第465話 お叱り

「オイ、何寝ようとしてんだよ! お前も当事者だろうが!」



 そう言ってホセは私の布団を剥ぎ取ってしまった、酷い。

 寝起きとお酒のせいで回転の遅くなっている頭を頑張って働かせて言い訳をしぼり出す。



「だって…エリアスが強引に…それに…責任取るって言ってくれたし…」



 布団が取られたのでベッドの上に座り、私の身体が半分以上隠れる大きな枕を盾にすべく抱き締めながらポソポソと言い訳する。



「「ッ!?」」



 私の言い訳に何故かホセとガブリエルが驚いた顔をした。



「ちょ、アイル! 今の言い方は問題があるよ!?」



「そんな…責任持つって言ったのは嘘だったの…? エリアスってば、私を騙したんだ…」



 夜遊びがしたいんじゃなくて私がホセに怒られる姿を楽しむ為に飲ませたのかと悲しくなって枕に顔をうずめた。



「いや、嘘じゃないけどタイミングというか、言い方というか…」



「エリアス、お前アイルに何しやがった!? オレの…知ってんだろ!?」



「いくらエリアスでもパーティ仲間にだけは手を出さないって信じてたのに!」



 ホセがエリアスの胸倉を掴み、何故かガブリエルが憤慨ふんがいしている。

 あれ? 今ホセとガブリエルが変な事を言わなかった?



「ガブリエル、手を出すって何の事? 私エリアスに何もされてないよ?」



「「へ?」」



「そうだよ! 僕がアイルに変な事する訳無いでしょ!?」



 コテリと首を傾げて言うと二人の動きが止まり、その隙にエリアスがすかさず反論する。



「けどお前…、エリアスに責任取らなきゃいけない様な事されたんじゃ…」



 呆然と呟くホセの手から力が抜け、解放されたエリアスがサッとホセから離れて私を挟む形でベッドの横に立った。



「だから僕がそんな事する訳無いってば!」



「そうだよ~、エリアスが私に色目なんて使うはずないじゃない、ビビアナにならともかく」



「「「え?」」」



 三人が同時に怪訝けげんな顔をした。



「え? そんな反応されたらむしろ私が驚くんだけど。ビビアナは誰が見ても美人でしょ!?」



「いや、美人だとは思うけど私でも『希望エスペランサ』の皆はビビアナに恋愛感情の欠片かけらも持って無いのはわかるよ?」



 ガブリエルが心底不思議そうに首をかしげ、ホセは顳顬こめかみの辺りを人差し指でポリポリ掻きながら口を開く。



「う~ん、小せぇ頃からずっと見てる顔だからなぁ…、美人なんだろうけど初対面の時からリカルドとエリアスもそういう目でビビアナを見た事無かったぜ?」



「だってさ、賢者アドルフが棘の無い薔薇は無いって美人を表す言葉を残したらしいけど、ビビアナは触ったら刺さるどころか気に入らなかったら棘を飛ばして来るタイプでしょ? その棘を笑ってかわせる猛者もさかセシリオみたいにビビアナになら刺されても良いっていうタイプじゃないと無理だよ」



 無駄に真剣な顔で話すエリアス、確かにビビアナはいばらむちとか似合いそう……じゃなくて!



「んなこたぁどうでも良いんだよ!」



 まるで私の心を読んでツッコんだかの様なセリフと共にホセの大きな手が私の頭を掴んだ。

 責任! エリアスが責任取るんだよね!?

 視線だけをエリアスに向けると、肩をすくめている。



「だっ、だからエリアスがっ、エリアスが責任取るから二杯までなら飲んでも良いよって私をそそのかしたの! だよね、エリアス!?」



「………」



 無言でジロリとエリアスを睨み付けるホセ、ちょっと、ドアの前のエルフ二人がワクワクしながらこっち見てるんだけど!?



「確かに昼間に呼び出しがあれば僕が責任持って対処するから一杯くらい飲んでも良いとは言ったよ」



「一杯?」



 ピクリとケモ耳が動くと同時にホセの眉間の皺が深くなった。



「酔っ払わなきゃ二杯でも良いって言ったもん! エリアスが呼び出されて一人になったけど、ちゃんと二杯で我慢したんだからね!? 我慢する為に寝ちゃおうと…して…」



「で、そこに私達が戻って来たって事だね」



 頭を掴まれているので頭皮の柔軟性の分しか動かないけど、ガブリエルの言葉にコクコクと小刻みに頷いた。



「待てよ、何でエリアスがアイルに酒を勧めたんだ?」



「あ~…それは「エリアスが夜遊びしたいから夜の護衛を任せたいって言ったの!」



 ホセに指摘にエリアスが口籠くちごもったので代わりに私が答えた。

 ふはははは、既に頭を掴まれている私には逃げ場が無いからエリアスを売る事に躊躇ためらいは無いのだ!



「おい、部屋の方が騒がしいって宿屋の人達が心配そうにしていたぞ。何があったんだ?」



 開いたらままになっていたドアをノックする音と共にリカルド達が戻って来ていた。



「リカルド、聞いてくれよ、オレ達が戻って来たらよ…」



 ホセは自分達が部屋に戻って来てからのやり取りを洗いざらいリカルドとエンリケにぶちまけた、もちろん私がお酒を飲んでいた事も。

 ひと通り話を聞くと、リカルドは拳を額に当てたまま数秒俯いてから顔を上げた。



「まずエリアス、宿屋に到着したとはいえ護衛任務中に酒を勧めるんじゃない。当然夜遊びも禁止だからな」



「えぇっ!?」



 やったね、まぁ私がホセに怒られた時点で契約は無効だから当然の結果だよ。

 満足気に頷いていたらリカルドがこちらを向いた。



「次にアイル、エリアスが良いと言っても依頼主のガブリエルからの許可は貰って無いだろう? 就寝時間ならともかく、こんな時間に飲むのはいただけないぞ」



「はぁい…、ごめんなさい…」



 久々にリカルドからも叱られてしまった、それもこれもあの犬も食わない二人が居なければ街の散策を楽しんでいたはずなのに。

 その後、夕食の時間に昼間の喧嘩が嘘の様にラブラブで食事を摂る二人を見かけてお酒を飲みたいと訴えた私とエリアスは悪くないと思うの、リカルドに却下されたけど。



◇◇◇


@rei-reiさんからお薦めレビューを頂きました、ありがとうございます。(*´∇`*)

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