第192話 戦い終わって日が暮れて
治癒師のフェルナンは言葉や態度こそ柔らかいが、魔力切れ寸前まで私をコキ使う中々の鬼っぷりだった。
うん、わかるんだよ、痛みで夜もまともに眠れず呻いてる怪我人を早く治してあげたいって私も思ってけどさ。
トイレの前で用を足すのを待ってるのとかどうかと思うのよ、子供じゃないんだから逃げ出したりしないっての!
どうも見た目に騙されてるのか子供扱いされてた気がする。
しかも夜には祝勝会と称して酒盛りしてる声が遠くから聞こえて来る中で治癒を頑張ったんだよ!?
2日目の祝勝会に1日くらい参加したいとフェルナンに泣きついて飛び入り参加してたら食事を持って来てくれた『
私が我慢してるからと3人も酒盛りに参加してなかったらしい、労おうと食事を持って行ったら治癒場に居らず、酒場でジョッキをマイク代わりに歌いながら歩き回って順番に冒険者達と握手する度に頭を下げていたという、ディナーショウか。
ちなみにその時歌っていたのはどうやら
そんな事もありつつ氷漬けにした魔物も少しずつ解体して住人や冒険者に分けたいからって数回に分けて魔法解除したりと結構忙しくしていた、が。
やっと私がやらなきゃいけない事が無くなったので高級宿屋でゴロゴロさせてもらってます。
エルフの2人が手伝ってくれたらもっと早く楽になれたんだろうけど、報告書書くのに忙しいとかで騎士団の宿舎から出てこなかったらしい。
ちなみにどうして私の現在地がテントじゃないのかというと、ガスパルが言うには私の事を嗅ぎ回っている人達が居るらしく、今回のMVPだし賢者だしって事で特別措置として秘密裏にパーティごと宿を用意してくれたのだ。
宿屋としても早々に大氾濫を鎮めて貰ったお陰で予定より早く客足が戻る上に、賢者が泊まった宿として箔がつくと歓迎してくれた。
ちなみに私達が宿に移動した時点で公園に張られたテントは半分以下に減っている。
何故なら目立った活躍をしていない冒険者達は当初の報酬と申請して受け取った肉を持って各々ホームへと帰って行ったからだ。
元々カタヘルナで活動していた冒険者はテント生活はしてなかったしね。
パメラは私達と一緒にパルテナに帰るんだとゴネていたが、結局昨日『
エスポナ周辺を転々としながら活動していると言っていたから帰る時に会うかもしれない。
ちなみに私というか、『
知らない人は私のおこぼれで仲間が良い思いしてるって言っているが、実際乱戦中にフォローしてもらったり助けられたという人は多い。
特に広い視野を持ってるSランクの冒険者はビビアナの的確な射にも気付いていたらしく、見る目の無い奴らの言う事は気にするなと声を掛けられたとか。
ビビアナが美人だから態々言いに来たっていうのもあるんだろうなぁ、実際男性陣にはSランクから声は掛けられていないらしいし。
何はともあれ、『希望』に対して大幅に報酬の上乗せが必要な為、計算するのにも報酬を用意するのにも時間が掛かるとの事なのでこうしてゴロゴロしている。
早く帰って来ないかな、出掛けて1時間くらい経ってるからそろそろだと思うんだけど。
ソワソワと窓の外を見ていたら急にドアが開いた。
「おい、そんな窓辺に居たら見つかっちまうぞ」
「ふふっ、退屈よねぇ。この辺りでよく見かけるローブ買って来たからフード被れば少しくらい出掛けられるんじゃない?」
「わぁっ、ありがとうビビアナ!」
大量の食材と私サイズのローブを持ってホセとビビアナが客室に帰って来た。
この部屋はお貴族様用で従者が使える様にミニキッチンもあるので暇潰しに帰りの食事を作るつもりだ。
リカルドはギルマスのガスパルに呼び出されてるし、エリアスは情報収集で住人(のお姉さん)に声を掛けてカフェでお茶しながら話を聞いて来るらしい。
スタンピード終息の夜はテントも別々だから男性陣が何処かへ行っててもわかりませんよ、翌朝3人共妙に寝不足の顔してたのとかどうでも良いけど、ほぼナンパしてるエリアスはまだ戦闘の興奮が冷めてないんだろうか。
エリアスの事はまぁいいや、それより寸胴鍋1つ分無くなったカレーの補充をしよう。
煮込み時間を利用して移動中に残数ゼロになった軽食も。
カタヘルナのパン屋さんにもちゃんと柔らかい食パンが売っていたのでシンプルなサンドイッチを作っておく。
BLTはいくら好きでも皆食べ飽きてきたので1年程封印しようという話になっていたりする。
1時間程掛けてカレーは完成した、サンドイッチもそれなりの数出来たけどまだ足りないだろうなぁ。
屋台で美味しそうな物を探して買っておいても良いかもしれない、カレー鍋はそのまま寝かせておいて買って来てくれたローブを羽織って外に出た。
薄手のローブだけど気候が気候なのでどうしても暑い、2人も一緒に行くと言ったけど、美形な私の仲間達はしっかり顔を知られているので私が顔を隠しても一緒に居たら意味が無いので1人でお出掛け。
美味しそうな匂いに釣られて買い食いしつつも色々買い漁って宿屋に戻ると、冒険者とわかる男達に声を掛けられた。
「あんた…賢者だろ? ここは賢者の仲間の獣人が入って行った宿だしよ、なによりその身長だから間違いねぇ」
何だか厳しい顔をしてはいるが敵意とか殺意、媚びを売ろうとする気配も無いので振り返った。
「だったら何?」
「何で…もっと早く来てくれ無かったんだ、さっさと賢者だって名乗り出て最初から居てくれりゃアイツは死なずに済んだはずなんだ…! あんたを恨むつもりはねぇけど…、どうしても納得いかねぇんだよ!」
どうやら私達が到着する前に仲間が魔物にやられて亡くなった様だ、やり場の無い怒りと悲しみで本人達もどうしたら良いのかわからないのだろう。
「私達が遅く来たんじゃなくて予測より早く大氾濫が始まったの、仲間が亡くなったのは可哀想だけど、私が居ても即死だったら助けてあげられないんだよ? それに名乗り出たらどうなるかわかる? 色んなところから「ここに賢者が居ると聞いて来た、すぐに呼び出せ!」
宿屋に高そうな服を着たおじさんが入って来たと思ったら、いきなり大声でそんな事を言った。
「ああいう輩が湧き出て来るのよ」
冒険者達は気不味そうに顔を見合わせ、私に絡んだ事を謝ってそっと帰って行った。
私もそっと部屋に戻ろうとしたら泣きそうな顔の従業員と目が合ってしまい、そっとため息を吐いた。
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