第3話 案内
「よーし、よしよし」
犬が大人しくなったのを良い事にモフり倒した、愛犬が死んでしまってほぼペットロス状態だったせいで手が止まらないというのもある。
「あ、こんな事してる場合じゃなかった。早く人の居るところへ行かないと野宿になっちゃう」
我に返って犬から手を離すと犬も我に返ったのか、まるで大きな音に驚いたかの様にピャッと飛び上がって私から距離をとった。
「何かさっきと雰囲気変わった? 喧嘩モードから通常モードに戻ったみたい。ちゃんとご主人様のところへ帰れる? 気をつけて帰るんだよ?」
話しかけたがジッと私を見つめたまま動かないので街道を進もうと方向転換すると、犬は近付いてきて私のスカートの裾を咥えた。
今の私の服装は綿の生成りボタンシャツにキャメルブラウンの左右に深いスリットが入ったスカートの下に同系色のスパッツみたいなパンツ、ショートブーツという格好だ。
恐らくこの世界の品質で動き易い服装なのだろう、この身体と一緒に女神様が創ってくれたのかもしれない。
なにせ私の本当の身体は川底に沈んだらしいし。
「びっくりした、また襲ってきたのかと思ったじゃない。どうしたの? あ、もしかしてご主人様が怪我でもして助けを呼んでるとか?」
そう言うと私の言う事がわかってるかの様に少し移動しては振り返るという行動を繰り返して私を誘導した。
さっきの探索で森の中にチラホラ魔物がいたけど、魔法で何とかなるよね?
「まだ行くの? ちょっと待って…、少し休憩させて…」
20分以上歩いている気がする、普段会社と家の往復しかしてない人間にいきなり森歩きさせるのはどうかと思う。
脚の疲れもそうだが汗をかいて喉が渇いてきたので冷たい水が飲みたくなり、美味しい山の湧き水をイメージして水を出す。
「『
ぽよんと空中に水球が現れ、頭の中にはあと5分も歩けば数人の人と魔物が居る様だった。
しかし今は喉を潤さない事には歩く気力すら無い、水球に口をつけてゴクゴクと水を飲む。
「ぷはぁっ、冷たくて美味しい! 生き返る~」
3分の2程一気に飲んでから犬の方を見ると、期待に満ちた目でこちらを見ていた。
「ん? あ、そうか、あっちから来て往復してるもんね、喉が渇いたよね?」
舌を出してハァハァ言ってる犬の前に水球を移動させると、あっという間に嬉しそうにピチャピチャと全部飲んでしまった。
「はぁ、もう少しだから頑張ろうか」
しかし、よく見るとこの子は犬というより狼っぽい、色合いが空と同じだったから当たり前の様に犬だと思っていたけど違ったりして。
死んでしまった空は全体的に白っぽくて、でも真っ白ではなく耳や尻尾の先になるにつれて薄茶になるグラデーションだった。
空を思い出したら涙が出そうになり、ため息をひとつ吐いてから再び歩き出す、探索の結果森を突っ切った方が村だか町だかに行くには近道の様だし、入るのに許可とか必要なら犬のご主人様に恩を売っておけば口をきいて貰えるかもしれない。
そんな下心を持ちつつ足を進めると人の声と金属が打ち合う様な音が聞こえて来た。
「ゲッ! なにアレ、気持ち悪い!」
犬だか狼だかが走り出したので慌てて追いかけると嘘みたいに大きな蜘蛛の死骸と、その横で手が4本あるデカい熊と戦う明らかに怪我をしているイケメン2人と美女1人。
こういう時って勝手に攻撃したら獲物を横取りされたって怒るパターンもあるよね、一応助太刀が必要か聞いてみよう。
「あのー! 手助け必要ですか!?」
「「頼む!」」
3人の内2人の男性がこちらを見ずに答えた、もう1人いた女性は犬の飼い主なのか名前を呼んでいる様だ。
手が4本もあるせいで剣と槍の攻撃が防がれており、女性が射ったであろう矢が2本だけ刺さっている。
「『
風魔法で首を斬り落とすと、熊の首が地面に転がり、遅れて身体が倒れ込んで重そうな音を響かせた。
倒れた熊の身体を呆然と見る3人と犬。
「あの~、私迷子なんですけど最寄りの人の住んでいるところまで一緒に行動していいですか?」
固まったままの3人に恐る恐る声を掛けると1番背の高い男性がこちらを見て驚いた様に目を見開いてから返事をしてくれた。
「あ、ああ…。君のお陰で助かったよ、ちょうど今討伐対象を倒せたからもう町まで戻るし」
「よかった…」
ホッと胸を撫で下ろしていると、もう1人の男性がおずおずと聞いてきた。
「君…、人族だよね? エルフでもないのに攻撃魔法使える人に初めて会ったよ」
「あはは、人族ですよ? 私宮廷魔導師になれるくらいの実力があるらしいので」
ドヤァァ、と胸を張ったが男性はそれでもあり得ないと言う。
「100年前の『魔導期』ならともかく、今は宮廷魔導師でも人族で攻撃魔法を使えるなんて聞いたこと無いよ…」
あれ…? だって女神様が「宮廷魔導師になれる程度の能力」って言ってたのに。
お互い混乱しつつも、まずは自己紹介すべきだろうか。
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