第114話 プリフィクス作戦
交渉が纏まったので私は食事を再開した。
テーブルの上には自分の食べかけの蓮根バーガー以外にはカツサンドが3つしか残っておらず、背後から再び聞こえたお腹の音に下唇を噛み締めながら新人兄妹にカツサンドをひとつずつ分けてあげた。
当然先に食べ終わるのは新人兄妹で、期待の眼差しが背中に突き刺さるのを感じながらも気づかないフリして平らげた。
視線を感じて食べにくそうにしている私をエリアスとホセがニヤニヤしながら見てきたけど。
「アイルなら分けると思ったんだ、だからアイルも食べられる様に2つじゃなく3つ残しておいたんだぜ? オレって優しいな~」
森の外への移動中にホセが話し掛けて来た、普段ならもう少し残る計算だったのに絶対態と多めに食べてる。
私が自分のお腹を満たす為に独り占めするか、2人に分けてあげるか面白がって見ていたのだろう。
そして森を抜けると新人兄妹はキョロキョロし出した。
「どうしたんだ?」
「あ…いや、馬車が居ないな…と」
「当たり前だろう、待機を指示をしたのか? こんな魔物が出るかもしれない場所で待機してくれる訳が無いとは思うが…」
「いや、していない」
「じゃあこんなところに馬車なんか居る訳無いだろう」
リカルドとクラウディオの会話に力が抜ける、異世界人の私でもわかるやつだよ。
気を取り直して歩きながら計画を説明する事にした。
「えーと、まず聞きたいんだけど、政略結婚の相手の家ってここじゃなきゃダメって決まってるの? それともいくつかの候補があるの?」
「出来ればここが良いという家はあるがひとつでは無いな」
「ふむふむ、それならかなり成功する確率は上がるね。賢者の知識その1、結婚相手は匂いで選べ!」
「「「「「匂い?」」」」」
あ、皆も聞いていたのね。
ホセだけは納得してる感じだけど、他の人はキョトンとしている。
「女性は優秀な子孫を残す為に無意識レベルで本能的に相性の良い人を嗅ぎ分けてるらしいの、だから候補の人達に香水を使って無い状態で着ていたシャツとか本人の匂いを嗅がせてもらうといいよ。何となくで良いから好きな匂いの人を選んで候補を絞るの、好みの匂いの人は何故か見た目も大抵好みらしいわ」
「そんな…、その様な事をしては変に思われてしまいませんか?」
「そこはホラ、賢者の叡智で優秀な子供が産まれる確率を上げる方法と言えば両家は納得しないかな? そうすれば自分の嫌な人は匂いが嫌いだと言って断れるじゃない? 名付けてプリフィクス作戦!!」
「何だそれ?」
調子に乗って作戦名を付けたらホセに首を傾げられてしまった。
「プリフィクスはコース料理で前菜は2つのどちらか、とかデザートはいくつかある中から選べるっていうのがあるでしょ? 準備されていない物からは選べないけど、準備された物の中からなら選べるって事よ。後は好みの相手と仲を深めれば良いじゃない?」
「なるほど…賢者に縁のある方に優秀な子孫を残す叡智を授けて貰ったと言えば両親も無視出来ない、という事か」
クラウディオが真剣な顔で呟いた。
「事前に帰る事とその匂いの件を報せてお膳立てを手紙で頼んでおけば良いんじゃない? 着いてから説明してたら結婚話が進められちゃってる、なんて事になってたらどうしようも無いし」
エリアスが提案した、こういうフォローはエリアスが1番上手で色々気付いてくれるからありがたい。
頷くクラウディオを見ていたらいきなり反対側から両手をガシッと掴まれた。
「アイル…、いえ、アイル様! これからわたくしの事はフェリスとお呼び下さいませ! 貴女はわたくしの恩人ですわ!!」
「そうだな、私の事もクロードと呼んでくれて構わない」
「えぇ!? わ、わかった…、けど私の事もアイルって普通に呼んでね」
「わかりましたわ」
キラキラとした目力に押されて頷いてしまった、どうせ2人がウルスカを出て行けば2度と関わる事もないから問題無いよね。
小中高とテレビばっかり観てないで外で遊んでくれば、と親に言われてたけど、テレビで得た知識がこうやって役に立つんだからボッチは悪い事だけじゃないね、うん。
「ところでアイル、賢者の知識その1って言ってたけどよ、その2、その3ってあるのか?」
「あ、あるよ!? あるけど今回は必要無いから披露しないだけだよ!」
凄くニヤニヤしながら言って来たので完全に私の事を揶揄ってる、そういえば皆の前で料理以外の知識ってあんまり言ってないもんね。
だってドヤ顔で披露して「あ、それ三賢者で広まってる」なんて言われかねないので下手な事は言えないのだ。
でも3人目が来たのが50年以上前っぽいから遺伝子に関係する事は一般的に知られて無いと思う、テレビはあってもネットは無いはずだし。
新人兄妹を冒険者ギルドへ連れて行って依頼キャンセルをさせた、ついでに2人が冒険者を辞めると聞いてギルド員の1人が飛び出して行った、恐らく護衛に報せに行ったのだろう。
ちょうど階段からバネッサが降りて来たのでリカルドがダミーの
そしてあの兄妹から見えない様に依頼達成の受理をしてもらった、約半日で大銀貨か…神経は使ったけど美味しい仕事かも。
帰ろうとしたら凄い勢いで人が3人入って来た、そしてあの兄妹の前で跪くと家に帰ってくれる事に対して感謝の言葉を並べている。
なにはともあれ一件落着、良かった良かった、早く帰れたから今日は時間の掛かる煮込み料理でも作ろうかな、なとど考えながら食材の買い物をしつつ家へと帰った。
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