第112話 君らの名は
「ま、待て! せめて私達の体力が回復するまでここに居ろ!」
新人兄が慌てて引き留めたが、元々少し離れて様子を伺う予定だったけど余りにも態度がよろしく無いので皆の目は冷たい。
当然リーダーであるリカルドも。
「なぜ?」
「なぜ…とは? 私達が今魔物に襲われたらどうするのだ!?」
「冒険者ならそれは自己責任というものだ、訓練も受けずにいきなり森に来た自分達が悪いんだろう? お前達が死のうが魔物に喰われようが俺達には関係無いし命令される謂れも無い。助けられて碌に礼も言えん様な者をこの先も助けようと思う程俺達は善人じゃないんでな」
「う…」
リカルドもこの2人の態度に結構イラついていたんだね、声がピリピリしてるというか棘を感じる、自国の貴族だから余計ムカついたのかな。
踵を返して再び立ち去ろうとするリカルドに私達もそれに倣うと新人兄は妹の手を取り慌てて後をついて来た。
数分早足で移動しただけで新人兄妹の息は上がっている。
「ついて来るな、そうやって気配すら消さずに音を立てて近くに居られると魔物に気付かれるだろう、本気で冒険者を続けるつもりならギルドに戻って初心者講習を受けて来い」
「はぁ…はぁ…、ここから2人だけでは無事に戻れ無いかもしれん…。せめて森の外まで共に行動してくれ」
さっきよりは少しは殊勝な態度になったものの、まだ自分達の立場を理解してなさそうだ。
「断る。どこの誰かもわからん、礼も言えん礼儀知らずに親切にしてやる義理は無い」
「礼儀…知らず…」
そんな事を言われた事など無かったのだろう、本気で戸惑っている様だ。
「目上とまでは言わないけど、例えば友人に助けてもらったりお願いする時は一体どうしてるのさ?」
表情こそ呆れているものの、エリアスが助け船を出した。
「私は…学友に対しても同じ様にしているぞ」
明らかに新人兄は混乱していた、どうやら彼には親に言われてくっついて来る取り巻きしか周りに居なかったのだろう。
「ははっ、そりゃ友人じゃなくて取り巻きってヤツじゃねぇの? じゃなきゃそんな物言いすりゃ喧嘩になるだろ」
「取り巻き……」
ホセの口撃がクリーンヒットしたらしく、愕然と言葉を繰り返した。
ちなみに新人妹の方にも被弾した様で息を整えながらも同じ様にショックを受けた顔をしている。
「ヤダ、ちょっと…本気でショック受けてるわよ? 可哀想に、誰も教えてくれなかったのね、もしかして本当の友達が1人もいないのかしら」
同情しつつ言ったビビアナの言葉がトドメとなり、とうとう新人兄は膝から崩れ落ちた。
「お兄様…!」
いきなり体勢を崩した兄を心配する妹も涙目になっている、本来なら軽く怒らせて森から帰る様に仕向けるつもりでここまで追い込む予定では無かっただけに可哀想になってきた。
「く…っ、私達は今まで目隠しをされて生きて来たのかもしれん…。改めて名乗ろう、私はタリファスから来たボルゴーニャ公爵家が三男、クラウディオ・デ・ボルゴーニャ。こっちは妹のフェリシアだ」
立ち上がって姿勢正すとクラウディオが名乗り、フェリシアも紹介されると優雅にカーテシーをした。
って、身分まで明かすんかーい!
もし私達が悪者だったら「人質にしたらたっぷり身代金ぶん取れる価値の人間です」、と自己紹介した様なものだよ?
「他国で雇っている訳でも無い冒険者相手に身分を言われても何の役にも立たんぞ? 特に自身も冒険者として活動している時ならなおさらな。こっちはAランクパーティ『
「獣人も居るのね…」
余程周りが見えて無かったのかフェリシアは今気付いたらしく、驚いた顔でクラウディオの袖をギュッと掴んで呟いた。
まさかクラウディオにホセを仲間にしたいとおねだりでもしようと言うの!?
「羨ましくてもホセは私達の仲間だから勧誘しても無駄だからね!」
咄嗟にホセの腕に抱きついて牽制した、しかし新人兄妹だけじゃなくホセまでポカンとして私を見ている。
あれ? もしかして違った?
「アイル…、一般的に獣人は粗野で乱暴だと言われていて好まない者が多いんだ、特にタリファスではその傾向が強い」
首を傾げた私に、リカルドが教えてくれた。
「え!? そうなの? そっかぁ…確かにホセって乱暴じゃないけど粗野っちゃあ粗野だもんね」
「「「ぶふっ」」」
納得してうんうんと頷いていたらリカルド、エリアス、ビビアナが吹き出した。
「ア~イ~ル~」
気付いた時にはホセに頭を片手で掴まれ、指先に力が込もっていく。
「あっ、痛いッ! やっぱり乱暴って言うのも合ってる!!」
「まだ言うか!」
「あぁんごめんなさい!! にぎゃぁぁぁッ! 助けてビビアナ!」
「ホセいい加減にしなさい!」
更に指先に力が加わり、ビビアナに助けを求めるとホセの後頭部をスパンと良い音をさせて叩いてくれて、やっと私は解放された。
「ビビアナありがと~!」
「うふふ、どういたしまして」
ムギュッとビビアナに抱き着いてお礼を言うと笑いながらズキズキと痛む頭を優しく撫でてくれた。
マシュマロ乳に埋もれる私が羨ましいのかクラウディオの視線を感じて向き直りビシッと指を差す。
「わかった!? 助けてもらったり何かしてもらったら感謝の言葉! 悪い事をしたら謝罪の言葉! それが人付き合いの基本よ!!」
「あ、ああ…。助けてくれて感謝する、ありがとう…?」
最後は何故か疑問系だったけど、一応感謝の言葉を言う事を覚えた様だ。
本当に世間知らずなだけで矯正の余地があると思ったのか、皆の表情も少し優しくなっていた。
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