第351話 昼食タイム

「出来たよ~!」



 昼食が完成したので皆を呼ぶ、さっきのひと言のせいでリカルドと顔を合わせるのがちょっと気まずいと思ったけど、普通に娼館にも通ってる相手に気まずくなる必要は無いと開き直った。



 私の元年齢はリカルドより上だもん、さっきも大人の余裕を見せて小悪魔的微笑みのひとつでもしてやればよかった!!

 色恋沙汰とは1年以上縁が無かったもんね、いや、全く無かった訳じゃないけど甘酸っぱい感じの胸がキュンキュンする事は無かった、うん、無かった!



「いい匂いだねぇ、お昼は何かな?」



「ボロネーゼパスタだよ、粗いミンチ使ってるから食べ応えあるはず、あとは大根サラダね。今日の大根は林檎みたいに美味しいよ~」



「大根が林檎みてぇって、そんな訳ねぇだろ」



 深呼吸しながらエリアスが入って来て、続いて入って来たホセが私の言う事を否定した、食べた時の感想が楽しみだ。

 皆が座って食事を開始する、私はサラダを口に入れたホセをジッと見る。



「……………」



「んっふっふ、どぉ?」



「酸味はねぇけど、確かに林檎みてぇだな…」



「そのままでも食べられる旬の大根の上半分だけを切って水にさらしたから少しの辛味も無いでしょ? 午後から同じ人が作った大根を買い足しに行くんだ。これならスティックサラダにも使えるもんね」



 去年買った大根は水に晒しても辛味が抜けなかったからあまりサラダには使わなかったけど、これで人参と夏に買い込んでおいた胡瓜でスティックサラダの王道3種が揃った。

 マヨ味噌で食べると良いおツマミになるんだよね、一味唐辛子マヨも捨て難い…。



 とりあえず唐辛子を粉砕しておこう、そして飲みたい時におツマミスティックサラダを出せばきっと誰かがお酒飲みたくなるとか言い出すはず、そしたらなし崩しに酒盛りに突入するんだ…、ふふふふふ。

 私から酒盛りを提案するとホセがいい顔をしないからね。



「うむ…、これも食べた事は無いが美味いな。パスタというものは知っていたが、他にも種類はあるのか?」



 賢者が居た国とは遠かったせいか、3人の賢者が持ち込んだ食文化はあまりビルデオには伝わっていなかった様だ。

 教会本部に向かった時はまだ夏だったから持って行った麺類はひやむぎか焼きそばが殆どだったもんね。

 それにしてもおじいちゃんは貴族のテーブルマナーのお陰か食べ方がとても綺麗だ。



 ホセはソース系のパスタの時は必ず口の周りが汚れるのでナフキンを常備している。

 リカルドとビビアナはおじいちゃんと同じくらい上手に食べるけど、エリアスとエンリケは時々汚れてるかな。



 もう1人ホセに負けないくらい口の周りが汚れるのはセシリオだ、子供みたいな汚れ方じゃないから食べ終わった時にビビアナに指摘されたり拭かれたりしている。

 旅の途中なんかで2人だけ離れて食べてる時にセシリオの口元についたソースをビビアナが指でぬぐって舐め取るというイチャつき上級者テクを披露ひろうしていた。



「おじいちゃんが今まで食べたパスタって何だっけ?」



「確か貝の入ったスープのピリ辛のものと、トマトソースの…ホセが口の周りを赤くしていたピーマンと玉ねぎの入った甘味の強いやつだな」



「えーと、ボンゴレとナポリタン…かな? 今食べてるのがボロネーゼね、他にもいくつかあるよ。本当はもっといっぱいあるけど、私が作れるのはあと2種類くらいかなぁ…」



「ほぅ、ならばここに居る間に食べさせてくれるか?」



「うん、もちろん!」



「それとバレリオがスープを作ったという…らーめんだったか? それをまた食べたいな」



「ビビアナの結婚式にも出すからバレリオにはスープの大量生産を依頼としてお願いしておいたから安心して!」



 私は胸をドンと叩く。



「お前…バレリオがBランクの冒険者だってわかってるか…?」



 ホセがジト目を向けて来た。



「だ、だけど冬の間はラーメン屋する事を仲間に相談するって言ってたもん! 今回の依頼で体験してもらえばどんなものかわかりやすくなると思うし、試食用の麺は都合するって約束したから勝算はあると思うんだ。パーティ仲間ならバレリオだけの配合比率とか盗み出して売ったりしないだろうから仲間内でやって欲しいんだよね」



「あら、だけどバレリオのパーティって他の人達は料理苦手なんじゃなかったかしら?」



 ビビアナがコテリと首を傾げる。



「大丈夫だよ、お使いとか、洗うだけとか、ひたすら灰汁あくを取るだけとか単純だけど絶対必要な仕事をお願いすればいいんだもん」



「あはは、ビビアナに手伝ってもらう時と同じだね」



「エリアス…?」



 軽口を叩いたエリアスに、ビビアナがヒンヤリとする声で名前を呼ぶと、エリアスの目が泳いだ。



「あ、いや、何でも無い…」



 あーあ、エリアスってばどうして余計な事言っちゃうかなぁ、定期的に余計な事言ってしまう呪いでも掛けられてるんじゃないか疑っちゃうよ。



「私は午後からパーティー用のご馳走作るから、ビビアナとセシリオは衣装の確認してきてね。休養日の間に仮縫いを終わらせなきゃ」



「ありがとうアイル、平民の…しかも孤児のあたしが結婚式だけじゃなく結婚パーティーまでするなんて考えてもみなかったわ」



「式場はマザーが教会を使って良いって言ってくれたしね。司祭や司教が居なくても誓いの言葉は交わせるもん」



 日本で友達が人前結婚式した時にはパーティーグッズの鼻眼鏡掛けた旦那さんの後輩が「新郎はァ新婦のォ乳が垂れてもォ腹が出てもォ愛すことをォ誓いますかァ?」「新婦はァ新郎のォ頭が禿げてもォ、勃たなくなってもォ愛すことをォ誓いますかァ?」と似非えせ外国人神父の真似をして会場を沸かせていた。



 貧民街スラムの教会で式が挙げられるなら孤児院の子供達も出席出来るし、そのまま庭でパーティーしちゃえばいいもんね。

 そうすれば皆お腹いっぱい食べられるし、ビビアナが1番喜ぶと思うんだ。



 ちなみに司祭の代わりはマザーではなく私がするつもりだ、マザーだと役職の関係で文句を言われるかもしれないけど、教会が認める聖女わたしなら問題無いだろう。

 残る問題として、食器を片付けながら誓いの文句をどうしようかと頭を悩ませた。

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