第436話 ウリエルもやはりエルフです

 昼食後、私達を引き止めようとするガブリエルの母親であるラティエルを、泡水を汲みに時々来るからと何とかなだめた。

 ウリエルはしばらく里に滞在するらしく、預かってくれていた馬達を返しがてら見送りに来てくれて挨拶を交わす。



『『待ってるからまた来てね』』


『アイルが来たらすぐわかるから障壁は気にせず入って来れるよ』



「うん、わかった。必ず来るよ、汲んだ泡水が無くなる頃に」



「妖精もお見送りに来ている様ですね。アイル様のお陰でエルフの人口減少問題も解決しそうで嬉しい限りです」



 ウリエルは見送りに来ていた長老達と同じ区画に住むエルフ達を見回してニッコリと微笑んだ。



「ちょっと待って!? 私じゃなくてエリアスだよ、エリアスのお陰!! 講師エリアスのお陰だからね!?」



 大事な事なので2回どころか3回言ってやった。



「はは、そういう事になってましたね」



「いやいや、そういう事になってたとかじゃなくて本当にエリアスのお陰だから、私は何にもしてないよ! 間違ってもカリスト大司教に知らせたりしないでね!?」



「心得ました」



 微笑みを崩さないウリエルに一抹いちまつの不安を感じながらも、皆と別れの挨拶を済ませて出発した。

 途中でエルフの里でしか採れない食材を摘み取りながら歩いていたらホセが段々と不機嫌になって来ている、出されたら喜んで食べるクセに。



「おい! いい加減にしろよ! いつまで経っても里から出られねぇだろうが!! またロープで縛られてぇか!?」



「嫌です!! 真っ直ぐ歩くから!」



 シドニア男爵領の二の舞は御免だ、あの時凄く恥ずかしかったもん。

 木の実に伸ばそうとしていた手を引っ込め、先頭を歩くガブリエルを追い越さんばかりにサクサクと真っ直ぐ歩く。



「聞いたか、あの獣人がアイルをロープで縛るそうだ」



「何と言ったか……SMと言うのだったか?」



「やはり知識を授けるだけあって自分も体験しているのだな」



「「ぐふぅっ」」



 ホセとおじいちゃんの変な声に振り向くと俯いて肩を震わせている、最後尾を歩くフェヌエル、カマエル、タミエルの3人が頭を寄せ合ってヒソヒソ何やら話しているので面白い話でも聞いて笑っているのだろうか。



 そんな事より目下もっかの問題は森を抜けて目の前にそびえ立つ崖を登らなきゃいけないという事だ。

 仲間を置いて飛翔魔法とか浮遊魔法で上がったら顰蹙ひんしゅく買うよねぇ…。

 ゲームみたいに仲間全員が魔法で移動出来れば楽なのに。



 来た時と同じくガブリエルと手を繋いで石階段を上がって行く、幸いくだりと違って下が見えない分気持ち的に楽だ。

 そのお陰で帰りは行きの半分の時間も掛からなかった。



 今度来る時は1人で来た事にして、転移魔法でクレーターの中の森に移動すればあの怖い崖の石階段を降りなくて済むよね。

 1人なら浮遊魔法で降りても問題無いから転移魔法がバレない様に障壁の手前に転移した方が良いかな。

 そんな事を考えている間に世界樹の障壁を通り抜けていた。



「あれ? 出る時は身分証は必要無いの?」



「うん、余程の事が無いとあり得ないけど、侵入者とかすぐに追い出せる様に出るだけなら自由に出られるんだ」



「へぇ、さすが世界樹、普通の魔法の障壁とは違うんだね。そういう知識は習ったりするの?」



「生活している時に親から教わるのが普通かな、食事する時とか話題に出る事もあるし」



 そんな話をしながらエルフの森を抜けた、リカルドとエンリケが手綱を引いていた2頭をストレージから出した馬車本体に繋げる。

 初めて馬車に乗るエルフ3人は普段の無表情とは違い目を輝かせていた。







[side ウリエル]


 アイル様達がエルフの里をお立ちになると、賑やかだった雰囲気が寂しい程静かに…とはならず、なにやら普段の里と雰囲気が違う。

 そうか、普段は狩りや採取に行かない者は自宅に篭っている事が多いが、今は交流している者が多いのか。



 表情こそとぼしいが、まるで他の種族の様に甘い雰囲気をかもし出している者達まで居る。

 アイル様達が来た事でこの様に顕著けんちょな変化が起こるとは、さすがとしか言い様が無い。



 おっと、そういえば報告する事や片付ける事が多くて教会本部に到着の連絡をしていなかったな。

 教会兼自宅に戻り、マジックバッグから通信魔導具を取り出した。

 魔導具を起動させると使われている魔石がほのかに光を帯びる。



『はいっ、教会本部です!』



 いきなりとても元気なカリスト大司教の声が聞こえた、こんな元気な彼の声はいつ以来だろうか。



「ウリエルです。里に到着した事と道中の報告をしたいのですが、教皇様はいらっしゃいますか?」



『あ…ウリエル大司教でしたか、ご無事でなによりです。教皇様に代わりますね、私は失礼しますので』



 あからさまにガッカリした声に変わってしまった、私は彼に嫌われる様な事をした覚えは無いが…。

 それより彼の後方から聞こえた『通信魔導具を抱え込むのはおやめなさい』という声は教皇様のものだった様な。



『ウリエル大司教、長旅お疲れ様でした。全く…、アイル様からの連絡を期待して用も無いのにこの部屋に来るのですからカリスト大司教には困ったものです。もう彼は自室に戻って行ったので落ち着いて話せますよ』



 いつもの穏やかな教皇様の声に、あきれの色が滲んでいる。

 カリスト大司教のアイル様好きは相変わらずの様だ、知らせないでというアイル様の気持ちも理解出来る。



「ふふ、では報告します。道中教会の無い村や集落に神託や4人目の賢者であるアイル様の事を伝えて参りました。そして偶然にもエルフの里へ向かう同族とアイル様達に遭遇したのですが…」



 こうして私は無事に道中の報告とエルフの里でのアイル様の発案による功績を、カリスト大司教に教えないで欲しいと言われた事も含めて報告した。

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