第241話 のんびり過ごす1日 中編

「ここだよ、魔道具を使って魔法を付与出来る技術者を抱えているから貴族達も常連なんだ」



「へぇ…」



 貴族も常連ってお高いんじゃないんだろうか、魔法が付与されて無ければそうでもないのかな?

 カフェの後に連れてこられた宝飾店はゴージャスという言葉がぴったりの店構えで、町のお嬢さんスタイル程度で入って良いのかと躊躇ためらうレベルだ。

 エドが開けてくれたドアを潜ると白髪ながら背筋の伸びたお爺様がにこやかに出迎えてくれた。



「これはこれは賢者様、エドガルド様いらっしゃいませ」



「店主、こちらの令嬢に相応しい物を見せて頂きたい」



「はい、ご希望の付与魔法はございますか?」



「アイル、防御魔法にするかい? それとも自分で付与を?」



 店主とエドが話していたと思ったら不意に話をふられた。



「う~ん、付与よりデザインで選びたいな」



「だそうだ、店主、目ぼしい物を全て並べてくれ」



「はい、ではこちらにかけてお待ち下さい」



 接客カウンターの椅子に座ると、すぐに他の店員がお茶を出してくれた。

 香りでわかる、絶対高価たかいやつだ。



「お待たせ致しました」



 並べられた物を見て思った、先に指示を出してあったんじゃないの? と。

 何故なら色が! 恐らく魔銀ミスリルであろう銀色なのはわかるが、付いている魔石が殆ど紫なのだ、完全にエドの髪と目の色。

 コレが魔石ではなく紫水晶アメジストなら安いだろうけど、魔銀からだけでなく付いてる石からも魔力を感じるので魔石で間違いないだろう。



「ね、ねぇ、どうしてネックレスばっかりなのかな? ブレスレットとかならこのネックレス外さなくても着けられると思うんだけど」



「はは、ブレスレット欲しいのかい? 店主」



「はい、すぐにお待ち致します」



 私の言った事が変にスルーされた、もしかしてガブリエルからのプレゼンのネックレスを外させたいからネックレスを出して貰ってたの!?

 でもまぁ、確かにこのネックレスとエドの色合いのブレスレットだと色がチグハグで一緒には着けられないとは思うけど。

 そして並べられたブレスレットはやはり魔銀製で紫系の魔石が付いた物だった。



「他の物が良いなら好きな物を選んでくれていいんだよ? ただ…アイルが私の色を身につけてくれたら普段傍に居られない私の気持ちが慰められるんだが…」



 そう言ってエドは寂しそうに微笑んだ、ぐぅっ、その顔は卑怯じゃない!?

 まともにエドの顔が見れずに目が泳いでしまう。

 その時店主が助け船を出してくれた。



「賢者様の様に可愛らしい方ですとこちらのデザインなどお似合いだと思います」



 中央に親指の爪程の魔石と、周りに繊細な魔銀細工、そして雫型の小さな魔石がいくつか揺れる可愛らしく、そして綺麗でもあるデザインだった。

 これくらいなら普段でもちょっと着飾った格好にも合いそう、思わず前のめりで覗き込む。



「気に入ったかい? 試しに着けてみると良い。ほら、そのネックレスを外してごらん」



「う、うん」



 店主が出してくれたネックレスは既にエドが手に持って着けてくれる気満々だ。

 ガブリエルから貰ったネックレスを外してストレージに入れると、エドが私の背後に立ってネックレスを着けてくれて、装着した私の姿を見て蕩ける様な笑顔で頷いた。



「ああ、やはりとても似合うよ。アイルの肌の色には金色より銀色の方が映えるね」



「えへへ、そう? この雫型の魔石が揺れるの凄く可愛いし、コレにしようかな」



 エドは指先で装飾部分を掬う様に持ち上げ、その時さりげなく鎖骨の辺りを指先で撫でられたが、わざとなのかたまたま当たっただけなのかわからず何も言えなかった。

 必要以上に触れ無い様にしてくれていると思ってたら、こういう風にまるで羽根で撫でるかの様にわずかに触れてくるのでどう反応したら良いのかわからなくなる。



 でも下心が見えないから触れられても怒れないんだよねぇ。

 いつもみたいにハァハァ言ってればわかりやすいのに。



「ほら、このブレスレットはそのネックレスと対になってるみたいだよ」



 そう言いながらエドは同じ様に雫型の魔石が揺れるブレスレットを私の手首に装着した。



「うん、セットで着けた方が可愛いね。店主、このセットをいただこうか、請求は屋敷の方へ」



 凄い、目の前で支払いせず値段を教えない気遣いの仕方とかデートのエスコートとして完璧じゃない!?

 あれ? ちょっと待って、もしかして今の私達デート中!?

 今まで意識してなかったけど、意識したら何か恥ずかしくなって来た、落ち着け私、平常心!!



「かしこまりました、そちらはまだ魔法付与されてませんが宜しいですか?」



「アイル、自分で付与するかい? それとも付与してもらう?」



「せっかくだから自分で付与してみようかな魔石に付与した事なかったし…、いざとなればガブリエルに聞けばやり方を教えてくれると思うから」



 ガブリエルの名前を出した途端、エドの笑顔が固まった。

 エドが今の状況をデートだと思ってるのなら、他の男の名前を出したのは不味まずかったよね。



「エド、素敵なプレゼントありがとう」



「喜んで貰えて嬉しいよ、外は暑いし馬車を呼んで来るから少しここで待っててくれるかい?」



「うん、わかった」



 エドが固まった事に気付かないフリして笑顔でお礼を言うと、とても嬉しそうに微笑んだので、余計にガブリエルの名前を出した事に対する罪悪感が…。

 ハッ、しっかりして私! これは私がのんびり過ごす為のお出かけであってデートじゃないはず、エドが店から出て行くのを見送ってから私の匂いを嗅いでハァハァ言ってるエドを思い出し平常心を取り戻した。



 平常心になった私はさりげなく店主がこちらを見ながらショーケースのカフスボタンを整えているのに気付き、その目が「そのアクセサリーのお返しにどうですか」と物語っていた。



「ちょっとそれを見せて貰っても?」



「はい、もちろんでございます。こちらは賢者様のお色をしていますのでプレゼントされるには最適かと」



 この店主…なかなかの食わせ者だ、絶対私に買わせるつもりでショーケースを触ってたよね。

 カフスボタンは魔銀のインフィニティにオニキスと紫の魔石がはまっているシンプルだけど落ち着きと品があるデザインなのでエドに似合いそう。



「……うん、コレください」



「ありがとうございます」



 私の言葉に店主はそれは見事な愛想笑いを浮かべた、この商売上手め!



◇◇◇



前後編のはずが…!


もうしばらく猫かぶりエドガルドにお付き合い下さい。

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