと食べてないのは1日くらいだけど、その前から節約して食べてたなら…コレが良いよね」



 私はストレージからホセのご機嫌取り用に作っておいた南瓜かぼちゃのポタージュを取り出した。



「皿はもう1枚な、さっき助けてやったしよ」



 深皿によそっていたらホセがニヤリと笑って要求してきた、しかし今回は仕方ないだろう。

 先によそった方をスプーンと一緒に渡すと尻尾を揺らしながらトレイを置いてあった岩に戻った。



「ほら、あなたも口開けて、あ~ん」



「あ…、んぐ、んん!」



 エルフはひと口飲み込むとカッと目を見開いて口を大きく開けた。



「はいはい、あなた名前は?」



「んぐ、レミエルよ」



「どうしてこんな所に?」



「ごくん、里を出て婚約者に会いに行こうとしたら迷っちゃって」



「その人もエルフ?」



「ズズッ、そうよ」



「その人の名前聞いていい? 男女合わせて4人程エルフを知ってるから」



「これ凄く美味しいわ、ごくん、ガブリエルよ」



「「「「「……………ガブリエルッ!?」」」」」



「きゃっ、びっくりした。あなた達ガブリエルを知っているの?」



 呆然としていたら、レミエルは流れる様な動作で私の手からお皿とスプーンを奪い取り、自分でポタージュを飲み始めた。



「うん、私達の拠点がある町に住んでるよ」



「あら? そういえばあなたの着けてるネックレス…、ガブリエルの魔力じゃない!?」



「あ、そうそう。買ってくれたのは別の人だけど、魔法はガブリエルが付与してくれたの」



「ガブリエルが…、そう…。あなた達がガブリエルと同じ町に住んでるならついていくわ、良いでしょ? あとおかわり頂戴ちょうだい



 一瞬寂しそうにしたから戸惑ったけど、なんだろう…、この当然良いって言ってもらえると信じて疑わない態度。

 空気が読めないのはエルフの特性なんだろうか、だけどアリエルは普通だったよね。



「すまないが俺達は依頼でここに来ているんだ、腕熊アームベアが普段出ない浅部せんぶに出たから原因を調査しないと」



「あ」



「ん?」



 リカルドの説明を聞いた途端、レミエルはひと声出して視線を逸らした。

 首を傾げてリカルドはレミエルの返答を待ったが、レミエルは目を泳がせている。



「レミエル、正直に言おうか」



 エリアスが近付いて来て有無を言わさぬ笑顔をレミエルに向けた。



「な、何の事?」



「あ、そう。アイル、レミエルはおかわり要らないんだって」



「言うっ! 言うからおかわり頂戴!!」



「じゃあ先に言ってもらおうか」



「う…、3日前にもっと向こうの方だと思うけど…、腕熊が居たから食料にしようと思って…、私は攻撃魔法は火球ファイヤーボール水球ウォーターボールくらいしか使えないから火事にならない様に水球を出したの。そうしたら空腹で暴走させちゃって大量の水に腕熊が流されて行ったわ…。そいつが命の危険を感じてここから遠ざかったなら…原因は私ね」



「「「「「………………」」」」」



 衝撃告白に私達は無言になった、暴走させたとはいえ腕熊を押し流す水量を出したって事は結構な魔力量だよね。

 良かった、とりあえず火事にしちゃいけないとか最低限の常識を持っていてくれて。



「あ~…、なんだ、その、コレで俺達の依頼は達成って事で良いんだよな?」



 リカルドが同意を求める様に私達を見た。



「そうだろうね、これだけ異常が無くて今の話を聞いたらほぼ確実にレミエルが原因じゃないかな」



 エンリケが確信した様に頷いた、エリアスとホセも頷いている。

 とりあえず正直に話したのでレミエルにおかわりを渡すと結構な勢いで平らげた、エリアスに取り上げられるとでも思ったんだろうか。



「それじゃあ…、アイルが片付けたら帰るか。ごちそうさま」



 そう言ってリカルドが敷物の上に食器を乗せたトレイを置くと、全員同じ様に乗せた。

 レミエルも食べ終わったので纏めて置いて洗浄魔法を掛ける。



「『洗浄ウォッシュ』」



 綺麗にしてからストレージに食器を収納する。



「そうよ…、何かおかしいと思ったら、あなた人族なのにどうして魔法が使えるの!? 髪の色といいサブローみたい」



 さっきの障壁魔法の時は空腹過ぎて頭が回ってなかったらしい、仲間達も当たり前の様に見ていたからというのもあるかもしれないけど。



「あなたもサブローに会った事があるのね、私はサブローと同じ国からここへ来たアイルって言うの。一応4人目の賢者って呼ばれているわ」



 とりあえず帰る前に全員の自己紹介から始める事にした。



◇◇◇


次回は400話記念閑話です!(*´∇`*)

えっ、もう400話!?Σ(・ω・ノ)ノ

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