第224話 ガブリエルと合流

 エドの熱い視線が鬱陶しかったので、身体のサイズをビビアナを参考に妄そ…イメージしながら再び呪文を唱える。



「『幻影イリュージョン』…どう?」



「おま…ッ」



「あら、いいんじゃない?」



「あぁ…」



 妙に動揺しているホセ、褒めてくれるビビアナ、ガッカリした様に肩を落とすエド。

 全身鏡が無いから見えないけど、顔はほぼ色違いな私で身長とスタイルがビビアナと同じな筈だ。

 まともに見ようとしないホセに首を傾げる。



「どうしたの? 獣人になったの気に入らない?」



 向かいの席から顔を覗き込むが、一瞬目が合ってもすぐ逸らされてしまう。

 ホセはため息を吐くと目元を手で覆いながら唸る様に口を開いた。



「はぁ…、獣人は本能的に同族を求める様に出来てんだよ。顔が好みの他種族とそうでも無い顔の同族だと後者に惹かれちまう…、だからお前の事も見てなきゃ匂いで狼獣人じゃ無いって認識出来るが見ちまうと混乱するんだよ!」



 俯いているから見える赤く染まった首元、伏せられた耳に何やら勝った気になる。

 初対面で9歳とのたまったホセが!

 散々貧乳だと弄ってバカにしてきたホセが!

 凄く揶揄いたい衝動に駆られるが魔法解除した時の仕返しが怖いので現在の光景を脳裏に焼き付けるだけにしよう。



「んもぅ、しょうがないなぁ…『幻影イリュージョン』…今度こそ大丈夫でしょ?」



 本日3度目の幻影魔法を自分に掛ける、身体のサイズが違うと動いた時に感覚がズレて妙な感じになるので解決するにはコレだろう。

 ちなみにケモ耳と尻尾はキープ…つまりは性別を男にしたのだ。



「ヤダッ、可愛い~!! ホセの小さい頃を思い出すけど、ホセみたいに生意気な顔じゃないから可愛さ倍増だわ!」



 ムギュッと抱き締められて久々にマシュマロ乳に埋もれた。



「まぁ…、それなら良いんじゃねぇ?」



 ジロジロと上から下まで見てホセが肩を竦めて言った。



「うん、私もそれならバレないと思うよ」



 妙に爽やかな笑顔で言うエド、さっきの大人で巨乳な獣人姿より明らかに好意的である。

 数時間後、行きに休憩した滝のある休憩所に到着した。

 馬車が止まり、幻影を纏ったままの私は後方の扉から飛び出した。



「じゃじゃ~ん!」



 何事かと振り向くリカルドとエリアス、2人とも数回瞬きしてからハッと息を飲んだ。



「も、もしかしてアイルか!? いや、顔は殆ど変わってないが…」



「うわぁ…、なるほどね、これなら誰もアイルだって気付かないだろうねぇ」



「でしょでしょ!? 完璧でしょう!?」



 ドヤ顔で胸を張る私。



「わぁ、尻尾もちゃんと動くんだね。だけどアイルを知ってる人が声を聞いたらバレちゃいそうじゃない?」



「ああ~、声かぁ…」



 いざとなったら身長近いしブラス親方辺りの姿を借りようかと思ったけど、髭面ドワーフから私の声は無いな。

 風魔法で音がゆっくり伝わる様にしたら声が低く聞こえるだろうけど、話す度に魔法使うより魔道具にした方が効率が良いかも、ガブリエルと合流したら聞いてみようっと。

 とりあえず今は女性声優が出す様な少年ボイスを意識して話せばいいかな。



「あー、あー、うー、うん、コレくらいでどうかな?」



「いいね、男の子の声に聞こえるよ」



「俺達はアイルだとわかるが顔見知り程度ならわからんだろうな」



「凄いですね、どこからどう見ても獣人の少年にしか見えませんよ」



 馬を馬車から外して水場へ連れて行ったセシリオが感心した様に言った。



「それじゃあ次の休憩所で食事したらエスポナまで止まらず行くぞ、出発」



 休憩が終わってリカルドの号令で出発し、昼食を挟んで陽が傾く前に私達はエスポナに到着した。

 ちなみに御者が幻影を纏った私、馬にはエドとセシリオが乗っている、何度か来ている上に大氾濫スタンピードで『希望エスペランサ』の姿を見ている冒険者達がエスポナに居たら騒がれてしまいそうだし。



 エスポナの門はセシリオの権限によりサクッと通過出来た、そのまま冒険者ギルドへ向かい王都とガブリエルに連絡を取って貰う為、皆には馬車で待機してもらってエドと2人でギルドに入った。



「ギルドマスターを呼んで欲しいんだけど」



 順番を待ってカウンターで受付嬢に告げると、困った子ね、と言わんばかりの表情を浮かべた。



「あのねボク? ギルマスにはそう簡単に会えないのよ? 一応申請しておいてあげるけど会えるかどうかわからないからね? ギルドカード出してちょうだい」



「お姉さん、見ても声出さない様にね」



 人差し指を唇に当てながらそっとギルドカードを差し出した。

 受付嬢は口を開いたと思ったら自分の手で口を塞ぎ、カードと私を何度も見比べる。



「本人だよ、今はこんな見た目だけどね。だからギルマスを呼んで欲しいんだ」



 私が声を出さない様にと言ったせいか、受付嬢はコクコクと高速で頷くと奥へと入って行った。

 暫くすると戻ってきてギルマスの部屋へ案内してからお茶を淹れてくれた。



「あ~、その、本当に本人…なのか?」



 ギルマスは信じられないとばかりに私をガン見している。



「そうだよ、『魔法解除マジックリリース』」



「おおっ」



 幻影を解除し、本来の姿に戻るとギルマスは目を見開いて驚いた。

 そして目的の連絡依頼をして再び幻影を纏って馬車へと戻った。



「ギルマスに連絡お願いしてきたからね、私達は騎士団の施設に向かえば今夜は泊まれる様に手配されてるんだって」



 御者席の小窓から皆に報告し、セシリオの案内で騎士団の施設へと向かう。

 途中何やら叫び声の様なものが聞こえた気がしたので馬車を止めて耳を澄ませた。



「~~…ル、ア~イ~ル~! お帰り~!!」



 冒険者ギルドから騎士団の施設は見える距離にある、ギルマスからガブリエルには私が狼獣人の少年姿だという事も伝えられているので遠目でも私だとわかったのだろう。

 それは良い、良いのだがわかるだろうか、ただでさえ珍しいエルフであるガブリエルが大声でパルテナ王自ら公布したという賢者の名前を大声で叫びながら爆走しているのだ。



 街行く人の視線が集中し、結構気に入っていたこの姿はもう使えなくなったという事がこの瞬間決定した。

 騎士団施設に到着してからガブリエルが正座で私に説教されるのは当然の結果だよね。

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