第173話 計略 [side エドガルド]
ウルスカに帰って行くアイルを見送った余韻も消えたある日、再びアイルがトレラーガに来るとの報告が入った。
冒険者ギルドには『
以前からいつか屋敷に泊まって貰おうとアイルに似合う家具を少しずつ準備していたが、どうにか夜に2人だけでお酒を飲む為の作戦を考えねば。
この手の裏工作は昔の仕事でよくやったから問題は無い、残った仕事をサッサと片付けて作戦を練ろう。
月夜の雫亭や彼等の行きつけの酒場で好んでいる酒や食事を聞き出したし、計画は完璧だ。
そして待ちに待った日、本当はずっとアイルを膝の上に乗せて2人きりでお茶を飲みながら談笑したい気持ちを抑えつつ、簡単な挨拶だけで執務室に戻った。
ここでガッついたりしたらあの獣人を筆頭に仲間達が警戒するだろうからな。
しかし仲間達と一緒でなければアイルが泊まりに来てくれる事も無かっただろう、落ち着け私、焦って作戦を失敗するなんて事は許されない。
料理人にはしっかり指示をしたし、酒の準備も完璧だ、アイルの部屋に訪問する理由もあるし問題は無い。
アイルだけ離れた部屋にすれば警戒されると思い、ビビアナという女もアイルの隣り部屋にした、男共と部屋を離したのは普段使ってる宿屋に近い雰囲気で落ち着く様にという気遣いと言い張れば信じるだろう。
長い…、アイルに会える夕食までの時間が凄く長く感じる。
明日の朝遅くなっても大丈夫な様に明日の分の仕事も殆ど片付けてしまった。
そしてやっと夕食の時間になり食堂で待っているとワンピースに着替えたアイルが来た、冒険者姿も良いがこちらも良い。
挨拶を交わして着席を促す、当然アイルは私の隣だ。
さぁ食べてくれ、お酒を飲まずにはいられない料理達を!
給仕の者達にはグラスが空いたらドンドン酒を注ぐ様に言ってある、最初は警戒していた様だが酒が入る内に止まらなくなっていった様だ、計算通り。
アイルは恨めし気に食事を口に運びながら仲間達が酒を飲む姿を見ていた、ふふふ、我慢する姿も愛らしい、後で飲ませてあげるから待っててくれ。
食事が終わる頃にはアイルの仲間達は酔って部屋に戻って行った、もうこれで今夜は部屋から出て来ないだろう。
今頃アイルは風呂に入ってるのだろうか、風呂から出たら私の準備したあの夜着を身に纏って…、ああっ、ダメだ、想像しただけで…!
女性の風呂は長いのだ、私は色々スッキリさせる為にシャワーを浴びに浴室に向かった。
ふぅ、昂りを鎮めた事だし、紳士的にアイルに対応出来るだろう。
食事を済ませた2時間後、私は準備していた口実と共にアイルの部屋を訪ねた。
ドアを開けてくれたアイルは私の準備したガウンを身に纏っていた、この中にはあの夜着を着ているかと思うと…、ダメだ、落ち着け、紳士的な態度でないと追い返されてしまう、アイルが自分に言い訳出来る様に説得しなければ。
「ああ! やっぱり凄く似合うじゃないか、…っと、さっき1人だけ飲めなかったから寝酒を差し入れに来たんだ。それくらいなら仲間達も煩く言わないだろう?」
興奮しかけた自身を落ち着かせ、表面を取り繕いながら話を続けたが、アイルは迷っている素振りを見せた。
「あ~…、う~ん、どうかなぁ…」
しかし私の持っている酒瓶をチラチラ見ながら悩んでいるところを見るともうひと押しだろう。
「前に宿でアイルが気に入っていた酒を他の酒とブレンドして更に美味しくなる様に開発したんだ、だから1杯だけでも試しに飲んでみてくれないか?」
下手に出て懇願されると弱いと調べはついている、ここで強引な態度は禁物だ。
「う~ん…、1杯だけね…?」
「飲んでくれるのかい? ありがとうアイル! ではコレをどうぞ」
心の中で信じてもいない女神に感謝を捧げつつ、持っていたトレイを手渡した。
夕食を酒が飲みたくなる様なメニューにして正解だった様だ、思ったよりあっさりと誘惑に負けてくれたのだから。
アイルには私も一緒に、とはひと言も言っていない、故にアイルは私がすぐに去ると考えてトレイをテーブルに運ぶだろうと計算したが、アイルはその通りの行動をとった。
アイルが背を向けた瞬間気付かれない様に部屋へと身体を滑り込ませ、音を立てずに鍵を掛ける。
この辺りの行動は昔受けた訓練の賜物と言えよう、テーブルにトレイを置いてアイルが振り返ったと同時に私は椅子に座った。
「エ、エド? もしかして一緒に飲むの?」
戸惑った様子ではあるが、私をすぐに追い出そうとはしなかった。
それならば私がここに居る口実があれば一緒に飲める、勝利を確信しつつ紳士の仮面を被ったまま笑顔でそれが当たり前の様に答える。
