第543話 朝のお散歩

 マザーの微笑みに落ち着かない一日を過ごした数日後、私の心の平穏であるアリリオとビビアナと共に朝のお散歩をしていた。



「あー」



「はーい、アイルですよ~」



「うふふ、だからまだ名前はわかってないでしょ」



「そんな事ないもんね~、アリリオはアイルってわかって言ってるもんね~」



 最初にママと言うのは仕方ないとしても、パパよりアイルと言わせたい私は日々努力をしているのだ。

 そんな平和なお散歩の途中、ビビアナがションボリと歩く孤児院の男の子達を見つけた。

 全員冒険者登録をしている大きめの子供達なので、冒険者ギルドで何かあったのだろうか。



「あんた達、そんなにしょぼくれた顔してどうしたの?」



「あっ、ビビアナ姉ちゃん! アリリオも元気か? ついでにアイルも」



「ついでってなによ、ついでって! まぁ、アリリオを優先したくなる気持ちはわかるからゆるす」



「…………アイルは相変わらずだな。この前アイル達が森の異常の原因が無くなったって言ってただろ? だけど、今度はその異常の反動で動きが活発になってるらしいんだよ。特に大蜘蛛ビッグスパイダーの産卵時期には早いはずなのに、産卵前の動きをしてるからしばらく森に入るなって言われてさ。低ランクの冒険者全員がそうだから、俺達に残ってるのはドブ掃除とか皆が嫌がるような仕事しかないんだよ」



「暖かくなってきたからにおいも酷くなるものね。服にヘドロが付くと洗ってもしばらく臭いが取れないし」



 経験者であるビビアナが苦笑いしながら言った。

 なるほど、特に気になる女の子がいる子はくさいまま孤児院に戻りたくないよね。



「それじゃあ依頼が終わったら『希望私達』の家においでよ、洗浄魔法で臭いも汚れも綺麗にしてあげるから。だからしっかり綺麗に掃除しておいで」



「本当か!?」



「助かる~」



「いいなぁアイルは。アリリオ達も大きくなったら魔法が使えるって本当? 俺も使えればいいのに」



 身近な人が魔法を使えたらそう思っちゃうよね。

 リカルドですら小さい灯りが出せただけで、あれだけ喜んでいたし。



「う~ん、アリリオ達が魔法を勉強する頃なら、才能次第で少しは使えるかもよ? 絶対とは言えないけどさ。今度またリカルドに試してもらって使える進行度合い調べてみようかな」



「「「うおぉぉぉ!」」」



 私の言葉に、まるで今すぐ魔法が使えると言われたかのように喜ぶ子供達。



「え、ちょ、ちょっと! あくまで何年か後だし、才能次第だからね!?」



「わかってるって! じゃあ後で家に行くから! アリリオ、早く大きくなれよ~!」



 張り切って依頼の現場へと向かう子供達。



「あれはもう自分だけは・・・・・魔法が使える気満々ね、あの子達。アイルってば罪な事を……、あのくらいの子は自分だけは特別な才能があるって思い込む年齢なんだから」



「え? えぇっ!? どうしよう……」



 異世界にも中二病の概念がいねんがあったとは……!



「ま、誰もが通る道みたいなものだから、気にしなくて大丈夫よ。挫折せずに済むのは、本当に才能のある一握りの人間だけだって、いつか知る時が来るわ。アリリオはその一握りに入りそうだけどね~」



 あっ、冷静に見えても、ビビアナもちゃんと親バカだったんだね。

 実際のところ、女神様の加護をもらった両親から生まれて、曲りなりにも女神の化身の私のそばで育つんだから間違いないだろうけどさ。



「それにしても大蜘蛛ビッグスパイダーの産卵が始まるんなら、しばらくは孤児院の子達や新人冒険者は困っちゃうね」



「そうね、一ヶ所に集まって産卵するならともかく、縄張りがあるから広範囲になるもの。孵化ふかする時期に行くとしたら、探索魔法を常に使ってない限り森に入りたくないわね」



「それは私も同感だよ、絶対にあの時の再現は勘弁してほしいもん」



 パルテナ王都での夜会で王子達に話した事もある大蜘蛛ビッグスパイダーの子蜘蛛事件を思い出し、私とビビアナは同時に身震いした。

 気持ち悪い物を思い出しちゃったから、アリリオの笑顔を見て癒されよう。



「アリリオは本当に癒しだねぇ、どうしてこんなに可愛いのかなぁ。それはアリリオだからだねぇ~」



「きゃっきゃっ」



 顔を近付けると可愛い手でペチペチと私の顔を叩く。

 うん、段々力が強くなってきたから気を付けないと、その内痛い目をみそう。



 そんな幸せお散歩から帰宅すると、リビングでくつろいでいた皆に孤児院の子達から聞いた話を報告した。



「今は他所よそからも高ランク冒険者が来て定住してるんだからよ、オレ達が動かないといけねぇって事にゃならねぇだろ」



「だけどさ、元からウルスカにいる冒険者じゃないと、いつもと違うとかわからないんじゃない?」



 ホセとエリアスの話を聞いて、リカルドが唸る。



「う~ん、一応冒険者ギルドに顔を出しておくか。ウルスカに戻ってる事も報告しておかないといけないしな」



「じゃあ僕も行った方がいいよね。午後に行ってこようか」



「そうだな」



 リカルドとエリアスは昼食を食べ終わると、冒険者ギルドへと向かった。

 二人を見送ったホセが、リビングでアリリオをあやしながらポツリと呟く。



「なぁ、リカルドがなんだかんだギルマスに頼み込まれて、依頼を受けて帰ってきそうだと思うのはオレだけか?」



「俺は最初からそうなるって思ってるよ。何なら賭ける?」



「へっ、どうせ二人共依頼を受けるに賭けるんだから意味ねぇだろ」



 そんなホセとエンリケの会話に、フラグが立つイメージ画像が脳裏に浮かんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る