第370話 エドの依頼

「ただいま、エドガルドの依頼を受けて来たから出られる様になったらすぐに出よう」



 朝食後、リカルドとホセが冒険者ギルドに行ってエドが出したという依頼を確認して来た。

 リカルドの出られる様になったらというのは、私の料理ストックがあるかどうかである。



 とりあえず移動中に作るのは問題無いし、ここ最近作り置きを溜め込んでいたからいつでも出られる。

 家に転移で戻って料理したいところだけど、それだとエドに怪しまれるだろうから無理だろう。



 本当なら数日分の食事を置いて行くのが良いと思うが、冬だから温かい食事をして欲しいので戻って来るしかない。

 ビビアナにはスープ以外の物を温めさせてはいけない、何故ならほぼスープと言って良いシチューですら温めていて焦がした事がある。



 焦げてない部分も全て焦げ臭かったけど、あまりにもしょんぼりしたビビアナの手前「食べられなくはないよ」と皆で頑張って食べたのだ。

 一度ガブリエルに電子レンジの魔導具を作れないか聞いたが、分子も細胞が震える現象も意味がわからないと言われてしまった。

 そんな訳で私が転移で出来立て料理をストレージから出してすぐ戻るしかない。



「こっちはいつでも出られるよ、皆の荷物も一式預かってるし。あ、ビビアナの荷物は置いて行った方がいいかな、お腹が大きくなる前に王都で着る為に作った服着てセシリオとデートするかもしれないもんね。あとは門に行く途中に少し食材買い足したいな」



「出発は明日でもいいんだが…」



 宿に戻らずリビングに居座っていたエドがサクサクと予定が決まっていく様子に口を挟んだ。



「アルトゥロの前でも同じセリフが言えるのか?」



 ホセがヒラヒラと依頼札みたいな物を指に挟んで見せつけた、もしかしてギルドにアルトゥロからの伝言でも届いていたのかな?



「指名依頼でウルスカにエドガルドが来たら連れ帰って欲しいと依頼が来ていたんだ、帰りの護衛依頼を受けるからとそちらは断って来たがな。今頃トレラーガのギルドに連絡が行っているだろう」



「はは…、アルトゥロは段々私に容赦が無くなって来たな。頼もしい反面恐ろしくもある」



 そう言ってエドは遠い目をした、もしかしてアルトゥロはエドよりやり手なんだろうか。

 年齢の割に凄くしっかりしてたし、エドの商会でも活躍してるみたいだから頭は良いんだろうなぁ。



「じゃあ今日出発って事で良いの? 夜は毎回宿屋に泊まるなら余計に日数掛かるけど、テントでも良いならエドに貸す分もあるよ」



「ゆっくり行った方が良いかな、それだけ一緒に居られる訳だし。アイルが一緒に過ごしてくれるならテントでも大歓迎だけどね」



 色気たっぷりに微笑まれたが、そんな危険な真似をする訳が無いとわかってて言ってるよね。

 リカルドは呆れた様にため息を吐いた。



「はぁ、そんなのリーダーとして許容出来る訳無いだろう。1人が寂しいというのならエリアスと一緒にテントを使えば良い、結構ウマが合う様だしな」



「あ、いや、私は1人でないと眠れないたちでね、遠慮しておくよ」



「ん? それなら私と一緒でも眠れないって事じゃない?」



「ははは、アイルと一緒なら眠ったりせず、一晩中寝顔を眺めているに決まってるじゃないか」



「絶ッッ対一緒に寝たりしないからね!?」



 引いた、その場の全員がエドの発言に引いていた。

 眠るまでって言うのならまだわかるけど、「一晩中」な上「決まってる」という発言が異常だと本人はわかっているのだろうか、残念そうにしているからわかってないんだろうな。



「とりあえずエドガルドはエリアスと一緒に宿に戻って荷物を纏めて来てくれ、俺とホセは先に貸し馬屋に行って馬の準備をしてもらうからアイルとエンリケは買い物が終わり次第門前広場で合流しよう」



「「「「了解」」」」



 エドはエリアスと、と言われて眉を寄せていたが、一応頷いていた。

 先にエドとエリアスが出て行ったので、私はビビアナとおじいちゃんに予定を告げる。



「それじゃあ食事は朝昼晩と転移で食堂に来て置いていくから食べてね、洗濯物は…この箱に入れておいてくれたら洗浄魔法掛けておくから畳むのはビビアナにお願いしていい? あ、ビビアナの預かってた服はここに置いていくから後でタンスに片付けておいて。もし食事が必要なかったらテーブルにメモを残してくれれば見るから知らせてね、ビビアナはもし外で食べるなら塩気の多い物は避けてお酒も赤ちゃんに影響あるから我慢だよ。え~と、他に言っておく事は無かったかな…」



 私はストレージから空き箱を取り出して食堂の隅に置き、注意事項を並べていく。



「ふふふ、アイルはホセじゃなくても母親として理想的なのかもね」



 エンリケが私があれこれとビビアナ達に言う姿を見ながら笑った。



「世話をされた事が無い奴らは理想の妹だの娘だの言っているが、1番は母親としてだったか。クククッ、見た目からは想像出来ないだろうな」



「リカルド、聞こえてるんだからね! もう行けるよ」



「ははっ、すまんすまん」



 ペシンとお尻を叩くと、全然悪く思っていなさそうな謝罪をされた。

 リカルドのお尻は硬くて叩いた手の方が痛い、ヒリヒリする手を振っている姿を見てリカルドは再び笑ったが、今度は睨むだけにしておいた。



 私達はビビアナとおじいちゃんに見送られて家を出た、セシリオはきっと門の所に居るだろうからウルスカを出る時にひと言声を掛けておけば良いだろう。

 リカルドとホセとは途中で分かれ、私とエンリケは手早く買い物を済ませて門前広場へと急いだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る