第144話 タリファスの図書館

 ギルドに到着するとテディの元主人とその仲間達が居た、そして私達を見るなり指を差して騒ぎ出し、ギルド職員に訴えている



「あっ、あいつらだ! あのガキが俺の奴隷を殺しやがったんだ!!」



 その言葉に周りの冒険者達が騒つき始め、男と私達を囲む様に空間が出来た。

 私はリカルドの袖をクイクイと引っ張り、周りにも聞こえる様に質問する。



「ねぇねぇ、奴隷って道具扱いなんでしょ? 人が討伐した獲物を横取りしようと嗾けられた奴隷を壊しても罪にはならないよね? だって嗾けてきたアイツが悪いもんね?」



「まぁそうだな、大前提として獲物の横取りは御法度だからな」



 男を嘲笑う様な声が周りの冒険者達から聞こえ、男は顔を赤くしてプルプル震え出した。



「ちっ、違う! アイツらが俺達の獲物を横取りしようとしたから取り返そうとしただけなんだ! ずっとここで冒険者としてやってきた俺達と余所者とどっちを信じるんだ!?」



 普段から素行が悪かったのだろう、半数はヒソヒソと懐疑的な目を向けている。

 この男を言い負かす手札を私は持っている、リカルドを見上げてニッコリ微笑むと意図を理解したのか苦笑いしつつ頷いた。

 そして私はおもむろに黒猪ブラックボアを皆の前に出した。



「さて、コレはあなたが横取りしようとした黒猪だけど、あなたはコイツをどうやって討伐したと言うの?」



「そ、そんなのあの奴隷の矢に決まってんだろ」



 男はチラリと黒猪についている眉間の傷を見て言った、確かに傷が小さいから矢傷だと言い張れば通じるだろう。

 私は軽く肘を曲げてから振る様にして伸ばし、ストレージから棒手裏剣を手に出現させた、この動作で腕に仕込んだ暗器を出したと思わせるのだ。



 揃えた指と指の間の窪みにある棒手裏剣を親指で抑えた状態で、棒手裏剣の切っ先を男の眉間に向けてピタリと止める。



「ふぅん、だったらあなたの眉間にも同じ傷をつけて傷口を見比べて貰いましょうか? そうすればどちらが正しい事を言っているかわかるでしょう?」



 コテリと首を傾げて言い、ダメ押しに勝ち誇った様にニコリと微笑んだ。

 周りの冒険者からは「本気か」とか「さっき奴隷を殺したのを壊したって言ってたぞ」とか良い感じで男の恐怖を煽る様な言葉を囁いてくれている。

 さりげなくエリアスが「相変わらずアイルが丁寧な言葉遣いすると怖いね」って言ってるし。



「う…、ぐ、…おっ、覚えてろよッ!?」



「あはは、そっちこそこの顔を覚えてなさい、次に見たら人生最後の日になるかもよ!」



 余程怖かったのだろう、男達は人混みに紛れる様にしながら身を隠してギルドから出て行った。

 その背に冒険者達からの嘲りのヤジを飛ばされてながら。



 まだ騒ついている中、再び黒猪を収納して解体場に向かうリカルドの後を追った。

 ここの王都は解体場へ直接持ち込んで依頼札クエストカードに依頼品を受け取ったサインをしてもらう、そして解体場の出入り口で依頼札と引き換えに報酬を受け取るスタイルなのでとてもスムーズだ。

 是非ともパルテナのギルドも同じシステムにして欲しい、ウルスカに帰ったらギルド長のディエゴに提案してみようかな。



 お持ち帰り用の黒猪の解体は暫く時間が掛かるので引き換え札を私が預かり、皆には先に宿屋に帰って貰って私は1人図書館へ向かった。

 2時間くらい待つのでドラゴンの本を読むのに丁度良いと思ったのだ。



 図書館は入館するのに大銅貨1枚、帰りに返却される保証金として大銀貨1枚が必要になるので裕福な平民か貴族しか来ないらしい。

 そのせいかあからさまな冒険者スタイルの私が入館受付をすると周りから好奇の視線が向けられた。



「ではこちらが入館証です、退館する時に返却して頂くと本の破損などなければ大銀貨をお返し致します。お探しの本がございましたら中に居る司書にお声掛け下さい」



「わかったわ、ありがとう」



 受け取った入館証から魔力を感じる、鑑定で本を破損させたか記録される魔導具だとわかった。

 この世界ではまだ手書きの本が多いので大切に扱われているのだろう。

 司書に声を掛けてこの地域のドラゴンの逸話の本を出して貰って受け取る、その時妙に微笑ましい目で見られたのは気のせいだろうか。



 本によるとドラゴンは実在してとなっている、魔導期以前はほぼ神様扱いで崇め奉って被害を出さない様に言いなりになっていて、魔導期に入ると強大な力を持った魔導師や魔法剣士が誕生し、ドラゴンは素材として狙われてほぼ絶滅した。



 残ったドラゴンというのは人と恋に落ちて人化した姿で一生を終えた為、ドラゴンと気付かれて無かったか、伴侶が亡くなった時点で山脈の頂にあるドラゴンの巣に隠れ住んで今も伴侶を偲んでいると言われているそうだ。



 本にはドラゴンと人の間に産まれた竜人と呼ばれる新しい種族が密かに存在し、竜人は身体のどこかに鱗があってエルフの様に若い姿で永く生きるという。

 放浪癖のある者が多いが、それは人族と同じ見た目で若い姿のままなので竜人だとバレてしまうせいだという事、そして最後にはもしかしたらあなたも知らない内に竜人に会っているかもしれない、という心躍る締め括りだった。



「はぁ~、面白かった!」



 ちょっと分厚めの文庫本くらいの本だったので、丁度2時間程で読み終わった。

 作者がタリファスで聞いて回って仕入れた村や町で実際にあった話という言い伝えで人化したドラゴンと人族の恋バナにはかなりキュンキュンさせられた。

 この作者恋愛小説書いてもきっと売れたと思う。



 本を片付けに行ったら、この本を探してくれた司書さんに「楽しんでいただけた様ですね」と笑われてしまった、読みながら百面相をしていたらしい。

 もう来ないとは思うけど、そんな恥ずかしい姿見られてたなんて2度と来れないよ!



 逃げる様に図書館を出て、解体してもらった黒猪をギルドで受け取って宿屋へと戻った。

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