第41話 酒は飲んでも飲まれるな

 ………狭い? 何で?

 顔は温かいものにくっついていて、上からシーツを掛けられているのかな?

 温かいもの………もしかして人肌!?



 自分の状態がわらからず動揺して身じろぎすると、頬がぺちゃっと濡れている事に気付く。

 うわ、これ私の涎だ、うつ伏せに顔をくっつけていたから付けちゃったみたい。



 半分寝ぼけつつ袖で拭き取り証拠隠滅、それにしてもシーツを被せられた上から押さえつけられてるのかな?

 視界には人肌と布しかない、まさかパーティの誰かとヤっちゃったなんて事無いよね!?



 恐ろしい事を考えたせいで一瞬にして目が覚め、ブルブルと頭を振る。

 あ、考えてみれば私服着たままだった、自分の涎を拭き取った袖を見てホッと安堵の息を吐く。



「ふっ、はははっ、くすぐったいからいい加減出てこい、アイル」



 あれ? この声リカルド?

 腰を掴まれ下に引っ張られた、何故か私は向かい合わせで抱きしめられていた様な状態でシーツでは無くリカルドの服の中に潜り込んでいた様だ。



「え~と…? 私何でリカルドの服の中で寝てたの?」



 服から抜け出し、向かい合わせでリカルドの脚に跨ったまま首を傾げた。

 すると隣からブホッと吹き出すエリアスの声が聞こえた。



「あはははは、アイル昨夜の事覚えて無いの!? ホセもビビアナも可哀想~!」



「あら、あたしはアイルが可愛いかったから別にいいわよ?」



 振り返ると3人掛けソファに寝転んだビビアナがクスクス笑っていた、どうやらリビングで酒盛りしてそのまま寝てしまった様だ。



「可哀想って…、私何かしたの?」



「本当に知りたい…?」



 エリアスがニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべるせいで聞きたいけど聞きたく無い…。

 その時リビングのドアが開いた。



「おはよう……、アイル…起きたか…。昨夜の事覚えてるか?」



 何だかホセの尻尾や耳も含めて毛艶が悪くなっている、まるで家の前が道路工事でうるさかった間の空みたいに。

 空はストレスでなってたみたいだけど、まさかそんなストレスが掛かる様な事やらかしたんだろうか。



「ご、ごめんね…? 覚えてないの…」



「は~…、お前今度から酒は少しだけにしておけよ」



 ホセは深いため息を吐きながらへたり込む様にヤンキー座りをした。

 そして指を1本立てて手を突き出す。



「まず、俺の尻尾や耳を撫でくりまわしながら「そら」って言いながら泣き出した。泣き止んで気が済んだらビビアナの胸を背後から鷲掴んで羨ましがりながら揉んでた」



 ホセは指を2本にしながら衝撃の事実を告げた。

 バッとビビアナを見るとニヤリと笑って色っぽく頷いていた、どうやらホセの言った事に嘘は無い様だ。

 そしてホセは3本目の指を立てて話を続ける、これ以上聞くのが怖い。



「その後リカルドの脚に跨って…何て言ってたっけ?」



 ホセがエリアスに視線を向けると凄く良い笑顔で教えてくれた。



「えっとね~、「ビビアナの次にけしからん胸をしているのがリカルドってどういう事!?」って言いながらリカルドの胸を寄せて谷間を作って顔を埋めてたね。それから僕に「憐れんだ目で見るなァ!」って怒ってから「今日は谷間に埋もれて寝る」って言ってリカルドの服の中に入っていったんだよ」



 自分の奇行というか酔っ払いっぷりに言葉を失って固まってしまった。



「あ、ちなみに呂律が回って無かったから多分そう言ってたって言葉だよ。僕に言ったのも正確には「あわりぇんだ目れみりゅにゃぁ!」だったから」



 エリアスが笑顔で追い討ちをかけてきた。

 クスクス笑いながらこれまでの話を聞いていたリカルドの脚からそっと降り、流れる様な動作で皆に向かって土下座した。



「大変ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでしたァ!!」



「ぐぅ…ッ、デカい声出すんじゃねぇよ。酔っ払いのやる事にいちいち怒ったりしねぇって」



 私の謝罪にホセはケモ耳ごと頭を抱えて俯いてしまった、どうやら二日酔いの様だ。

 他の3人も快く許してくれた、心の広い仲間に恵まれて私ったら幸せ者。

 ちなみに私は二日酔いになった事が無い、気怠げにしている皆の為に謝罪を込めて朝食の準備をしよう、昨日作っておいた物をストレージから出すだけなんだけどね。



「うん、ごめんね。すぐ朝食の準備するよ」



 テーブルや床にゴロゴロしている酒瓶や小樽に食器類をストレージに収納してテーブルを拭き取り食堂へと引っ込んだ。

 そして1人になって床に両手をついてへたり込む。



 酔っ払いの私ヤバい奴過ぎる!!

 リカルドの胸筋をけしからん胸って…、なんじゃそりゃあ!!

 道理で友人達が3杯までって言うはずだよ、私皆に何やらかしてきたんだろう、むしろ知る機会が無くなって良かったのかもしれない…。



 それにしてもリカルドったらお年頃の私が抱きついたまま寝てたのにドキドキどころか朝の生理現象すら起こさず、しかも微笑ましいものを見る目で見ていた気がする。

 パーティメンバーとしてはありがたい事だけど、女性としては複雑な心境だ。



 とりあえず今後は呂律が怪しくなったら止めて貰おうと心に決めておにぎり、味噌汁、玉子焼きというシンプルな朝食の準備をした。

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