第32話 取り扱い注意
「どうすんだよ…、完全にヤバい奴じゃねぇか」
「報復の心配は無さそうだがついて来られても困るな…」
「でもアレ見てよ、完全に狂信者の目をしてるわよ?」
「だよねぇ、無視しても勝手についてきそう」
背後でボソボソと言ってるけど、1番困ってるのは私なの!
どうやらエドガルドは幼少期の体験のせいで歪んだ嗜好の持ち主になってしまったのは理解した。
SMの女王様が後にMになる場合があるって聞いた事あるし、そういうパターンだと思おう。
ここは割り切って女王様の如く命令した方が平和だと見た、1度深呼吸をして気持ちを切り替える。
「わかったわ、だけど昨夜も言ったけど常識も良識も持っていない
「ああ、わかったよ」
「じゃ、行こうか皆」
内心ダッシュで逃げたいが女王様は悠然としていなくてはいけないと思い、仲間とエドガルドのうっとりとした視線を背中に感じながらギルドの方角へと歩いた。
「アイルの意外な一面を見たわね…」
「ちっ、違うから! ああいう手合いは敢えて命令した方が大人しくなるはずだから仕方なくあんな対応しただけで…」
いくつかの角を曲がりエドガルドから完全に見えなくなるとビビアナがポツリと漏らした言葉に慌てて説明する。
すると左肩にポンと手が置かれて振り向くとエリアスが慈悲深い微笑みを浮かべていた。
「大丈夫だよ、どんな一面を持っていたとしてもアイルが僕達の仲間だって事は変わらないから」
「だから! アレは演技なの!」
今度は右肩に手が置かれてそちらを見るとホセが同じ様な微笑みを浮かべていた、この微笑みがトラウマになりそうだ。
「そんなに必死にならなくても大丈夫だって、わかってるからよ」
「絶対わかってないよね!? じゃあ何でそんな微笑み浮かべてるの!? ちがうもん、私あんなキャラじゃないもん!」
なんだか情けなくて涙が出てきた、唇を噛み締めていたらリカルドが頭を撫でてきた。
「お前達アイルを揶揄うのもいい加減にしろ。アイル、コイツらは本当にわかってて揶揄ってるだけだから安心しろ」
ポロリと零れた涙をリカルドは親指で拭い、目を合わせるとニコリと優しく笑ってくれた。
3人を見ると気不味そうに苦笑いしている、本当に揶揄っていただけの様だ。
「悪かったよ、まさか泣くとは思わなかったぜ…」
「アイルごめんよ、慌てる姿が可愛いくて揶揄っちゃった」
「高圧的なアイルも悪くなかったけど、ちゃんと演技だってわかってるから安心してちょうだい」
「ん……」
良かった、あんな二面性のある人間だと思われたら辛過ぎる。
許す意味を込めて頷くと、3人もホッとした様だ。
とりあえず命令という形にしておけば私に執着している間は言う事を聞いて治安は良くなるだろうし、執着しなくなっても元のままだから問題は無い…はず!
それにしても
沈着冷静とまではいかないが、それなりに落ち着いた大人になってたから己の変化がちょっと怖い。
トレラーガの冒険者ギルドに到着すると、何度か来ているせいか皆は慣れた様子で中に入って行く。
私だけ初めてなのでちょっとドキドキしつつビビアナの服の裾をこっそり掴んで後に続いた。
ギルド内に入ると一斉に視線が集中する、そして半分は何事も無かったかの様に元に戻ったが半数はジロジロと不躾な視線を向けたままだ。
4人は注目される事に慣れているのか気にせず
ここでの依頼は初めてなので依頼選びはお任せしてギルド内をキョロキョロと見回していると壁際にいた女冒険者がこちらを見てクスクスと笑っていた。
「やだぁ、笑っちゃ可哀想よ」
「だって、私ならあの程度の容姿で美形に囲まれるなんて無理だもの、感心してるだけよ」
「もしかしたら貴族にでも押し付けられて断れなかったんじゃない?」
「あのチンチクリンが貴族なわけ無いでしょ、バカねぇ」
チンチクリンって私の事よね?
今ギルドの中に居るのは皆背の高い人達ばかりだし、12歳のアルトゥロですら私より大きかったから私が特別小さいってのはもう自覚してますよ!
「おいアイル、せっかくだからおやっさんの逸品を使ってちょっと脅かしてやれ。聞こえてるぞってな、舐めてるヤツらを黙らせてやれよ。そうすりゃこの先やり易くなるぜ」
いつの間にか隣に来ていたホセが悪い顔でニヤリと笑った。
チラリと他の3人の方を見ると明らかに面白がっている顔で頷いている。
コクリと頷き返してホセみたいにニヤリと笑ってストレージから掌に棒手裏剣を出現させた。
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