「はは、感想を聞かせて欲しいからね。アイルが眠る時には出て行くから安心して欲しい」
「まぁ…それなら…」
裏を返せば今夜は眠らせない、という意味なのだが、アイルは私の言葉を素直に受け取った様だ。
アイルの返事を聞く前にグラスに氷とお酒を入れる、グラスに注いでしまえば1杯だけ一緒に飲みたいというお願いをアイルは断らないだろう。
「さぁどうぞ」
「ん、いただきます…コクン…コクコク…お、美味しい…!」
嬉しそうにつまみを食べて飲むアイルはとても愛らしい、街中のバーテンダーに思わずお代わりしたくなるブレンドを研究して欲しいと上位3位に賞金を出した甲斐があるというものだ。
氷だけになったグラスを少し悲しそうに見つめるものの、お代わりをしないアイルに声を掛ける。
「おや、お代わりはいいのかい? もう寝るだけなんだし、もう1杯くらい大丈夫だろう?」
「でも…、だけど…、美味しいし…、怒られる…、まだ2杯…、あと半分だけなら…」
「じゃあお代わりは半分だけにしておこうか、それくらいなら大丈夫だろう?」
先日のバーの様にあの獣人に怒られる事を心配しているのか葛藤しているアイル、ポソポソと「半分だけなら」と言ったのを聞き逃さず、サッとアイルのグラスを手に取り半分より少し多めに酒を注いだ。
「あ…っ」
「ほら、もう注いでしまったから」
「しょ、しょうがないなぁ…」
ニッコリ微笑んでグラスを差し出せば、言葉とは裏腹に嬉しそうに受け取りグラスを傾けた。
既に肌が上気し、ほんのりと色付き、黒曜石の様な瞳も潤んで酔っているとわかる。
あの言葉をもう1度アイルの口から聞きたい、そう思い覚えてないフリをして尋ねた。
「そう言えばアイル、前に言ってた…私を酔わせて…なんだったかな?」
「はぁ、美味しかったぁ。 あぁ、私を酔わせてどうするつもり?」
その言葉を聞いた瞬間、今度こそ理性の鎖が切れたと思った、アイルをベッドに運ぶと四つん這いの状態で覆い被さりアイルを見下ろす、片方だけ脱げたスリッパがまた唆る。
夢にまで見たこの状況に私の下半身は落ち着きというものを無くし、出番はまだかと主張した。
「こうするつもりだと言ったらアイルは怒るかい? 本当はずっと一緒に居たい、側でアイルの笑顔を見ていたいんだ、アイルが愛しくてどうにかなりそうなくらい…」
何が起こっているのか理解していない事を知りつつ、吸い寄せられる様に首筋を唇で優しく喰み、同時にガウンの結び目を解こうと手を伸ばした。
しかし、次の瞬間思いもしない声というか、言葉がアイルの口から出た。
「ぁひゃひゃひゃひゃひゃ! うひひひひ、くすっ、擽ったいよぅ! ぃひゃひゃひゃひゃ」
何故だ!? この状況でこんな風に笑った者は1人も居なかった、子供でも最初は怯えていても段々快楽に染まっていったというのに、何なんだこの状況は!?
驚いた私が身体を離すと擽ったさに身を捩って暴れたアイルの脚が興奮冷めやらぬ状態の私の下半身に直撃した。
「ぐぅ…ッ」
ベッドから滑り落ちる様に床に両膝を着いて蹲っていると、ふいに肩に何かが当たって顔を上げた。
「あははは……ふぅ、くすぐったかった。ダメじゃないエド、わたし…いぬはすきだけどかいぬしにきばをむくよーなだけんはいらないの。わたしの
酔いが回って来たのか据わった目で私を見下ろしながら肩を踏みつけているアイル、衝撃で元気を無くした下半身が再び熱くなる。
しかもガウンの紐が解けて中の夜着が見えているから余計だ、ああ、やはり似合う。
「済まないアイル…、君があまりにも魅力的過ぎて理性を失ってしまった様だ。私もお酒を飲み過ぎたのかもしれないな…、今度こそ忠犬になるから今回だけ赦してくれないか?」
酒は殆ど飲んでいなかったが酒に関して怒られていると言っていたアイルなら赦してくれるかもしれない、反省の意を示すフリをして肩にある足の甲に口付けた。
「ひゃぁっ! わ、わかったから! おさけのしっぱいはだれにでもあるからね! でもつぎはないからね!? もうねるからでてって!」
「赦してくれてありがとう、お酒は置いていくから飲んでくれてかまわないよ、おやすみ」
最後に可愛い声も聞けたし、引き際はここだと判断して部屋を出た。
翌朝、朝食の時にはいつも通りだったので酔って記憶を無くしたのかと思ったが、屋敷の玄関で見送った際にハグをしたらほんのり頬を染めていた、もしかして男として少し意識して貰えたのだろうか。
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