第71話 ガブリエルの身分

「帰って来れるのは多分夕方だからそれまでは好きに過ごしてていいからね」



 朝食の席でガブリエルがそう言ったので私達は買い物と観光に行く事にした。

 ついでにお昼は王都の名物料理を食べようと盛り上がっているとガブリエルの視線がだんだんジトリとしたものに変わってくる、今から職場に行く人の前で遊びの計画をしたせいなのだが。



「ラファエルは今日何してるの? 良かったら一緒に行かない?」



 ビビアナが聞くと迷っているのか視線を泳がせてから口を開いた。



「街中は…ジロジロ見られる事が多くて苦手なんだ…」



「あぁ~、美形だしエルフ自体珍しいもんね、しかもエルフの男性って少ないらしいし」



 エリアスが納得した様に頷いた。



「でもさ、今日のメンバーなら視線は分散されるからチャンスだと思うよ?」



「分散?」



 私以外にも子供に見える人を道連れにしたいという下心を隠して提案すると、ラファエルは首を傾げた。



「私はともかくウチのパーティメンバーは美形揃いでしょ? 美形を隠すには美形の中だよ、それに若く見えるのが私1人より2人の方が目立たないはずだもん。それでも気になるなら耳の先が隠れる大きめの帽子被るとか」



「それならアイルも一緒にお揃いっぽい服装で揃えてみない? その方が絶対可愛いわ、最初にそういう服を買いに行きましょうよ!」



「楽しそうでいいね…」



 私の発案にビビアナがウキウキと乗っかって来た、これは強制的にラファエルも連行されるパターンだね。

 そんな私達を見て寂しそうに漏れたガブリエルの呟きは、どんな服装がいいか案を出すビビアナの声に掻き消された。



 ガブリエルがため息を吐きながらも普段より立派な王立研究所の制服を着て出掛けた後、私達は6人乗りの馬車に乗って出掛けた。

 お屋敷には2人乗り、4人乗り、6人乗りの馬車の本体があるらしい。



「しっかしスゲェな、あんなデカイ屋敷にこんな馬車まで。王立研究所の支所長の給料ってそんなに多いのか?」



「ああ…、それは兄さんが支所長だからじゃなくて伯爵位についてるからだよ」



「「「「「伯爵!?」」」」」



「うん、3代前の王様の時に功績の褒美をって言われた時に領地は要らないって言ったら伯爵にされちゃったって言ってたから。魔導期が終わった頃だったらしいし、恐らく魔法を使える人材を囲い込む為だったんだろうね」



「あれで…貴族…」



 呆然とリカルドが溢した言葉は結構失礼かもしれないけど、皆同意とばかりに頷いていた。



「あ、ここだよ。この店なら普段使いに丁度良くて、針子も多いから既に出来上がっている服も多く置いてあるんだ」



 そう言われて入った店は明らかに高級店だった、だけどあの屋敷で過ごすならこのくらいのレベルは必要だろう。

 皆も同じ考えなのか、普段なら服屋に入ると違う場所で待ってるホセもちゃんとついてきている。



「いらっしゃいませ、ラファエル様! お久しぶりですね、本日は何をお探しですか?」



 店に入るとふくよかなマダムが現れた、どうやらラファエルは常連の様だ。



「この2人がセットに見える良く似た服装が欲しいの、出来れば大きめの帽子を合わせて。可能であればここで着替えて行きたいのだけれど」



 ラファエルが口を開く前にビビアナが私とラファエルの肩を掴んで引き寄せた。

 マダムは数回瞬きすると、途端に瞳をキラキラさせて頬を紅潮させた。



「まぁまぁまぁ、それはとっても素敵な提案ですわね! お任せ下さい、誰もが振り返る素敵なコーディネートをご用意致しますわ! こちらのお嬢様は160cmくらいかしら、10cm程度の差であれば同じコンセプトで作られた服がございましてよ!」



 マダムはそう言うと体型に似つかわない見事なフットワークで店の中を移動したかと思うと3種類の男女の双子コーデ的な服を並べた。

 中性的な2人ともパンツスタイルの物にキャップ、上半身のデザインがほぼ同じセーラーデザインだけど私の方はレースの飾りが付いたフレアスカートの物に小顔効果のありそうなモコッとしたハンチング、コートまでセットの耳まで暖かいフライトキャップに合わせた2人共ボーイッシュな物。



 結局全部試着し、その度にビビアナとマダムがキャッキャと喜び、男性陣も納得のコーデだったので全部買う事になった。

 しかも私達が試着している間に皆が選んだ自分達の服もガブリエルの護衛をしてくれてるお礼だと言ってラファエルが全部支払いをしてくれた。



 本来なら貴族だったらお茶会や夜会を屋敷で開くが、ガブリエルが居ないから予算が余っているんだとか。

 そしてガブリエルが長く王都に引き留められるだろうからそのお詫びも兼ねてと言われたら断る理由は無い。



 結局最後に着たフライトキャップのセットを着て街を散策する事になった。

 私達が店を出るとすぐにショーウィンドウのマネキンがフライトキャップのセットに着替えさせられていたとエリアスが言っていた、流石何人も針子を抱える店だけにマダムはやり手の様だ。



 マダムの目論見通り(?)その日は同じ服の在庫が完売したとか、屋敷に帰る時にラファエルがいつもより注目されていた気がすると呟いた言葉は聞かなかった事にした。

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