第403話 恋心の説明

 2人の話を聞いて纏めるとこうだ。

 エルフの里でガブリエルの次に産まれた女の子が9歳下のレミエル、エルフの里ではかなり歳が近い部類らしい。

 その為長老と呼ばれる村のご意見番達が2人を結婚させれば良いと2人の両親に言い、承諾した。



 ガブリエルは里の外に出て行ったエルフが里帰り等で持ち込む魔導具の虜になったのが60歳頃、周りはそろそろ身を固めてはどうかと言い出したがガブリエルには全くその気が無かった。

 その時に長老達にはレミエルには自分じゃなくて他の男性と結婚させてやってほしいと言ったらしい。



 しかしレミエルはガブリエルと結婚するんだと幼い頃から周りから言われてきたので、見た目も良く穏やかなガブリエル以外考えられないと言ったそうだ。

 そして魔導期の終わりと共に焦った長老達が結婚を急かし始めたのでガブリエルは里を逃げ出して来た…と。



「ん? ガブリエルが穏やか…?」



「アイル、確かに僕達が知っているガブリエルは穏やかとは表現しないかもしれないけど、もしかしたらエルフの中では穏やかなのかもしれないよ?」



「な、なるほど…。あ、どうぞ話を続けて」



 レミエルが言う穏やかなガブリエルが想像つかなくて思わず呟くと、エリアスが私の肩に手を置いてさとした。

 エルフの里に居るエルフ達ってどれだけ激しい性格の人達なんだろう、エルフの里に行ってみたいような行くのが怖いような…。



「何か勘違いしてる様だから言っておくけど、大人になってからの私は魔導具を知るまであまり感情が動かなかったんだ、なにせエルフの里は殆ど変化が無いところだったからね」



 肩を竦めながらそう言うが、感情の動かないガブリエルの想像が出来ない。



「確かにそうだったわ、だけど魔導具に夢中になって表情が変わる様になったガブリエルも悪くないもの」



「んん? という事はレミエルは普通にガブリエルが恋愛感情で好きって事?」



 だとしたら話は違ってくる、ガブリエルが研究馬鹿な事も含めて好きならばその恋を応援するのもやぶさかではない。

 しかしレミエルは首を傾げた。



「その恋愛感情ってよくわからないのよね、お互い相手が居なくて嫌いじゃないなら子孫を残す為に結婚するんじゃないの?」



「そこから!?」



 ダメだこりゃ、本当に考え方が全然違う!



「あはは、無理だよアイル、エルフって寿命が長いから子孫を残す為の本能が弱いって前にガブリエルも言ってたじゃないか。セゴニアに居たハニエルだっけ? あのエルフが珍しいタイプなだけだと思うよ」



「そっか~、大人になってるのに恋心すら理解出来ないってのは難しいねぇ。獣人みたいに初恋がわかりやすかったら良いのに。どこかの国では初恋はチョコレートって言うんだって、甘くてほろ苦くて忘れられない…ってね! だけど2人は異性にドキドキした事無いのかぁ」



「ああ~、確かに初恋は忘れられないかも。損得無しで純粋に好きって気持ちだけだったからかなぁ…」



 エリアスが昔を懐かしむ様に呟いてお茶に口を付けた、エリアスにもそんな純粋な頃があったんだねぇ。 



「初恋ねぇ…、恋ってどんな気持ちになるのかしら?」



 おっとぉ、ちょっと恥ずかしい質問が来たー!

 ここは恋多き男なエリアスに任せよう。



「エリアス、教えてあげて」



「僕? 恋かぁ…、う~ん、例えば…」



 エリアスは少し考えてから斜め前のソファに座るレミエルの指を下からすくって絡める様に手を取った。

 そして指の付け根に唇を落として悪戯っぽく微笑む。



「綺麗な手だね、思わずキスしたくなっちゃった」



「な、な…!」



「あはは、これで少しはドキドキして貰えたかな? 恋はその人の事を考えたり、顔を見ただけとか、声を聞いただけでもドキドキするものだよ。それにしてもこんなに美人なのに初々しい反応だねぇ、可愛いなぁ」



 レミエルはキスされた手を引き抜くと、反対の手で握り締めながら真っ赤になっている。

 今までエルフの里に居たから美人は多いだろうし口説かれた事も無かったのだろう、エリアスも拒否される事を全く考えて無い行動だ、これだからイケメンは!

 これで間違ってエリアスに惚れたとかなったらどうするつもりかな。



 ハッ、それよりレミエルのこの反応に対してのガブリエルの反応は!?

 レミエルの向かいに座るガブリエルに振り向くと、何の反応も示さずただ見てるだけだった。

 あ、ダメだ、ガブリエルにはレミエルに対して欠片も恋愛感情が無い。



 レミエルの方は無自覚にガブリエルが好きっていうパターンは無いだろうか。

 私は立ち上がり、ガブリエルの膝の上に横向きに座って首に腕を回して軽くハグ。



「どうしたんだいアイル、ビビアナにやってるのはよく見たけど私にするなんて初めてだね!」



 ガブリエルは野良猫が初めて懐いたかの如く嬉しそうに言うと、ビビアナがいつもしている様に私が落ちない様に腰に手を回した。

 肝心のレミエルの反応はというと、私のいきなりの行動にキョトンとしているだけでヤキモチを焼く様子が見られない。

 私はふと思いついてガブリエルの膝から降りると、今度はエリアスの膝の上に座った。



「何やってるのアイル? 酔って無い時に僕の膝の上に来るなんて初めてだねぇ」



 首を傾げるエリアス、そして私は見た、レミエルが唇を引き結んだ姿を。

 私はエリアスの肩をポンと叩き、クイッと親指でレミエルを指した。

 これまで経験上何度も見てきたであろう嫉妬を滲ませたレミエルの様子にエリアスがヒュッと息を飲んだのがわかった。



「免疫の無い子にあんな事するから…」



 ポソっと呟きエリアスの膝から降りて元の席に戻る。



「ああ、アイルはレミエルが嫉妬するか確認したのか、レミエルはエリアスが好きになったのかな?」



 鈍いんだか鋭いんだかわからない発言をしたガブリエルは、とりあえず空気を読んではいない事だけはわかった。

 こうなったのは面白がってついてきたエリアスの自業自得だよね。

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