第544話 ギルド長の依頼 [side リカルド]

「なぁ、頼むよ。いつも通りなら他の連中でも任せられるけどよ、これだけ異常事態が続いてるとなるとお前らみたいな実力者か、アイルみたいに魔法を使える奴じゃなきゃ任せられねぇんだ! かと言ってガブリエルや他のAランク以上の冒険者は例年の森の様子なんて知らねぇしよ」



 俺は今、ギルド長室でディエゴに面倒な事を頼まれている。

 ただウルスカに戻って来た事を伝えに冒険者ギルドに顔を出したはずが、俺とエリアスを見つけたディエゴにギルド長室まで強引に連れて来られた。



「だけど今朝までのアイルの様子だと、依頼を受けるのは難しそうだったよね」



「確かに……、変異種の大蜘蛛ビッグスパイダーのせいで大変だったみたいだしな。しかもまた大蜘蛛ビッグスパイダーの異常行動の調査となると確実にゴネるだろう」



 エリアスの意見に同意した。

 あの状態のアイルを説得できるとしたら、きっとビビアナだけだろう。

 しかしディエゴには余裕があるように見える。



「そこはまぁ、こっちも多少手は打ってあるさ。まだ採取しかできない孤児院の奴らがいるだろう? アイルに会ったら自分達は大蜘蛛ビッグスパイダーの件が落ち着くまで森に入れない事を話すようにと言ってある。アイルは子供には甘いからな。あとは日帰りで行ける距離だけでいいからって言やぁ、受けてくれると思わねぇか? アイルがいなくても今の『希望エスペランサ』なら問題無く調査できるとは思うけどよ」



 確かにビビアナとアイルがいなくてもエンリケがいるし、四人であれば大蜘蛛ビッグスパイダーが出たとしても対処できるだろう。

 ただひとつ心配なのが、ホセの状態だ。



 変異種の催眠で記憶喪失になったらしいが、それが解消されたとはいえ、後遺症的なもので催眠にかかりやすくなっていたとしたら四人では厳しい。

 ホセの身体能力に対応できるのはエンリケだけだろうし、その間他の大蜘蛛ビッグスパイダーを俺とエリアスだけでなんとかできるのか微妙だ。



「う~ん、やはり万が一の事を考えるとアイルもいた方が安心だな……」



「だよなぁ! その方が素材を持って帰る事になった時も楽だしよ! その場で自分達で解体せずに、ギルドまで丸ごと持って来る方がいいだろ!?」



「ディエゴ……、もしかして調査はついでで、素材を持って帰って欲しくて僕達に依頼してるんじゃないの?」



 エリアスがジトリとした目をディエゴに向けた。



「そんな事ねぇよ! 産卵時期の大蜘蛛ビッグスパイダーが面倒なのは知ってるだろ!? これまでと違って、縄張りが移動してるみたいだしよ。そんなところに採取組の新人を行かせられねぇっての!」



 ディエゴは本心を隠すのが上手いが、言っている事に矛盾は無い。

 いざとなったらビビアナに頼んでアイルを説得してもらえば何とかなるか。



 結局翌日から調査に行く事を引き受けてしまった。

 恐らくアイルは怒るだろうな……。

 気まずい思いでギルドを出た。



「まぁまぁ、たぶんアイル達はリカルドが依頼を受けて帰って来る事を予測してると思うよ。さっきディエゴが孤児院の子達にアイルに状況を話すように伝えたって言ってたでしょ? きっと皆やっぱりね~とか言いそう」



「そんなにわかりやすいのか、俺は……」



「ん~……、というより、リカルドの人のよさを皆がわかってるって感じかな? アイルに初めて会った時もそうでしょ? あの時アイルを気にかけずに別れていたら、今はなかったよね。ガブリエルの護衛で王都に行ってなきゃ、ビビアナもセシリオと結婚してなかっただろうし、今とは全然違ってたんだろうなぁ」



 エリアスはクスクスと笑いながら、通りすがりの顔見知りの女性達に手を振る。

 確かに以前よりも仲間達の性格を深く理解した気がする、同様に皆も俺の事を理解してくれたのだろう。

 そう思うと少々くすぐったい気持ちになった。そして家に帰り、リビングで報告する。



「やっぱりな。ほら、賭けにならなかっただろ?」



 ニヤニヤとホセが笑いながらエンリケに話しかける。



「予想通りだね、アイルの事をお人好しだって言うけど、二番目はリカルドだと思うな」



「私が優しいのは基本的に子供にだけだよ。リカルドはディエゴにも甘いんだから一番なんじゃない?」



「ぷぷっ、随分な言われようだね、リカルド。だけど僕の予想も当たってたね」



「うふふ、リカルド、皆あなたが依頼を受けて帰ってくるんじゃないかって言ってたのよ。アイルも日帰りならって納得してくれてるから安心していいわよ」



 ホセ達四人は俺の行動を予想し、その四人の考えをエリアスが予想して当たっていたという事か。

 きっとビビアナも渋るアイルを説得してくれたのだろう、本当に頼れる仲間達だ。



 そして翌日、アリリオにいってきますの頬擦りをするアイルをホセが引き剥がし、朝食後すぐに冒険者ギルドへと向かった。

 多少時間がかかっても、夕食までに帰って来るためだ。



 森への出入りが制限されているせいか、少しでもいい依頼を受けるために冒険者達も早い時間から大勢来ていた。

 『希望俺達』がギルドに入ると、久々に顔を合わす奴らと挨拶を交わす。中には当然反感を持つ奴らもいる。



 カウンターに並ぶ俺とすれ違ってから発せられた言葉は、ホセでなくとも微妙に聞こえる声量だった。

 その内容はビビアナが俺達に寄生して生活している、とういうような内容で、嫌な予感がして振り返ると二人組の男をホセと身体強化をしているであろうアイルが組み伏せていた。



「ビビアナの事を悪く言う人は私が絶対許さないから!」



「ぐ……っ、ギルド内での私闘はご法度だろ!?」



 アイルに抑え込まれた男が唸るように言うと、アイルはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。



「わかってる? やろうと思えばあなた達が森にいる時に、地中深く掘った穴に落として蓋をする事もできるんだよ? ここでお説教された方があなた達の身のためだと思うけど?」



「ひぃ……っ! すまなかった! おい、お前も謝れっ、早く!!」



 ホセに押さえつけられている男が慌てて謝り、仲間の男にも謝罪を促す。



「わ、悪かったよ! もう言わねぇから!」



 二人の謝罪の言葉を聞いて、アイルとホセは頷き合って二人を解放した。

 周りに迷惑をかけるほどではなかったため、俺達も何も言われず依頼を受けて森へと向かったのだが……。


◇◇◇


リカルド視点、ものすんごい久々な気が……w

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