第427話 形のイメージ

[男部屋 side]



「あ~あ、聞いてた事バラしちゃって、嫌われても知らないよ?」



「へっ、そんな事言ってるけどよ、オレが言わなきゃお前が言ってたんじゃねぇのか?」



 肩を竦めながら言うエリアスに対してホセは鼻で笑った。



「あ、やっぱりそう思った?」



「「「「思った」」」」



 ガブリエル以外が頷いて肯定する。



「おじいさんまでッ!?」



「普段のエリアスを見ていたらアイルの反応を見る為に暴露すると思うのは当然だろう」



「やだなぁ、僕ってそんな風に思われてたの? でも仕方ないよね、だってアイルが面白いせいだもん」



 一点の曇りも無い笑顔で言い放つエリアスの言葉に、反論する者は誰も居なかった。






[女部屋 side]



「終わった…、私の水面下の努力を知られるなんて…。例え本当の家族でも知られたく無い、むしろ家族だからこそ知られて気まずい事なのに…」



 私が寝る20畳程の部屋には既に数組の布団が敷かれており、その内のひとつに入り込むと丸くなってなげきを漏らす。

 今すぐビビアナに会いたい、そしてあのマシュマロ乳に埋もれて慰めてもらうんだ。



 だけどもう夜だから転移して戻ったとしても安定期だしイチャイチャしててもおかしくないので不用意に戻れないのだ。

 その前にここで転移したらどこに行ったんだと探されてしまう。

 


「アイル、良い事教えてあげるから元気出して」



 グズッていたらセラフィエルが掛け布団越しに背中を撫でながらそんな事を言った。

 エルフが言う良い事って何だろう、そんな好奇心で布団から顔だけ出した。



「良い事ってなぁに?」



「ふふっ、さっき風呂で泡の事を『たんさん』と言っていたでしょう? 飲めないのが残念だって」



「うん…」



 そうなのだ、お湯に浸かっている時に細かい泡がたくさん出ていたので鑑定したら炭酸泉だったのだ。

 しかし成分的に飲料水としては向いていなかったのでガッカリしてしまった。



「私達は泡水あわみずと呼んでいるけれど、この家の裏手…世界樹の根本に飲める泡水が吹き出している所があるのよ。そのまま飲むと口の中が少し痛いくらい泡が弾けるから私達はあまり飲まないけれど」



「それ本当!?」



 ガバッと掛け布団を吹っ飛ばす勢いで起き上がった。

 セラフィエルがもたらした情報により、私の頭をハイボールという言葉がぎる。

 しかも口の中が痛いくらいって事は強めの炭酸って事だよね!?



「ふふ、元気になった。それじゃあ明日行ってみる?」



「うん、行く!!」



 先程までの嘆きはすっかり忘れ、炭酸水があったら作れるもので頭がいっぱいになる。

 コーラのレシピは世界で数人しか知らないらしいから再現は無理だとしても、ジンジャエールなら生姜使ってるのはわかってるから研究すればいけるんじゃないだろうか。



 濃厚なオレンジジュースを使えば炭酸オレンジが飲めるし、果物との組み合わせなら結構レパートリーが増やせるはず!

 水割りやロックでしか飲めなかったウィスキーが再びハイボールで飲める日が来るとは…!!



「炭酸水は寝起きに飲むと良いって聞いた事あるから朝食の前に行けるなら行きたいな」



「わかった、それじゃあ朝起きてからすぐ行こう」



「やったぁ、だったら早く寝なきゃね、んふふふふ」



 上機嫌で布団に潜り込むとセラフィエルも同じ布団に入って来た、他に空いている布団はたくさんあるのにどうしたんだろう。



「一緒に寝るの? 他の布団は使う人が決まってるとか?」



「さっきラグエル兄さんがアイルを膝に乗せてた、でもアイルは成人してるから一緒に寝るのは同性の特権」



 ほぼ無表情だが、何となく勝ち誇った様な顔に見える、実際勝ち誇っているのかもしれない。

 そんなセラフィエルを微笑ましく思っていたら、不意に部屋の戸が開いた。



「もう寝るの? 早いわね」



 さっきお風呂に乱入してきたエルフ達が来た、どうやら今夜は一緒にこの部屋で寝るらしい。

 しかし彼女達はすぐに眠るつもりは無い様だ、何故ならその手に丸い酒瓶を持っていたから。



「ねぇ、セラフィエル…、今から家の裏手にある炭酸…泡水を汲んでくる事って出来るかなぁ?」



「すぐそこだから行ける、問題無い」



「皆お酒を飲むみたいだしさ…、私泡水を使うと美味しく飲めるお酒を持ってるんだよね。せっかくだし皆で楽しむのはどうかなぁ?」



 決して私が飲みたい訳じゃなくて、皆が酒盛りするつもりだったみたいだし、久々の女子会っていうのも心惹かれる。

 


「ならばアイルが行くのは明日の朝にして、今は誰かに取ってきてもらえば良い」



 セラフィエルは布団から出て立ち上がるとその場に居た数人に声を掛けて頼んだ様だ、そのまま他の人にも指示を出して飲み会の準備を済ませた。

 私もおつまみとお酒の提供を申し出て準備されたテーブルの上に並べると、表情自体は変わらないが皆の目が輝く。



 皆が座る頃には酒瓶に入れられた炭酸水も数本運ばれて来た。

 あれ? 炭酸水が酒瓶に…って、もしかしてさっき部屋に持ち込まれた酒瓶も中身はお酒じゃなかったりする?

 もしそうなら私の発案で飲み会が始まったって事にならないだろうか、バレたら仲間達に怒られるのではと背中に冷たい汗が流れた。



「ね、ねぇセラフィエル、さっきのあの瓶の中身って…」



「ああ、あれ? 寝る前に飲むとよく眠れる果実水よ、お酒と一緒に飲んでも害は無いから寝酒に混ぜる人も多いわ」



 やってしまった…!!

 てっきり瓶の形的に酒瓶だとばかり…、しかし今更飲み会をやめようなんて言えない雰囲気だし、私は開き直って楽しむ事にした。

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