第242話 のんびり過ごす1日 後編
宝飾店を出た私達は職人街の奥まった場所…、職人が作った試作品が置いてある様なお店というより工房が多い通り。
新しい発見がありそうでワクワクしてしまう、投擲用ナイフもこの辺りで買ったっけ。
結局そこはひやかしだけで終わってしまった、何故ならさっき買ったエドへのプレゼントを何て言って渡そうかという事に気を取られていたせいだ。
あのカフスの支払いで大銀貨が数枚吹っ飛んだ、大銀貨は日本円にして約10万円程で、現在小金持ち程度になってる私には問題無い金額なのだが、気になるのはエドに貰ったこのアクセサリーだ。
あんなシンプルで大きくも無いカフスで大銀貨数枚なのだ、このデザインが凝っていて魔石も複数使われている物は金貨が必要になるのは間違い無いだろう。
やはりここは開き直って貢いでもらうしかないのか。
よし、ここはひとつ気持ちを切り替えて悪女アイルとして貢いでもらおう、うん。
となるとまた最初の問題に戻る、いつ、どんな風にエドにカフスを渡すか。
Q. 友人に数十万円の物を贈りますか?
A. 庶民ではありえません。
………くっ、何て言って渡すべき!?
変に
そう、私は賢者だもの、今の私は庶民じゃないと言えなくもないからサラッと渡せばイケる!!
屋敷に戻って皆で昼食を食べる時、ガブリエルがネックレスに気付いてショックを受けた顔をしていた。
やめてエド、そこで勝ち誇った顔しないで。
おかしいな、ゆっくり過ごす為の1日のはずなのに何で私がこんな気を遣ってるんだろう。
他の皆はアクセサリーを似合うと褒めてくれた、他にも何か言いたそうな含みを持った表情ではあったけど。
食事中にもアクセサリーを褒められる度にエドはとても機嫌が良くなっていった、そして反比例でガブリエルの機嫌は悪くなっていった。
昼食が済むと3時のお茶の時間までは自室でゆっくり過ごす事になった、今の内に魔石に魔法を付与してしまおう。
知識はあるけど、ちゃんと出来るかちょっと心配だからガブリエルに監督して貰おうかな、機嫌が悪いから断られるだろうか。
部屋の方向は同じなので、私の部屋の前でガブリエルに声を掛けた。
「ガブリエル、このアクセサリーに魔法を付与したいんだけど…やり方を教えてくれない?」
部屋に戻ろうとしたガブリエルが足を止めてキラキラした瞳で振り返った、何でそんな反応なの!?
「そのアクセサリー…、私が付与しても良い? 前のネックレスより魔石が大きいからもっと強力な防御魔法も付与出来るし」
「え? うん、じゃあブレスレットの方は私が付与するね、練習したいから」
一転して機嫌の良くなったガブリエルを部屋に招き入れて魔法付与教室開催する事になった。
「普段魔法を使う時に頭の中で魔法式を思い浮かべるでしょ? それを魔石に焼き付けるイメージで…『
「なるほど、だからその場で使うやつと違ってちょっと複雑になってるんだね」
女神様がくれた知識は使い方はわかるけど、理由や細かい説明まではわからなかったのでガブリエルの話は為になる。
「ふふふ、だけど私を頼ってくれて嬉しいよ。最初から魔法付与されて売られているのはともかく、贈り物やその人の持ち物に魔法付与するのは親しい友人や恋人、家族だけだからね」
あ~…、だから機嫌が直ったのか、自分が贈った物という事より、自分が魔法付与した物っていうのがポイントだったんだね。
あれ? もしかしてガブリエルにも私が魔法付与した物を渡した方が良いのかな?
過去にランク上げの為に単独で討伐した魔物の物なら小さい魔石をいくつか持ってるから、ブレスレットで練習してやってみよう。
ストレージから紙とペンを取り出して魔石に付与する魔法式を書き出す、発動条件と威力調整が絡むので普段使う魔法よりちょっとだけ複雑。
その間にもガブリエルは雫型の小さな魔石にも魔法を付与してくれている様だった。
結局怪我した時に自動的に治癒が発動する様にブレスレットに魔法付与し、成功したと手応えを感じた、次はガブリエル用の魔石に…。
「『
「えっ!? うわぁ…、私にくれるの!? 嬉しいなぁ、友人に魔法付与した魔石を貰うのは初めてだ、大切にするよ!」
ガブリエルの友人事情にちょっと切なくなりつつ、ネックレスに魔法を付与し終わったガブリエルと少し話をしてから見送った。
後はエドのカフスに何を付与するか、だね。
「う~ん、エドは自分で闘う事も出来るから必要なのはやっぱり治癒と…一応解毒かな? この前会った元同僚は良い人だったけど、中にはエドを恨んでいる人が居てもおかしくないもんね」
そんな訳でカフスには治癒と解毒をひとつずつ付与する、そんな事をしていたらいつの間にかお茶の時間になっていた。
魔法式は頭に刷り込まれているのを思い浮かべるのは一瞬でも、書き出すとなると結構時間が掛かっていた様だ。
迎えに来た使用人の案内でサロンに向かうと、サロンには色鮮やかな花が数カ所に飾られていて、ドアを開けた瞬間花の甘い香りと紅茶の香りが鼻腔をくすぐった。
「ちょうど良いタイミングだ、さぁ座って、馬車でアイルが教えてくれた紅茶のアフォガートだよ」
そう言って浅いワイングラスの様な器に盛られたバニラアイスの上に熱々の紅茶を掛けて差し出した。
「うわぁ、美味しそう! はむ、……んん~! 溶けたところが濃厚なミルクティーみたいで…はむ、美味しい~! ありがとうエド」
「喜んで貰えて何よりだよ、アイルの笑顔が私にとって1番のご褒美だからね」
そう言って茶目っ気たっぷりにウィンクひとつ、今日のエドはまとも過ぎてどう対処して良いかわからないよ!!
不覚にも頬が熱くなってしまった、これじゃいけない、そうだ、早くカフス渡さなきゃ。
「そんなエドにいつものお礼というか、ご褒美にコレあげる」
手作りのお菓子でもあげる様なノリでカフスの入った箱をエドの前に置いた。
「私に…!? 開けてもいいかい!?」
「もちろん」
驚いて戸惑うエドに頷くと、エドは箱を開けてこれでもかというくらい目を見開いた。
エドが驚いたまま固まってしまったので気不味さを払拭する為に付与した魔法の説明をする事にした。
「それには私が魔法付与してあるから、もしも毒におかされても勝手に解毒してくれるんだよ、例えば毒で苦しんでる人の服に着けても着けた瞬間に発動するしね。あともうひと「アイル、ありがとう!! アイルがアイルの色を私に贈ってくれるだなんて嬉しいよ!! はぁ…、コレを身に
説明中に抱き締められたかと思ったら、
そんなエドにちょっと安心してしまった私はどうかしてしまったのだろうか。
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