第220話 酒盛り≠祝杯

「お、コレ何だ? 初めて見た気がするけどよ」



 ホセが小さめにカットしてあるタコの唐揚げに刺さったピックを摘んで見ていた。



「それは海に住むタコっていう生き物だよ、噛み砕きにくいけど消化が早いからちょっとくらい塊で飲み込んでも平気だからね。栄養もあるから食べてみて」



「ふぅん? ……んん、結構いけるな!」



 どうやら本体の姿は知らない様だが、味は気に入って貰えたらしい。

 そして懸念していたモノ…、タコの脚の先っちょ…つまり細い部分がクルクルとトグロを巻いた状態のタコ唐をヒョイと引っ掛ける様に持ち上げた。

 シルエットだけ見たら食事中に口にしてはいけないアレである。



「コレってアレの形に似てねぇ?」



 ま、まさか…。



「なんだっけ、ホラ…」



 ダメ、今それを口にしちゃ…。



「あっ、思い出した!」



 ホセ、ダメぇ~!!



「サザエ!」



 あれ?



「サザエはもっと刺々しい感じだけどよ」



 そう言ってヒョイと口に放り込んだ。

 あはは…、なんだ、そうか。

 考えてみればホイのひと言で地球を割る眼鏡っ子なんて異世界人のホセが知ってるはずないもんね、当然その眼鏡っ子の大好きなモノも。

 ちなみに祖母に言わせると私が知っている眼鏡っ子は色違いらしい、どうやらリメイク版の様だ。

 1人でドキドキしてバカみたいだ、安心した事もあってグイっとグラスを煽り、テーブルに置くとカランと氷の涼しげな音が鳴った。



「次は何を飲む?」



「ん~…と…」



 グラスが空になったのを見てすかさずエドが声を掛けてきた、何気に当然の様に私の隣に座っている。

 どうしようかな、そら豆の塩茹でもあるから日本酒もいいよね、どの瓶がどの味か既に覚えきれないほど買ったので悩む。

 唸りながらそら豆と日本酒を交互に見ていたらエドが1本の日本酒瓶を手に取った。



「豆にならコレが合うから試してみると良い」



 水割り用の水で軽くグラスを濯いでから注がれたお酒を口にする。

 ちょっと焼酎っぽくてすごくそら豆に合った、エドったらソムリエの才能あるかも!?



「うん、すごく合うね、ありがとうエド」



「喜んで貰えて嬉しいよ」



「おい、それで終わりにした方がいいんじゃないか?」



 エドとニコニコと笑い合っていたらホセから声が掛かった。

 確かにさっきのウィスキーは強めのやつだったから普通の2杯分はあったかもしれない、だけど今日は祝杯だもんね。



「祝杯は酔っ払って良いっていったもん…」



 チビリとグラスに口をつけながらプイっとそっぽ向く。



「祝杯っつったのはエドガルドだろ、リカルドは祝杯たぁ言ってねぇぞ」



 ジトリとした視線を向けてくるホセ、私は祝杯のつもりだったのだがリカルド的には違ったのだろうか。

 窺う様にチラリとリカルドを見ると苦笑いを浮かべていた。



「今日はセシリオとエドガルドもいるからな、アイルも特にセシリオには迷惑掛けたくないだろう? 祝杯はウルスカの家に帰ってから改めて…だな」



 リカルドの言葉に無意識に下唇を噛み締め、泣きそうな顔をしていたらしい。



「アイル、そんなに噛み締めては唇が切れてしまうよ? そんな顔しなくても自室でなら飲んで良いんだろう? 何なら私が同室になれば好きなだけ飲んで「甘やかすんじゃねぇよ、しかもアイルを狙ってるお前と同室になんて出来る訳無いだろ!」



 エドが私の唇を心配して顎を親指で撫でてきたので口の力を抜いてグラスに口をつけた。

 私が凹んでいたら何やらホセとエドが険悪な雰囲気になってるし。



「まぁまぁ、アイル、どうせならバレリオが研究してる豚骨ラーメンが完成してからそれをアイルの言うところの〆のラーメンにして飲んだら最高なんじゃない? バレリオなら酔ったアイルも迷惑だなんて思わないから完成の祝杯も兼ねて酒盛りしようよ、ね?」



「それは良いねぇ…」



 エリアスの提案に豚骨ラーメンが食べたくなってきちゃった、バレリオ頑張ってくれてるかなぁ。

 思い浮かべてうっとりしていたらホセの不機嫌な声が聞こえた。



「オレの時と全然対応が違うじゃねぇか…」



「だってホセはダメしか言わないもん、エリアスはちゃんと代わりの提案してくれてるもんね、流石モテ男だよ。伊達に日頃から女の子に声掛けてないね!」



「え…っ、それ褒められてるのかな?」



 ちゃんと褒めてるのに複雑そうな表情を浮かべているエリアス、どこをどう取ったら褒めてないなんて思うんだろう。

 やれやれと思いながら最後のひと口をグビリと煽った。



「じゃあ最後の1杯は何にし・よ・う・か・なぁ~」



 少しだけフワフワする頭で最後の1杯に相応しいお酒を指差し確認しながら選ぶ。

 さっきはおツマミに合わせたお酒だったから今度は味わいたいお酒を選ぼうっと。



「あっ、お前まだ飲む気なのか!?」



「だってまだ2杯しかし飲んでないもんね~」



 ホセが声を上げたけど、3杯までならって前に言ってたじゃない、男に二言は無いんだぞ。

 まぁ手の平返す男なんていくらでも居るけどね~、ホセもその部類の男だったのかな~? あはははは。

 そんな事を思いながら甘めのリキュールを選んでグラスに注いだ。



「おい、もういっぺん言ってみろ」



 ホセが不機嫌全開で唸る様に言った、どうやら声に出ていた様だ。

 ここは誤魔化す一択だね。



「んん? 何が?」



「すっとぼけやがって…」



 何か言ってるけど聞こえな~い。

 3杯飲み終わった私は他の皆が飲み続けるのを黙って見ているのは悔しかったので、1人先に割り当ての部屋に戻った。

 うん、朝になってもちゃんと覚えてるから問題無いよね。

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