第301話 獣人の国ビルデオに行こう

ワクチン副反応が思ったより全然軽かったので今日も更新しました ( * ´ 艸`)


◇◇◇


 それから暫くはホセとビビアナがマザー達に聞いて知っているホセのお母さんの話をした。

 教会裏の墓地にお墓があって、ホセがリカルド達とパーティを組む時に拠点を変えたくない理由の1つだったらしい。



「しかし…、こうなるとビルデオに行くのはやめた方が良さそうだな」



 リカルドがうかがう様に私を見た、明らかにゴネると思われている。

 しかし下手したらホセの命に関わるんだから、私の我儘でそんな危険にさらしたりしないよ!?



「ビルデオに行くのか? まぁ…、王城に乗り込んで継承権を主張しない限り大丈夫だとは思うが…。ホセは瞳の色以外陛下に似てないし、街中を陛下の匂いを知ってる者がうろついているなんて事も余程無いだろう」



「それなら行ってみてぇな、お袋が産まれた育った所を1度見てみたいとは思ってたから…」



「ふふふふ、ホセは賢者である私が仲間だという事に感謝すべきだよ! 『幻影イリュージョン』」



 私はホセのケモ耳と尻尾を猫に変えた、やだ、コレはコレでアリかもしれない。



「あ、いや…、賢者…殿? 我々獣人には匂いで種族がわかってしまうのですぐにバレる…というか、むしろ見た目と匂いが違うので逆に怪しまれるかと…」



 ベルトランから知らされた事実にショックを受ける私。



「く…っ、『魔法解除マジックリリース』」



「あの、しかし色を黒などに変えられるならば安心かと。顔立ちが似ていてもチャルトリスキ家に黒い毛並みの者はおりませんし、陛下の家系も違いますから」



「それだ!! 『イリュー…「待て、今掛けてどうすんだよ。ビルデオに入る前で良いだろうが」



「チッ」



「ああ゛!?」



 黒ホセを見てみたかったので止められた事に対して小さく舌打ちしたら凄まれた。

 これだから耳の良い獣人は困っちゃうよね。



「ははは、もし王都まで行くというのなら頼まれてくれないか? 私が行くとここに戻って来れなくなる可能性が高いし、下手に手紙を出してもここの事を知られると思って諦めていたんだが…、父に手紙を届けて欲しいんだ」



「リカルド、王都まで行くか?」



「ふっ、行きたいんだろう? それにホセの伯父の父親という事はホセの祖父という事だしな」



 ホセが聞くとリカルドはビルデオの王都まで行くと決めた様だ、私は内心両手の拳を天に突き上げる。

 そんな気持ちを見透かした様にエリアスが口を開く。



「良かったねぇ、アイル?」



「今回は私じゃなくてホセでしょ? ちゃんと護ってあげるから安心してね!」



「……お前が張り切るとろくなことが起こらないと思うのはオレだけか?」



 ジトリとした目を向けるホセと頷く仲間達、私への信頼度が酷くない!?

 傷付いた私を尻目にホセ達は話を続け、手紙を預かっていた。

 私の心の傷を癒すにはセルヒオの頬擦りが…と訴えたが、ホセに無言で馬車に押し込まれた。



 ここからビルデオに入るだけなら1日で到着するらしい、教会本部へ行く時に通った大河へ流れ込む支流をまたいでいる橋を越えればそこからビルデオなのだとか。



「タリファスと逆で人族が蔑まれたりして」



「あ~…、変わってないなら弱い人族に対してはそうかも。昔は人族の方が劣等種だと言う獣人が多かったかなぁ、だけど力を示したらそんな事言ったりしないから安心して。やっぱり強い者には従うっていう本能が働くみたい、80年くらい前の話だけど」



 エリアスの呟きにエンリケが答えたが、情報が古過ぎる。



『ねぇ、キャンプ場が見えたけどここで休憩する?』



 御者をしていたビビアナが声を掛けて来た。



「ああ、そこで休憩したら橋を渡って次の町で泊まる予定だ」



「じゃあそろそろホセに幻影魔法掛けないとね! 『幻影イリュージョン』……おお」



「何だよ」



 思わず漏れた声にホセが怪訝な顔をした。



「だって色変えるだけでかなり雰囲気が違うんだもん」



 何というか、エキゾチックになった。

 東洋人とは彫りの深さが違うので例えるならアラブの王子様的な…、しかもリアルじゃなくて少女漫画に出て来そうな感じの…でもそこまで品が無いからなぁ。



「何だか黒いと女を喰い物にしてるダメな男みたいな色気があるね。ただれた生活してそう」



「「「あ~…」」」



 エンリケの言葉に私達は思わず納得の声を漏らして頷いた。

 冒険者の格好のせいもあってアウトローな感じがするから余計にそう見えてしまうのだろう。



「お前らな…」



 ホセが顔を引き攣らせたところで馬車が止まった。



「さーて、休憩休憩」



 エンリケがそそくさと逃げる様に馬車を降りて行った、ずるい!

 馬車を降りると数組の先客が居た、ほぼ獣人という眼福なキャンプ場である。



「ちょっとお話し聞いてくるね!」



「ちょっと、アイル!?」



 エリアスに引き止められる前に私はストレージからサーターアンダギーの入った紙袋を出して冒険者らしき5人組に近付いた。



「こんにちは、お兄さん達ビルデオから来てるの?」



「ああ…、何か用かい? おチビさん」



 揶揄からかう様にニヤニヤしながら返事したのはゴリラ獣人っぽい人。

 普段ならおチビさんなんて言われたら怒るところだけど、情報収集したい今は子供と思って貰った方が都合が良い。



「うん、私達今日初めてビルデオに行くからどんな国か教えてもらおうと思って…。あ、コレ私が作ったお菓子だけど食べる?」



 紙袋を開いて1つ取り出し、目の前でかじると興味を持ったらしく全員手を伸ばした。

 普通の輪っかのドーナツよりザクザクとした歯応えのあるこっちの方が獣人好みなのはホセからリサーチ済みなのだ。



「うめぇ! 食べ応えがあっていいな!」



「でしょう? ふふふ、情報料として残りもあげる」



「おう、ありがとな。ビルデオはまぁ…住みやすくはあるぜ? ただ王様がなぁ…、獅子獣人じゃねぇからって言う事聞かねぇ家臣が多くて苦労してるってのは有名だな。これで有能じゃなけりゃとっくに王太子に譲位させられてただろうって言われてるぜ。後は…そうだなぁ、おチビさんみたいな人族が裏路地に入ったら危ねぇから絶対に大通りから外れるなよ?」



「わかった! ありがとう!」



「お? これだけでいいのか?」



「うん、じゃあね!」



 どうやらホセのお父さんは苦労している様だ、王城には行かないから会う事は無いだろうけど何か力になれる事があると良いなぁ。

 私達の会話はホセにも聞こえていたらしく、表情が険しくなっていた。

 そんなホセを心配していたというのに、早速約束を破って1人で獣人に近付いたとホセに頭を捕まれてお仕置きされたのは私だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る