第84話 お魚パラダイス

 美味しいお魚料理を求めてまずは魚港へと向かった、波止場の様な造りの一画に屋根と柱だけの建物(?)がある。

 折角なので海を覗き込むと遠くから見たら瑠璃色に輝いて見えたのに深緑だ。



 波の音も浜辺の様にザザ~ンでは無くチャプチャプと水の入ったバケツを揺らした様な音しかしない。

 しかし海の中には手を伸ばせば届く位置に綺麗な小さい青い魚が太陽の光を反射している。



「見て! 凄く綺麗な魚! 小さくて可愛いね、こんな魚見た事無い!」



「へぇ、どれどれ? 綺麗だけどこんなの小さ過ぎて食えねぇだろ」



 止める間もなくホセが水面に上がって来た魚を素手で獲り、掌に居る魚を見た。



「あれ? 何だコイツ、青くねぇぞ?」



「「「「え!?」」」」



 皆で手の上の魚を覗き込むとフナの様に地味な色の小魚がそこに居た、興味を無くしたホセが海に魚を戻すと不思議と青い色に戻る。

 少し弱々しい動きになってしまったが一応群れに戻って泳ぐ魚を首を傾げて見送った。

 そんな私達は通りすがりの地元の人にクスクスと笑われてしまった、同じ様な事をする観光客が多いのかもしれない。



 辺りを見回すと波止場で釣りをしている人が数人、その奥にある看板には「絶対釣れる釣り堀」と書かれていた。

 目を凝らすと海の上に木枠の様な物が浮いていて、その上で釣り人が糸を垂らしていた。

 どうやら海を網で仕切って生簀状態にし、そこを釣り堀にしている様だ。



「見て! 絶対釣れる釣り堀だって、ご飯食べてから行ってみない?」



「面白そうだね、釣りってした事無いから僕もやってみたいな」



「わかったから早く飯食いに行こうぜ、さっきから良い匂いするから腹減って仕方ねぇよ」



 確かに漁港に沿って食堂や魚屋が並んでいるのでさっきから焼き魚や煮付けの香りが鼻腔をくすぐっている。

 これだけしのぎを削っている場所で食堂を続けられるなら間違いなく美味しいよね!

 ちょっと古そうな建物だけど、ボロくは無い掃除がきちんとされている店を選んで入った。



「好きなとこに座ってくれ」



 あまり愛想の良くない、日に焼けて深い皺が刻まれたおじいさんがやっている店だった。

 お昼には少し早い時間だけど、既に何人かのお客さんが入っている。

 テーブル席に着いて店内を見回すとメニューの札が掛かっていた、「丼」「重」「汁」「定食」の4種のみが。



 皆は何だかガッカリした表情だが、私は拘りのラーメン屋の様なメニューに期待が膨らんだ。

 私以外はすぐに定食に決めたが、丼は他のお客さんが食べていた海鮮丼…確実に刺身が乗っている、だけど定食にも刺身が付いてるかも…。



「うぅ~ん…、く…っ、私も定食にする!」



 あまりにも真剣に悩む私に苦笑いしつつビビアナがまとめて注文してくれた。

 暫くすると油のジュワワ~という良い音が聞こえて来て思わずゴクリと唾を飲み込む。



 四角いトレーに乗せれた定食には鯛と鰤の刺身に謎の天ぷら、味噌汁とご飯にたくあんというシンプルな定食だった。

 鮮度抜群の刺身は歯応え抜群で、生魚に馴染みが無くて最初は恐る恐る食べていた皆も美味しそうに食べている。



「美味しい~、幸せ…。天ぷらも美味しそう、んぐ…こ、これは…太刀魚!?」



 最初見た時白っぽい天ぷらだったのでイカかと思ったら、サクッとした衣の中はふわっとした食感の白身魚で脂の甘さが口いっぱいに広がった。

 ボーナスが出た時に奮発して行ったお高いお寿司屋さんの天ぷらよりも美味しいかも。



 皆も美味しい美味しいとそれなりにボリュームのある定食をペロリと平げ、男性陣は丼も食べた。

 お腹に隙間があれば私も食べたかったのに…!



 こんなに美味しくて定食が銅貨5枚だなんて良心的過ぎる。

 こんなので儲けは出るのかと心配してたら常連客らしき人が、ここの親父さんは漁師を引退して店をしてるけど、息子が現役で鱗が剥げたり傷があってして売り物にならないを使ってるから大丈夫だそうな。

 親父さんにお世話になった後輩漁師が常連なので大漁の時にお裾分けで持ってきた魚も出るとか。



 帰るまでにまた来ようと心に決めて今度は釣り堀を目指す、釣り竿のレンタルもあるので手ぶらで大丈夫な様だ。

 各々バラけて釣り糸を垂らす、誰が1番釣り上げるか勝負しようとホセが言い出し、皆気合いが入っている。



 が、かれこれ30分ウンともスンとも言わず、釣れているのはビビアナだけだった。

 ホセは場所が悪いかもとビビアナの隣に移動したけどまだ釣れていない。

 1時間大銅貨3枚なのでちょっと焦りはじめる。



「ねぇねぇ、ビビアナ、どうしてビビアナだけ釣れるのかなぁ?」



 ホセとは反対隣に移動して聞いてみた。



「ふふふ、あなた達は殺気を出し過ぎよ。釣ってやる!って気持ちを魚に気取られてるってワケ。弓で不意打ちを狙う時も同じだもの、殺気を出すと気付かれちゃうから無心にならないといけないの」



 その言葉に目から鱗だった、他の皆は直接攻撃ばかりだったからわからなかった様だ。



「そっかぁ…、でも絶対釣れる釣り堀って書いてあったのに…」



 看板を睨みつつ文句を言っていたら釣り堀のスタッフが声が掛けて来た。



「お嬢ちゃん、絶対釣れる方はこっちだよ、割り増し料金で大銅貨2枚掛かるけどな」



「えぇ~!? 本当に釣れるの? 釣れなかったら割り増し料金返してくれる?」



「ああいいよ、こっちの堀は最低限の餌しかやってないからすぐに食い付くからな」



 ニカッとイイ笑顔で返され、ビビアナ以外は大人しく追加料金を払う。

 結果は全員無事釣れたが、持ち込みをした店の客からあの釣り堀はビビアナが釣った方には高い魚がそれなりに入れてあるけど、絶対釣れる方に居るのは殆どが安い魚なので店は損しない仕組みなんだとか。

 ヌゥ…、店主やるな…。

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