第502話 出産祝い入手

 翌日、私達一行の馬車プラス、エドの馬車も一緒にオバンドの店の前に待機していた。

 商品受け取るだけなので、申し訳ないけど店の前に馬車を停めさせてもらったのだ。早く撤収するためにも馬車から降りたのは私とエドだけだ。



「うん、完璧だね! きっとビビアナも生まれて来る赤ちゃんも喜ぶよ」



「そう言っていただけたら針子達も喜びます。今後ともご贔屓に」



 私が赤ちゃん用肌着を確認すると、オバンドはササッと女性店員に手渡して包ませた。素晴らしい連携である。

 私とビビアナの抱き枕も可愛くラッピングしてくれてあって、エドが私に手渡してきた。



「ん? こっちだけリボンに何か結んであるね。なぁに?」



 リボンの色でカバーの色がわかるようにしてあるってオバンドが言ってたから、こっちは私の抱き枕のはず。



「ふふ、気付いたかい? それは私が使っている香水さ。以前寝室にアロマオイルというのを使って眠りやすくする事もあると言っていただろう? だからぜひ抱き枕にこの香水を使って私と一緒」「こっちは返すね」



 私は小さな包みが縛ってあった方のリボンをほどいてエドに押し付けるように返した。

 いや、そんな絶望したみたいな顔されても使わないから!



「はぁ……、アイルが香水を使っていたならよかったんだが。アイル、プレゼントするから香水を使う気はないかい?」



「ないよ! 冒険者なんだから、香水使って魔物に気付かれたら大変でしょう!? 冒険者で香水の匂いさせてたらバカにされちゃうよ」



「休養日だけ使えばいいと思うんだが……。仕方ない、アイルが頬ずりした物と姿絵の抱き枕だけで我慢するか(ポソ)」



「ん? 休養日でも食事は作るし、食事の時に香水の匂いって邪魔だと思うから付ける気はないよ」



 受け取った二人分の抱き枕をストレージに収納していたら、休養日がどうとか言っていたので再度香水はお断りしておいた。



「私はいつでもアイルの意見を尊重するから問題無いさ。はい、こっちは赤ん坊の分の祝いの品だ」



「ビビアナもきっと喜んでくれるよ~! 本当にありがとう、エド!」



「その笑顔が見られただけで、私は満足さ」



 ぐぬぬ……、だからそういうスパダリなセリフを! 素敵笑顔で! 言わないで!!

 よし、これ以上血迷ないためにも早く撤収しよう。



「さ、さぁて。それじゃあ皆も待ってるから行こうか」



 受け取った包みをストレージに収納し、出口に向かってきびすを返した。





 オバンドの言葉にエドが艶を含んだ声で答えていたが、聞こえないふりをして店を出た。

 店を出た途端に、御者席に座っているホセと目が合う。なぜかジトリと目を向けられているけど、私昨夜も今朝も何もしてないよね!?



 やましい事は何も無いが、物言いたげに御者台から見下ろすホセの視線に負けたように、目が勝手に逃げた。

 何も言って来ないんだから、私はきっと何も悪い事はしていない……はず。



「あ、エド。見送りはここまででいいからね。どうせこのまま馬車に乗って行くし。それにエドの分の抱き枕もすぐに屋敷に届くんじゃない? ここ数日は夜遅くまで仕事してたみたいだし、たまにはお昼寝でもするといいよ」



 馬での移動なら、私が見えなくなるまで見送りそうだけど、馬車の座席に座っちゃえば姿はほとんど見えないもんね。



「抱き枕……。そうだね、と抱き心地を比べるのも悪くないかもしれないな」



 にっこりと機嫌よさげなエドの微笑みに、なぜかゾワリと悪寒が走った。

 でもまぁ、もうウルスカに帰るから何も問題無いはず。



「それじゃ、もう行くからまたね」



 そそくさと馬車に乗り込み、ドアの隙間から手を振った。



「ああ、次に会えるのを楽しみにしている」「じゃあ出発するぞ。じゃあな」

 


 エドの言葉が終わるか終わらないかくらいにホセが出発を告げたので、慌ててドアを閉めて座席に座る。

 チラリと外を見ると、エドがなぜか勝ち誇ったような笑みをホセに向けていた。



 何か勝ち誇るような事があったんだろうか、私にはさっぱりわからない。

 二人共アイコンタクトで会話でもしたの!?



 走り出した馬車の窓から後方を見ると、エドはずっと馬車を見送っていた。

 まっすぐ進んだ方が門への近道だったはずなのに、なぜか途中で曲がったせいですぐに見えなくなったけど。





[side ホセ]


 やっとトレラーガを……というか、エドガルドの屋敷を出られる日になった。

 引き止められてもさっさと出発できるようにオレが御者を名乗り出る。



 ビビアナの出産祝いの品を取りに店に寄ったが、アイルとあの野郎の二人だけで入っちまった。

 アイルが抱き枕を嬉しそうに受け取っているのが窓越しに見えてイラッとした、そんなヤツからもらった物で嬉しそうな顔するなってんだ。



 ムカつきながらもそのまま見ていたら、抱き枕の包みに付いていた小さい包みをアイルが突き返していた、ざまぁみろ。

 その後もグダグダ話していたみたいだが、やっと出口に向かって歩き出した。



『またのお越しをお待ちしております! 次はアイル様が使えるサイズも準備しておきますので!』



『ふふ、その時も一緒に来る相手は私である事を祈るよ』



 出口に近付いてきたせいで店主とエドガルドの会話が聞こえちまった。

 アイル用の物をこの店に買いに来る事があっても、その時は絶対ぜってぇお前と一緒じゃねぇよ!



 大体アイルがハッキリ拒絶しねぇからコイツが絡んでくるんだろ、オレの時みてぇに容赦無くサッサと断っちまえよな。

 店から出て来たアイルに思わずジトリとした目を向けたが、アイルのやつ目ぇ逸らしやがった。

 何かやましい事でもあんのか?



 アイルが馬車に乗る時に店の前で別れる事を告げると、エドガルドは昨日買っていたアイルの匂いがついた抱き枕の話をしていた。獣人じゃねぇんだからお前が買っても匂いなんてわからねぇだろ。

 言えばアイルが意識すると思って何も言わなかったが、思い出すとムカつく。



 だから別れの挨拶もそこそこにして出発してやったら、店から出る時の会話が聞こえていた事をわかっているみてぇに笑いやがった。

 だからお返しにすぐに馬車が見えなくなるように道を曲がってやったぜ、いつまでもアイルを見てんじゃねぇよ。



 アイルは一緒に寝る事を拒否するくらいにはオレの事を男として意識し始めたみてぇだからな、今の内に笑ってりゃいいさ。

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