第2話 説明をお願いします

「え? あの、貴女は誰ですか? それにここは…? 私は川に落ちたと思ったんですけど…」



 あり得ない状況に混乱しつつも、とりあえず美女に質問した。



「えっとね~、私はあなたの居たところとは違う世界の女神なの。私の管理する世界の発展の参考にしようとこっちの世界を水鏡を使って覗こうとしたんだけど、出会い頭っていうのかな? そこへあなたが飛び込んで来ちゃったのよ」



「え~と、それはすみませんでした…? すぐに退散しますのでどうやって帰ればいいか教えて頂けますか?」



 とりあえずこの場から立ち去りたいと思い、自称女神に帰り方を聞いてみる。



「それがね~、水鏡を通過した時点で今のあなたは魂だけの存在なのよね。身体は水鏡に使ってた川の中に沈んでるわ、グループソウルとの繋がりも切れちゃったみたいだし…」



 自称女神は困ったわ、と頬に手を当てて眉根を寄せた。



「は? え? 私…死んじゃったんですか!? それにグループソウルって何!?」



「そうなの、残念ながら元の世界には戻れないわね。グループソウルって言うのは…」



 自称女神の説明によると人の魂はあの世で粘土の塊やコップに入った水の様なもので、その粘土の一部、またはコップの中の一滴の水が今の私らしい。

 普通は寿命を全うする事によって浄化された魂が還るところがグループソウルの元だと言う。



 生まれ変わりを繰り返して少しずつグループソウル全体が浄化され、全て浄化されると神に一歩近付くので現世に生まれ落ちる事自体が魂にとっての修行なんだとか。

 で、本来死んだ私はグループソウルに還るはずだが、神の領域であるココに来てしまった為グループソウルとの繋がりが完全に切れて無くなってしまった、と。



 この状態で現世に戻ると石とか植物とかの気というかうっすい思念みたいな物からのスタートになるので人間に生まれ変わるのはいつになるかわからない億単位の年月とのこと。



「そんなあなたに朗報! 私の管理する世界はこっちの世界より階位が低いからすぐに人間として生まれ変わる事ができちゃいます! お詫びに今なら楽に生活出来る様な能力も付けちゃう! しかも皆のアコガレ剣と魔法のファンタジーの世界なの~! どう? 私の世界に来ない?」



 自称女神の軽いノリに目眩を覚えつつも提案に乗る事にした。



「わかりました、宜しくお願いします」



「良かった~、これで天照あまてらす姉様もそんなに怒らないはず! こっちの世界が面白くてしばらく向こうの世界覗いて無いけど、最後に覗いた時の魔術師のレベルは…うん、お詫びとして宮廷魔術師になれる程度の能力あげちゃう! こっちの世界で流行ってるラノベ? アレのテンプレセットも付けておくわね、赤ちゃんから始めるのは大変だろうから成人する歳に若返らせて~、あ、魔術の知識を頭にインプットしておかなきゃ。じゃあ向こうの世界を楽しんでね!」



 自称女神がまくし立て、色々引っかかるワードが出て来たので質問しようとしたが口を開く前に目の前の自称女神の姿が光に溶ける様に消えた。

 瞬きして目を開けると、先程まで無かった風が頬を撫で、広々とした平原が目の前に広がっていた。



「自称じゃなかった…、本当に本物の女神様だったんだ…」



 頭の片隅でそういえば名前も聞いて無かったな、と思ったが足元に視線を…正確には途中にある胸を見た瞬間その考えは吹っ飛んだ。



「な…っ、無い! 私のチャームポイントのEカップの胸が! 女神様成人する歳って言ってたよね!? この世界の成人って何歳なの!? コレ…C…は無いな、Bカップか…」



 20歳に若返ると喜んでいたが、思わぬ精神的ダメージにガクリと膝をつく。

 嘆いていても膨らまない胸に見切りをつけて人を見つけようと立ち上がると脳裏に探索魔法が浮かんだ。



「ほぅほぅ、コレがインプットするって言ってた魔術の知識か。『探索サーチ』…あ、反応あったけど…コレは人じゃない…な」



 探索に引っかかったソレはこちらに向かって来ている様だった、とりあえず同じ方向に街道がある様だったので森が見える方へと歩き出した。



 15分程歩いて森の手前にある街道らしきわだちの跡が残る道に到着した、街道に到着したからと言って馬車が走っている訳でも人が歩いているわけでも無いが。

 今度は人が居る場所を探すべく先程よりもっと広範囲に探索をかける。



「あ、村…町かな? とりあえず歩いて行ける距離にありそうで良かった~! でもその前に…」



 森に目を向けると大型犬サイズの服を着た犬が飛び出て来て私目掛けて飛びかかって来た。



「『風弾ウインドショット』」



「キャイン」



 犬がジャンプした瞬間風の塊をぶつける魔法を繰り出した、この明るい場所に出てきたからには狂犬病では無いはず。

 見た目に似合わず可愛い悲鳴を上げた犬のマズルを掴み尻を容赦なく叩く、本当は人の手を怖がる様になる場合があるから躾でマズルを掴むのは良くないらしいが空の躾をした時には知らずに普通にやっていた。



 服を着せられているから飼い犬だろうけど、いきなり飛びかかって来る様な危ない犬は口を封じるのが1番だろうし。

 脳震盪でも起こしているのか宙を見ている犬の顔を私の方に向けてキッと睨む。



「噛んじゃダメ!」



 次にマズルを掴んだまま喉を掴んで無理矢理仰向けにしてから腹をワシャワシャ撫でてやる。

 所謂服従を身体に叩き込むというやつだ、こっちの方が強い事を教えると反抗する気力が無くなった様で大人しくなった。

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