第523話 的外れな推理 [side ホセ]

 アリリオが生まれたあの日、ちいせぇ手でオレの指を握る存在に今までにない気持ちを抱いた。

 無条件に守りたい、そう思った。



 孤児院で赤ん坊の世話もした事あるのを知っているビビアナは、容赦なくオレを子守りとしてコキ使った。

 子供は嫌いじゃねぇからいいんだけどよ。



 そしてアイルは予想通りアリリオにべったりだ、じいさんも負けてねぇけどな。

 そのせいか時々じいさんがオレと二人だけの時に、わざとらしくひ孫の顔が見たいとか言い出すから勘弁して欲しい。



 確かじいさんの跡を継いだ伯父の息子は結婚してたよな? ビルデオに帰ったらもう生まれてたりするんじゃねぇのか?

 別に早く帰って欲しいとか思ってる訳じゃねぇけど、じいさんがいる時はアイルがオレに一緒に寝て欲しいって言う回数が減ってるんだよな。



 じいさんに炊き付けられた事もあって、オレがアイルへの気持ちを隠さなくなってからは余計に獣化しての添い寝を頼んでこなくなっちまったし。

 遠征の道中で嫌な事があったり、疲れてる時は癒しが欲しいからと頼まれる事はあったけどよ。



 オレを意識し始めたから一緒に寝るのを躊躇ためらっているんだと考えれば、悪い変化じゃねぇ……と思いたい。

 幸いアイルがあからさまにオレを避けたりしないから、少しずつでいいから一人の男として認めさせてやるさ。



 そんな時、カリスト大司教達が家に来た。

 巡礼の旅だと言っていたが、これまで教会関係者が巡礼でウルスカに来た事はない。

 アイルがいる事によってウルスカを聖地にって話をまとめに来たんじゃねぇかと思う。



 聖騎士の三人も合わせてこの四人は相変わらずアイルに心酔してやがる。

 なのにアイルは相変わらずで、四人よりもアリリオ優先だから笑っちまいそうだったぜ。



 しかし、相変わらずカリスト大司教は油断ならねぇ。

 アイルを掌で転がすのはお手の物だし、まさかじいさんの事を知ってるなんてよ。



 下手にオレやじいさんの事を吹聴した場合、アイルが怒るだろうからヘタな事は言わねぇだろうと油断してたら、しっかりその事を利用してアイルに条件を突きつけやがった。

 しかもアイルの喜ぶ物を出して気を逸らせた隙にな。



 お人好しのアイルは弁当を作る約束を自分から言い出していた。休養期間なんだから依頼を受けないのは当たり前の事じゃねぇか、それなのに申し訳なく思う必要なんてねぇだろ。

 更にカリスト大司教はアイルとの直接の連絡手段を、アリリオを守るという建前でちゃっかり手に入れていた。



 大司教にしちゃあ若いもんな、余程頭がキレなきゃあの年齢で大司教になっちゃいねぇか。

 そんなヤツ相手に頭脳戦で勝つなんて、単純なアイルにゃ到底無理に決まってる。

 結局二人分多めに弁当作る事になってたしよ。



 翌日買い出しに商店街に向かったら、何も買ってない内に孤児院で一緒に育ったラウラがオレを見つけて話しかけてきた。

 せっかくアイルと話してたのに、邪魔しやがって。



 ラウラはオレと同い年で、孤児院にいた頃はビビアナをライバル視していたのか、一緒にいたオレの事も嫌っていたはずだ。

 けど、冒険者として名前が知られてきた頃から、街中でオレを見かけると声をかけて来るようになった。



 どうせオレが稼げるようになったから近付いてきたんだろう。

 こういうヤツは怪我したり、働けなくなったらアッサリ男を切り捨てるのは目に見えている。

 元々好みじゃねぇから興味ねぇけどな。



 ラウラみてぇに孤児院でオレやビビアナの事を嫌っていたのに、ここ数年やけに慣れ慣れしく話しかけて来るヤツが増えた。

 ビビアナがいると大抵は話しかけてこねぇから、わざとビビアナの名前を出してやったがのらりくらりと言い訳しやがる。



 そのせいでアイルが先に行っちまった。

 ラウラは上機嫌で話し続けていたが、オレの耳は自然とアイルの声を拾う。



 店主のおすすめはパイソンか、そういや鶏の唐揚げが多いけど、結構蛇も美味うめぇんだよなぁ。

 …………今、失恋って言ったか!? そんな話聞いた事ねぇぞ!?

 ビビアナが知ってたら面白がって絶対ぜってぇオレに教えるはずだ。



 一年も経ってないって事は一年以内に知り合ったヤツのはず。

 確か教会本部に行ってウルスカに帰って来たのが一年くらい前か……。



 まさかこの前冒険者ギルドにいた子連れのおっさんじゃねぇよな!?

 いや、さすがにそれはねぇだろ。それなら最近って言うだろうし。



 エルフ……のヤツらってこたぁねぇだろ。アイルが好んで……って、まさか!

 ずっと一緒にいて甘えられるけど、しばらく離れていたから自分の気持ちに気付いたとかいうパターンだったら……。



「だからぁ、今度二人だけで食事しない? ねぇ、ホセってば聞いてる?」



わりぃ、お前のために使える時間はねぇんだ。それに店主がこっち睨んでるぞ、ちゃんと仕事しろよ」



「チッ、もういいわよ! ホセのバカ!!」



 ずっと話し続けていたラウラにキッパリと断り、肉を受け取っているアイルを待つ。



「話は終わったの? お肉は買ったから次は野菜もちょっと買い足しておこうか」



 そう言って歩き出したアイルの手を掴む。これを聞いていいのかと躊躇ためらったが、聞かないという選択肢はねぇ。

 覚悟を決めて口を開く。



「まさか……失恋の相手ってじいさんじゃねぇよな?」



 そう聞いたらアイルは苦笑いしながら否定した、どうやら本当に違うらしい。

 オレの知らないところで男と知り合ったりしてねぇよな?

 不安になりつつ更に問い詰めると、アイルはオレには関係ねぇって言おうとしやがった。



 何度も好きだと言ってるのに関係ねぇのか……?

 恋人じゃなかったら知る権利もねぇって事なんだな。

 結局オレには教えねぇと言い捨てて家の方へ走って行っちまった。

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