第328話 平穏な街道
「それじゃあ兄さんによろしく伝えて」
「ああ、ラファエルも元気でな。世話になった」
御者席でリカルドがラファエルと最後の挨拶をしている、私達は馬車に乗る前に挨拶済みだ。
そして馬車が走り出し、ラファエルが見えなくなるまで後方の窓から手を振った。
「昨日夕食作る時に厨房使わせて貰えたから料理のストックが出来たよ、料理人の皆が私のレシピ完璧に覚えてたから楽させて貰っちゃった」
「ああ、だからアイルの料理が並んでたんだね」
私の言葉にエンリケが納得した様に頷いた。
「道理でアイルと同じ料理が出た訳だ、アイルの作る料理は食べた事の無い物が多いからな。旅の間に何度驚いた事か」
「今回作ったのは殆ど料理人の皆だけどね、レシピを登録したのが私なだけで。それにしてもビルデオには賢者サブローの料理とかあまり伝わって無かったみたいだね、醤油も無かったみたいだし」
「うむ、ビルデオには賢者は来ていないからだろう。王が獅子獣人と聞いて来るのを拒否したと聞いたぞ、私達狼獣人の事も恐れていた様だしな」
「ああ、そっか…」
それは仕方ないかも、ケモ耳とかケモナーとか言われ出したのなんてファンタジーが流行ってる現代だからこそだもんね。
昔の人からしたら獅子だの狼だの言われても肉食獣だったり、人を襲うイメージがあるから怖がっても仕方ないか。
「何がそっか、なんだ? お前は最初から平気だったじゃねぇか、オレが獣化してた時も人化した時も」
「だって最初は服着てたから誰かに飼われてる犬かなぁって思ってたし、獣人が平気なのは…そうだなぁ、時代によって考え方や文化が変わったお陰かな?」
「うふふ、アイルは平気というより大好きじゃない?」
ビビアナがチョンと私の頬がを指で突いた。
「えへへ、まぁね。多分私の親世代が産まれたくらいから文化がドンドン変わってきたせいだと思うんだ。私が産まれた時には空飛ぶ乗り物に乗って旅を楽しんだりするのは普通の事だったけど、サブローの時代はひと握りの人だけだったと思う。それくらい凄い勢いで文化と技術が発展した時代だからね」
だから女神様が覗くのに飽きずに帰って来ないんだけどね、と心の中で続けた。
「聞けば聞く程不思議な世界だよな、獣人も居ねぇし、魔導具もねぇんだろ? なのに空飛ぶ乗り物とか言われてもピンと来ねぇな」
「噂には聞いていたが本当に違う世界から来ているのだな。ううむ…、獣人のおらん世界か…想像つかんな」
ホセの言葉におじいちゃんが腕を組んで唸った。
「獣人だけじゃなくてエルフもドワーフも魔物も居ないよ、言葉を話すのは人族だけなの。獣人が獣化した姿をした動物はたくさん居るけどね」
「ククッ、
「もうっ、忘れてよ!!」
「いやぁ、アレは忘れられねぇだろ!」
笑うホセをポカポカと叩くが、全て掌で受け止められた。
他の皆も肩を震わせて笑っている。
そんな私達を乗せた馬車はパルテナの王都を出て街道を進んだ。
そして王都を出て3日目に
最近魔物討伐もあまりしてないし、盗賊でも出ないかなと思ったが、パルテナ国内では私達の姿絵はどんな小さな村にもあるせいか1度も遭遇しなかった。
「ここは中々の砦だな、この国の要所なのか?」
門を潜り、エスポナの中から外壁を見回しておじいちゃんが言った。
「ああ、ここは隣国のセゴニアと接している領地で要塞都市と呼ばれているくらいだからな。おじいさんは元騎士なだけあって砦として
「道理で…、ここなら余程の戦力差が無いと落とせんだろうな」
「王都を守る防衛線だからパルテナで1番の要塞なんだ、外壁の形状も…」
おじいちゃんとリカルドの要塞トークは今日の宿屋に到着するまで続いた。
男性陣は興味がある話題らしくて聞いていたが、ビビアナは御者で居ないし、私はボンヤリと窓の外を眺めて時間を潰していたので彼を見つける事が出来た。
「宿屋で受付だけ済ませたらちょっと広場まで行ってくるね」
「ちょっと待て、1人で行く気か?」
お出掛けする宣言をしたらホセから待ったが掛かった。
「別に1人でも1人じゃなくても良いよ、誰か一緒に行く? 今後のおじいちゃんの為にも行っておきたいんだよね」
「ん? 私の為? ならば私が同行しよう」
「俺も行こう、ホセだと身内だとすぐバレそうだしな。今後おじいさんの身分が明るみに出た場合の事を考えて身内だという事はあまり広めない方がいいだろう。護衛はアイル1人でも平気かもしれないが、店に気を取られて
おじいちゃんが行くと言うと、リカルドも名乗りを上げた、要塞トークが楽しかったからだろうかとちょっと思ったり。
「ええ~? 信用無いなぁ、何だったら障壁魔法をおじいちゃんに掛けておくっていう手も…」
「お前それだと逸れるの前提に考えてんじゃねぇか!」
ホセのツッコミを受け流し、宿屋に到着した私はおじいちゃんとリカルドを連れて広場へと向かった。
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