第174話 朝の自分反省会

 朝起きた時、身体を起こして昨夜の出来事を思い出そうと顳顬を指先でグリグリと揉んだ。

 エドが来て一緒にお酒を飲んだ、凄く美味しくてついお代わりを飲んじゃって…、その後エドに襲われかけた様な…。

 いや、エドを踏んだ気もする、足にキスされたのは夢?



 どこからどこまでが現実で夢なのか怪しい、とりあえずガウンの前ははだけてるけど下着も乱れて無いし、旅館で浴衣で寝て起きたら前面に帯しか無いとか珍しく無いから気にしない、襲われたところから夢なんだろうか。

 ヤダ、まさか欲求不満でそんな夢見たとかだったらどうしよう、確かに出迎えてくれたエドはピシッとしててカッコ良かったし、部屋を訪ねて来た時はお風呂上がりなのか妙に良い匂いで艶かしい雰囲気だったけれども!



 鍵は…閉まってるよね、て事は私が自分で閉めたって事だ。

 お酒は…あ、小さめの瓶とはいえ空になってる、3杯以上飲んでるから覚えてないのか、エドが部屋を出て行った映像は何となく覚えてるけど。

 うん、て事は酔ってても記憶無くす前にちゃんと1人になってたって事だよね、その後記憶無く程飲んだって訳だ、だけどそうなると襲われかけたのは夢だったって事に…!



 よし、落ち着こう、むしろ夢で良かったって事で。

 ホセやリカルドにバレたら間違い無く説教される状況なわけだし、夢だったら怒られる必要は無いって事だもんね、前向きに考えよう。



 軽く部屋を整えて着替えを済ませる、このナイトウェアはどうすべきか。

 置いて行ったらまた来るって意思表示になっちゃうかな?

 でもあげるって言われてないのに貰う訳にもいかないし…。



 とりあえず置いておこう、アルトゥロが朝食の時間に呼びに来た時に聞けばいいか。

 冒険者の服に着替えると気分が引き締まる、後は防具を着けて荷物を持ったらすぐに出られる状態だ。

 暫くしてからノックの音が聞こえてドアを開けると、アルトゥロと皆が揃っていた。



「おはようございます、朝食の準備が出来ましたので食堂へご案内します」



「おはよう、皆もおはよう」



「「「「おはよう」」」」



 挨拶を交わして昨日と同じくアルトゥロについて行く、そして途中でエリアスがクスクスと忍笑いを漏らした。



「どうしたの?」



「あ、いや、さっき見たビビアナの部屋とアイルの部屋の違いが凄かったなぁって…ククッ」



「ビビアナの部屋見たんだ、上品でセンス良い部屋だよね~」



「あ、ありがとうございます」



 突然アルトゥロがお礼を言って来た、首を傾げると肩越しに振り返って照れ臭そうにアルトゥロが家具を選んで揃えたと教えてくれた、私の部屋もアルトゥロのチョイスが良かったなぁ。

 泊めて貰ってる立場なんだからそんな文句は言えないけどね、あとエドが自ら私の為に見つけて選んだって言ってたし。

 食堂には凄く機嫌の良いエドが待っていた、既に食事が並べられていて良い匂いが食堂内に漂っていて皆はいそいそと席に向かう。



「やぁ、おはよう。朝からアイルの顔を見られて嬉しいよ、これからいつでも泊まりに来てくれていいからね、いつ来ても大丈夫な様に整えておくから連絡無しでいきなり来ても歓迎するよ。部屋の夜着は気に入ったら持って帰ってくれて構わないし」



「あら、貰っていいの? 凄く着心地が良かったから嬉しいわ」



「はは、次に来る時は別の物を準備しておくからどうぞ。アイルも私が選んだ夜着を愛用してくれたら嬉しいな、ああ…しかし…、彼らの前ではガウンを脱がないと約束してくれるかな?」



 彼ら、と言ってリカルド達3人をチラリと見た。



「アレは1人の時しか着れないよ…、ちょっと可愛過ぎるもん」



 どうやら持って帰った方が良いらしい、ビビアナも同じデザインって事は無いよね?

 ビビアナが着たらデザインと身体つきのギャップで逆にエロ過ぎると思う、後で見せてもらおう。



「アイルに似合うと思って買ったからデザインが可愛い過ぎるなんて事はないだろう、むしろ似合い過ぎるくらいさ」



「あはは…、ありがとう?」



 私とエドの遣り取りにホセとアルトゥロが苦虫を潰した様な顔をした。

 バターの効いたパンの塩気がわからなくなりそうな甘い雰囲気を醸し出すエドに乾いた笑いしか出ない。



 朝食後に屋敷を出る時、仕事があるからと玄関でエドが見送りに来た。

 自然な動作でハグされる、その時したエドの香りとハグの感触で昨夜の夢だと思ってた事が実際にあった事だと確信した。



 ちょっと待って、ていう事は押し倒されたりエドを足蹴にしたのって現実って事で…!

 羞恥で頬が熱くなる、お酒のせいでやらかした的な事を言っていた気がするからとりあえず朝チュンしてなくて良かったと心の底から安堵した。



 エドと2人きりダメ、絶対。

 そんな言葉が脳裏を過る、もういっそ貴族みたいに仲間以外の異性と2人きりになったら恋人以上の関係じゃなきゃ許されない、くらいのつもりでいよう。

 エドの屋敷を出て王都方面の門前広場に到着すると、既に全員揃っていた。



「もうっ、遅いよ!?」



「ごめんごめん、おはようガブリエル」



「おはよう、時間通りだから大丈夫だぞ。ガブリエルさんが今朝早くから起きてソワソワしてただけなんだから」



 馬車の前で仁王立ちしてたガブリエルが私達を見るなりプリプリと怒ったので素直に謝る、が、御者のおじさんの言葉で私達からジト目を向けられガブリエルは目を逸らす。

 ガブリエルにひと言言おうとしたが、その時掃除屋ギガント・コックローチ素材の防具を着けた冒険者が側を通ったので私は馬車に飛び乗り、早々にトレラーガを出発した。

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