第491話 入り口の変更

 私とリカルドはトレラーガを目指して移動していた。

 うん。本当ならもうひとつ王都寄りの町に向かうはずだったけど、パルテナの港に到着して寄った宿屋でくつろいでいたらガブリエルの通信魔導具を使ってエリアスから連絡が入ったのだ。



 その内容はエドからのお迎えが来て、今はエドの屋敷にいるとの事だった。

 なんでお迎えが!? もしかしてタリファスに向かう時、門の近くで姿を見せた時に関係にでも見られたんだろうか。



 だけどそれならエリアス達の場所がバレる訳ないし……。

 遠くにトレラーガの外壁が見える街道を馬で移動しながら話していたら、リカルドが首を振った。



「いや、残念ながらエドガルドがアイルにご執心しゅうしんなのはトレラーガでは暗黙の了解だから、あの時俺達を見た冒険者が噂したのを口伝くちづてに耳にした可能性が高いな。元々『希望俺達』の知名度もそれなりにあった上、大氾濫スタンピードからは更に有名になったから、アイルがいなくてもエリアス達の目撃情報も移動している冒険者の噂になるくらいはするさ」



「ん……? ちょっと待って、『希望エスペランサ』の知名度はわかるけど、トレラーガで暗黙の了解ってどういう事!? まさかあの大きな都市全体に広まってるなんて事は無いでしょ? リカルドったら大袈裟なんだから~、あははは」



 エリアスならともかく、リカルドがそんな風に大袈裟な物言いをするなんて珍しい。

 本当にこの二人旅で色んな面を見れたなぁと、わずかな嫌な予感を振り切るように笑った。

 しかしリカルドの次の言葉で現実を突きつけられる。



「大袈裟じゃないぞ? あれだけトレラーガの治安が良くなったんだ、住人は理由を知りたがるだろう? エドガルドは聞かれたら誇らしげに、アイルがそう望んだからだと言いふらしていたらしい。それを聞いた人がどう思うかはわかるだろう?」



「…………わかっちゃうね」



 嬉々として言いふらすエドの姿が目に浮かぶよ、自分の発案って事にしておけば更に評価が上がるだろうに。

 エドはあんまり自分の名声とか気にしないみたいだけど、なんだかんだと領主から信頼されるくらいに有名になってるんだから凄いよね。



 まぁ、今やってる事はエリアス達を人質にして私をおびき寄せてるようなものだけどね。

 エリアス達がエドガルドの屋敷を制圧できる戦力だから何とも思わないけど、か弱い仲間だったら完全な悪役だ。



「しかし……、無理矢理エドガルドの屋敷に連れて行かれたような事を言っていたが、喜んでついて行ったと思うのは俺だけか?」



 諦めたように空を見上げながらリカルドが呟くように言った。



「リカルドだけじゃないねぇ。だって、宿屋よりもエドの屋敷の方が確実に私のレシピの料理が完璧な味付けで出てくるもんね。しかもエドから何か言われるのは合流した後のリカルドだろうから、エリアス達に害は無いもん。しかも時間潰す為のお店はトレラーガの方がたくさんあるし」



「だよな……、ハァ……」



 ガクリと肩を落としてうつむくリカルド。



「だっ、大丈夫だよ! ちゃんと私がリカルドを守るからね!! エドのご機嫌も多少とるから!」



「いや、エドガルドの機嫌をとって余計に執着するようになったら大変だぞ。今でも十分執着されてるんだからな。それにアイルがホセと同じベッドで寝てる事を知っても暗殺しようとはしていないんだから大丈夫だろう」



 エドってなかなかの危険人物として認識されてるよね、リカルドの口からサラッと暗殺なんて言葉が出てくるあたり。

 元暗殺者だから仕方ないかもしれないけど。



「確かに……、私の仲間に危害を加えるような事はしないだろうから大丈夫かな?」



 楽観的な考えに落ち着いたところで、門の前の百メートル程ある行列の最後尾に並んだ。

 トレラーガの反対側まで行って冒険者用の門から入るより、この行列に並んだ方が楽だもんね。



 交易と言われるだけあって、反対側の門まで行くのに馬でも一時間はかかるのだ。

 馬から降りてストレージから木桶を二つ出すと、片方をリカルドに渡す。



「お疲れ様、もう少ししたらゆっくり休めるからね。『水球ウォーターボール』」

 


 馬達にねぎらいの言葉をかけながら二つの桶を水で満たした。

 嬉しそうに水を飲む馬達になごんでいると、私達の前に並んでいた男性が振り向いた。



「えっ!? 賢者様!? どうしてここに……」



「? 仲間がトレラーガで待ってるからだけど」



 どうしてそんなに驚かれるんだろうと首を傾げたが、すぐにその理由がわかった。



「いや、そうじゃなくて……。賢者様達はAランク冒険者だから貴族用の門を使うんじゃ……」



「へ!? そうなの!? リカルド知ってた?」



「初耳だな、いつからそうなったんだ?」



「二週間くらい前に領主様からのおれでなったばかりだけど、結構前からエドガルドさんが賢者様が……じゃなくて、高位冒険者が有事の際に素早く町を出入りできるように話を持ちかけたらしいんだ」



 リカルドが男性に聞くと、まるでアイドルに会ったファンのように目をキラキラさせて答えてくれた。

 二十歳そこそこみたいだし、強い冒険者に対する憧れがあるんだろうな。

 別に私には驚いただけで普通の態度だった事に対して不満に思ったりしないもん。



 せっかく教えてもらったので、男性にお礼を言ってトレラーガに入る為に貴族用の門へと向かう。

 なお、私とリカルドを見て門番達がにわかに忙しそうに動き出したのは見なかった事にした。



◇◇◇


@takenyan_1967さんからおすすめレビューを書いて頂きました!

ありがとうございます (*´▽`人)♡


そしてお気づきでしょうか、なんと……フォロワーさんが9,000を超えて大台10,000人に迫っていると!!

"(ノ*>∀<)ノ ワーイ ヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪

改めてお読み下さっている皆様にお礼申し上げます。(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)ペコリ


とうとう書籍も発売されたので、書店で証拠写真撮るくらい浮かれております( * ´ 艸`)

書籍化がキッカケで本作の初期から読んで下さっている方と共通の友人がいた事が発覚して驚いたり。

いや〜、世間って狭いですね!

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