第398話 調査開始

「効果が途中で切れるなら言っておいてよね」



 エリアスがブツブツと文句を言っている。



「森の中は身体能力使わないって言ってなかったっけ? 森の手前で私達が到着するの待ってたらコケたりしなかったのに、突っ走ったのは誰だろうね~?」



「まぁまぁ、アイルも初めて身体強化した時の高揚感はわかるでしょ? そんな意地悪言わないでやりなよ」



「しょうがない、エンリケの顔を立ててここは引いてあげましょう」



 勝ち誇った顔をエリアスに向けると、苦虫を潰した様な顔をした。

 今私達は探索魔法を使いながら森の奥へと向かっている、エンリケと手分けして広範囲を確認しながら歩いているが、今のところ異常は見られない。



「今のところいつもと同じに感じるが…、何か引っかかるのは居たか?」



 リカルドが私とエンリケに振り返った。



「特に無いねぇ、さっき通ったのが腕熊アームベアが出た場所でしょ? たまたま異常行動したやつが出ただけだったりして」



「エンリケもそう思う? こっちも異常無しだよ、たまたま岩でも落ちて来て驚いて逃げ出しただけって事は無いかなぁ」



 そう言ってみたものの、岩が落ちたくらいで腕熊がこんな所まで来るのはおかしい、縄張り争いがあったとしても私達がよく行く中間と呼ばれる区域から出て来ないと言われている。



 このウルスカの森は奥に行く程凶暴な魔物が居て、その目安になるのは生えている植物だ。

 『希望エスペランサ』自体深部と呼ばれる場所には行った事が無い、何故なら深部の推奨されるランクがSランクとなっているから。



 中間と繋がる深部のどこかに聖域と言われる魔物が出ない場所があると聞いているが、ウルスカ側からだと遠回りしないといけないのでまだ行った事が無い。

 基本的に立ち入り禁止区域と言われているので足を踏み入れる事はこの先も無いかもしれないけど。



 森の中心に向かって歩き続けて1時間後、普段の活動区域の中間に到達した。

 ここから2日程歩いたところまでが中間で、その先からが深部となる。

 今回は腕熊が本来出没する中間と深部の境目まで調査しながらなので、いつもよりゆっくりな移動だ。



 強い魔物程濃い魔素というものを好むらしく、この森は中心が1番魔素が濃いらしい。

 ダンジョンでも同じ理由で潜れば潜る程強い魔物が出るそうだ、エリアスの受け売りだけど。



 時々すれ違う冒険者達から話を聞いたが異常は無いらしい、野営しつつ進んでとうとう深部との境目まで来てしまった。



「何も無かったねぇ…」



「そうだな、だが一応あの木が生えている場所なら腕熊は出没するからもう少し先に進むぞ」



「うん」



 リカルドの決定に全員が頷き奥へと進む。

 1時間程歩いてホセがお腹が空いたと言い出した、懐中時計で時間を確認するとお昼には少し早いけど皆もお腹が空いているのか期待した目をリカルドに向けた。



「そうだな、集中出来ないのも困るから昼食にするか。アイル、エンリケ、この辺りで休めそうな場所はあるか?」



「ん~、あっちに5分くらい歩いたところに良い感じの場所があるよ」



「そうだね、アイルの言う通りそこなら近くに魔物も居ないから落ち着いて食べられるかな」



 5分歩くとちょっとした崖の下に開けた場所があり、椅子に出来る倒木もあって良い感じの場所に出た。



「一応障壁だけ張っておこうか、大蜘蛛ビッグスパイダーの赤ちゃんとか飛んで来たら嫌だし『障壁バリア』」



「やめろ! 思い出すだろうが!」



 ホセが二の腕を擦りながら怒鳴った、ガブリエルと出席した夜会で王子達に話した子蜘蛛の事件を思い出したのだろう。



「だからそんな事が無い様に対策してるんじゃない。皆、お昼は何食べたい?」



「僕はカレー! 森の中は比較的涼しいとはいえ暑いからさぁ、やっぱりカレーは暑い時に食べるのが美味しいよね!」



 エリアスの言葉に何を食べようか考えていた他のメンバーもカレーを食べると言い出した、準備する方としては楽だからいいんだけどね。



 敷物の上に鍋を出し、白米をよそった深皿の上にカレールーを掛けていくと、皆はお行儀良く順番に並んだ。

 我先われさきにと食べたがる仲間達(主にホセとエリアス)にキレて教育的指導をして以降お行儀良くなりました。



 尚、教育的指導の内容は争う程に早く食べたいのなら同時に食べられたら文句無いよね、という事で1つのお皿を2人で食べれば問題解決だと差し出したのだ。

 そして2人仲良く食べ終わるまで別の物は出さなかった、メニューがパスタだったのでとても食べ辛そうにしていたし、かなりりたのだろう。



 各自トレイにお皿スプーン、水の入ったカップを乗せると倒木や石の上に腰を下ろして食べ始めた。

 このカレーは寝かせては火を通し、寝かせては火を通し、と、所謂いわゆる3日目のカレーの状態なのでとても美味しい。



 夏は粗熱が取れたら冷蔵庫で寝かせないとすぐに腐ってしまうので大変なのだ。

 温め直すたびに今日はカレーなのかと嬉しそうに聞いてくる仲間達に違うと答える罪悪感と戦いながら護ったカレーなのである。



 そう考えると味わいもひとしおだ、肉の旨味が溶け出したルーと歯がいらないくらい柔らかく煮込まれた野菜達、文句無く美味しい。

 最後のひと口を口に入れた時、ビタンと何かがぶつかる音がして全員そちらに視線を向ける。



 そこには美しい長い金髪に緑の目、誰もが理想と思い描く様なエルフの女性が居た。

 よだれを垂らして障壁に張り付いていなかったらの話だが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る