第113話 家出の理由

 リカルドとエリアスがアイコンタクトをとり、エリアスがニッコリ微笑んで私に話しかけてきた。



「この2人は休憩が必要みたいだし、ちょっと早いけど休憩ついでに昼食にしない?」



「そうだね、わかった」



 シートが敷ける程度の木々の隙間にローテーブルと食事を並べていく。

 暖かくなって来たとはいえまだ森の中は肌寒い、今日は休養日に作っておいたカツサンドと野菜スープ、ヘルシーにおからハンバーグや蓮根ハンバーグを使ったハンバーガーも。



「んんっ、この蓮根ハンバーガーって美味しいわ! これでヘルシーなんて最高じゃない!」



「おからハンバーガーも肉だけのより美味しいかも、これで半分おからなのは言われなきゃわからないよ」



 ビビアナとエリアスが各自好きなハンバーガーを頬張りながら絶賛してくれた。


「オレは歯応えのあるカツサンドが1番だな」



「全部美味いから甲乙付け難いな」



 ホセは歯応えのあるカツサンドを集中して食べるので、今回も多めに作ってきて正解だったようだ。

 リカルドは大抵全種類食べる、そして凄く気に入った物があればリピートするタイプ。



 いつも皆夜はガッツリ食べるので、ヘルシー系ハンバーグを使ったものを出すのは今回が初めて。

 だけど好評な様で良かった、蓮根ハンバーガーの食感が楽しい、敢えて粗いミンチ状にして正解だった。

 そんな事を考えていたら背後でゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。



「あなた達も自分の食料くらい持って来てるんでしょ? そんな物欲しそうに眺めてないで食べればいいじゃない」



「物欲しそうなど…!」



 暗に私達の食料は分けないとビビアナが言うと、新人兄妹はカッと顔を真っ赤に染めた。



「だったらどうしてさっきからこっちを見てるのさ? 探索中の水や食料はお金に替えられない価値があるってくらいの常識は知ってるよね?」



 エリアスはわかっていながら正論を二人に突き付ける。



「く…っ。安心しろフェリス、マジックバッグに携帯食を持って来ている、食べるか?」



「いえ、お兄様。わたくしはまだ空腹ではありませんし、結構ですわ」



 きっと強がってるんだろうな、こんなホカホカの美味しい食事をしている横で干し肉や保存用の固いパンとか食べたら虚しいもんね。

 敢えて振り向かす食事を続けていたらクゥ~と可愛いお腹の虫の鳴き声が聞こえた。



 振り向くとそこには顔を真っ赤にしてお腹を両腕で抱える様に押さえているフェリシアの姿。

 そんな様子を見て森への移動中に立てた次の作戦に出る事にした、リカルドとアイコンタクトを取り2人に話しかける。



「しょうがないなぁ、食事は譲れないけど材料なら売ってあげるよ? どうする?」



 本当はこんな場所で調理するのは危険だけど、今は私達が居るから問題無い。

 実際今も野菜スープのいい香りを撒き散らしているけど、弱い魔物は私達の実力を感じ取って近付いて来ないし。



「わかった、買い取ろう。それで何か作ってくれ」



 クラウディオは頷いてお金の入った革袋を取り出した。



「は? 何で私が作らなきゃならないの? 自分達で作れないのなら材料売る話も無しね。知識も無い、実力も無い、準備も甘いし料理も出来ないで冒険者だなんて名乗らないで欲しいわ。そんなお遊び感覚じゃすぐに死ぬわよ?」



 態と呆れた様に言うとフェリシアがキッと睨んできた。



「お遊びなんかじゃ無いわ! お兄様はわたくしの為に…っ」



 フェリシアは言葉に詰まって大粒の涙をポロポロと零した。

 どうやらただのお貴族様の思い付きでは無く、何か事情がありそうだ。

 クラウディオはフェリシアを抱き寄せると優しく頭を撫でる。



「私が不甲斐ないばかりにすまない…」



「いいえ、お兄様のせいじゃありませんもの。家から連れ出して下さっただけでも感謝しております」



 クラウディオはギュッと眉間に皺を寄せて口を開いた。



「妹は政略結婚を強いられて1人で家を出ようとしていて…、それで見かねて他の国で冒険者として自由に生きようとここまでやって来たのだ」



 素なのか同情を引こうとしているのかわからないが、クラウディオはフェリシアを固く抱き締め、フェリシアはクラウディオの腕の中で泣いている。

 実際ビビアナとホセはしんみんりとしてるし。



「甘いッ! 国民の税金で綺麗なドレス、美味しい食べ物、十分な教養を享受しておいて、その責任を全うする時に逃げ出すなんて言語道断! …と、言いたいところだけど、同じ年頃の女性として気持ちはわかるわ。私は賢者に縁があるんだけれど…、貴女に賢者の知恵を授けてあげる」



 そう言いながら指で自分のをクルクルと弄んでいると、クラウディオはハッとして呟いた。



「黒髪…、そうか! 賢者サブローの子孫!?」



「いいえ、私は子孫なんて言って無いわ。あくまで縁の者、三賢者を直接知ってるエルフとも知り合いだから世間に出回って無い知識も知ってるってだけよ」



「わたくしの政略結婚を回避するお知恵があるのですか!?」



 新人兄妹は縋る様な目で私を見た。



「政略結婚自体は避けられないでしょうけど、貴女も納得できる政略結婚になら出来るわ。教える代わりに大人しく家に帰るって約束出来る? あなた達がこの森で死体になるのをわかっていて放置は流石に心苦しいから」



「フェリスが幸せになれるのなら…」



「納得出来るというのが本当でしたら」



「それじゃあ依頼は違約金を払ってキャンセルね。森を出てからゆっくり説明してあげる、その前に…」



 2人が頷くのを見て安堵した私は、食事を再開した。

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