第97話 要塞都市再び
何だかホセがずっとニヤニヤしている、とりあえずビビアナは昨夜私に愚痴ったからなのかため息を吐かなくなったから良しとしよう。
「もうっ、今朝から何なの!? 後ろに居てもニヤニヤしてるのが気配でわかるんだけど!?」
移動中の馬上で出来るだけ身体と首を捻ってホセをキッと睨む、予想した通りホセはニヤついていた。
「ん? ぃや、ただの思い出し笑いだって。気にすん…なょ」
そう言いながらも笑いを堪えているのが丸わかりだ、私の顔を見ようとしないし。
私とホセが馬上でゴチャゴチャ言い合う光景はいつもの事になっているので、最初の頃は仲裁に入っていた皆も今は放置だ。
「ふぅん、そういえば思い出し笑いする人ってスケベだっていう俗説あるけど、本当かなぁ?」
「あぁ!? そうか、そういう事言うならオレが笑ってた理由教えてやるよ。お前が昨夜ビビアナに捕まったままジタバタして必死な様子でドアも閉めずに部屋を飛び出してったろ? 微妙な感じで戻って来たからちゃんと間に合ったのかと思ってよぅ、でも聞いちゃ可哀想かと黙っててやったのに、そうか、皆にバラして欲しいんだな?」
「あの時起きてたの!? だったら助けてくれたら良かったじゃない!」
「バッカ、あの時助けるには人型にならなきゃダメだろうが、あの時オレは服着てたか? そんなオレに助けられたら逆に困るのはアイルじゃねぇ?」
「ぐ…っ」
反論出来ずにプイっと前を向く。
「シーツで隠すとかすれば問題無かったのに…」
前を向いたまま小声でブツブツと文句を言っていたらホセがバッと振り向いて皆に声を掛けた。
「お~い、昨夜アイルがよ~「間に合ったもん!!」
半分嘘だ、ギリギリ過ぎて下着を下ろすのが0.2秒間に合わず、ほんの少しだけ下着の一部を濡らしてしまったのだ。
ちゃんと洗浄魔法で綺麗にして戻ったからバレる事は無い、だけどちょっと落ち込んで戻ったのを気付かれていたとか!?
「また喧嘩してるのかい? 喧嘩する程仲が良いって言うけど、仲良しだねぇ。私も気軽に喧嘩出来るくらい仲良くなりたいと思ってるんだけどなぁ。アイル、私と馬に乗ってもいいんだよ、ホセより私の方が小柄だからゆったり乗れるし」
ちょっと迷ってホセの顔を見たら、無表情で私を見下ろしていた。
口を開こうとしたら先にホセがガブリエルに答える。
「ダメだ、一応ガブリエルは依頼人だからな。依頼人に手間掛けさせる訳にはいかねぇだろ」
それもそうか、料金が発生してるんだから最低限の線引きは必要だもんね。
素直に前を向いて元の体勢に戻ると後方からガブリエルのブーイングが聞こえたが放置した。
崖の街道の手前でお昼休憩に入る、でないと崖の間を抜けるまで休憩ポイントが無いからお昼ご飯がお預けになってしまう。
探索魔法で周りに人が居ない事を確認してストレージから馬達の水入れや自分達のシートやテーブルを出して食事の準備をする。
障壁で風を防いでも気温はどうにもならないのでウルスカ程じゃないにしても冬なので結構寒い、という訳でガブリエルの屋敷で作ってきたポトフを出そう。
「はぁ…普段でも美味しいけど、寒い時に食べると更に美味しく感じるわねぇ」
「んむ…、アイルのお陰で出来立てアツアツなのが嬉しいよね。このメンチカツだっけ? 衣がザクッとしてるのに中はジューシィで僕の好物になったよ」
「んふふ、ガブリエルの屋敷で料理人の皆に手伝ってもらったからいつもよりグレードアップしてると思うよ。プロは手際が違うから面白いくらいにどんどん出来上がっていくんだもん、凄いよねぇ」
私が教えたレシピの練習を兼ねて大量に作って貰えたので帰りの食事も安泰だ。
ウルスカに帰ってから道中より質が落ちたとか思われたらどうしよう、宿の厨房を借りて少しずつ私1人で作った料理を紛れさせていくべきか。
「食事はエルフの娯楽の定番だからねぇ、初代の料理長は私好みの料理を作る者を行きつけの店から引き抜いたんだよ。それからは料理長が下の者を育ててくれてるんだ」
3大欲求のひとつは殆ど無いんだもんね、寝る事はともかく食べる事に拘るのは必然かもしれない。
食後しばらく食休みを挟んで出発した、前回通ってからひと月近く経ってるから新しい盗賊が現れてないかと心配したが、今回は何事も無く崖の街道を通過した。
「あ、エスポナが見えてきた!」
要塞都市の名に相応しい外壁が視界に入る、まだ陽が高いから酒屋巡りする時間はありそうだ。
ガブリエルの身分証でサクッと街中に入り、行きに利用した宿で部屋をとった。
「じゃ、行ってくるね!」
皆にそう告げて部屋を出ようとしたら首根っこを掴まれ捕まった。
「待て、お前酒屋巡りするって言ってただろ? まさか1人で行って試飲しまくるつもりじゃねぇよなぁ?」
チィッ、バレたか。
でも殆ど王都と品揃えは変わらないだろうから試飲する種類自体少ないはず。
という事は回数も少ないからきっと酔う程飲まない計算だったのだ。
「だ、大丈夫だよ、手持ちに無い物しか試飲しないもん。殆ど王都と品揃え変わらないんでしょ? だったら問題無いよね?」
ジトリとしたホセの視線に何も疚しく無いはずなのに勝手に目が逸れてしまった。
「オレも一緒に行くからな」
「皆で飲むお酒を買うんだから皆で買いに行きましょ、ね?」
「はい…」
結局全員で酒屋巡りする事になり、やはり試飲の量を減らされた。
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