第117話 公爵家の護衛(1日目)

「それじゃあこの子達は港の本店に預けてくれればいいから。あんたらは大切にしてくれるからこの子達もご機嫌だな、それじゃ道中の無事を願ってるよ」



 貸し馬屋で王都行きに付き合ってくれた馬達を借りて門前広場へと向かった、本来なら私の分の馬も借りるところだが、今回は護衛も1人乗り込む様にと言われているのでサイズ的に私が乗り込む事になった。



 元々の馬に乗った護衛2人に御者と従者1人、それが公爵家御一行。

 来る時は冒険者を雇ってウルスカまで来たらしい。

 どうやら兄妹と従者が一緒に馬車に乗る様で、合流したら既に中に乗り込んで待っていた。



「来たか! アイル、早く乗るがいい」



「うふふ、お友達と一緒に旅行なんて初めてですわ」



「は、はぁ…」



 いつの間にかフェリスにお友達認定されていた様だ、もしかして愛称で呼んで良いって言った時かな?

 と言う事はクロードも私の事をお友達認定している可能性がある、年上だけど友達になるのに年齢は関係ないか。

 フェリスがポフポフと空いている自分の隣の席を叩いて早く座る様に促してきた。



「じゃあ私は中で護衛につくね」



「ああ、頑張れ」



 無意識に縋る様な目をしてしまったのか、リカルドにわしゃわしゃと頭を撫でられ、覚悟を決めて馬車に乗り込んだ。

 何故覚悟を決める必要があるかというと、この兄妹では無く従者の存在のせいである。

 恐らく貴族なのだろう、私を見る目が明らかに見下しているというか蔑んでいると言っても過言では無い。



 この先長いし下手に出ておくべきか、それとも先が長いからこそ舐められ無い様にすべきか…。

 クロードとフェリスは全く気付いて無い様で嬉しそうに私を歓迎してくれている、主の気持ちを尊重しようとか思わないのだろうか。



「はぁ…、この様な下賤の者と同乗せねばならないとは…せめてあっちの女くらい見目が良ければマシだったものを」



 従者はドア側の私の向かいに座っており、ドアの方を向いてボソボソと小声で悪態をついた。

 普段なら馬車の音に紛れて聞こえなかったかもしれないが、今の私は万が一の事を考えて身体強化を掛けている。



 つまりは聴覚も強化されているので小さな呟きも拾ってしまったのだ。

 そしてこの従者は私の敵だと認定した、最近窮屈になってきたツルンとしたフォルムの胸当て、コイツはそれをチラ見してさっきのセリフを吐いた、理由はそれだけで十分だろう。



「それにしてもこの馬車は今まで乗った事のある馬車に比べて格段に乗り心地が良いね。座席のクッションだけじゃないよね、良いサスペンションが使われてるのかな?」



「ああ、タリファスは賢者アドルフが定住した国だからな、他国にあまり知られていない技術も結構あるんだ、こちらには知られていないと思ったがよく知っていたな」



「名前だけは…構造はよく知らないんだけどね」



「ふん、賢者アドルフの伝えた知識の半分は一部の者以外には秘匿されているのだ、お前の様な者が知っている訳なかろう」



「カルロ!」



 クロードと話していたらカルロと呼ばれた従者が割り込んで来た、何でこの場では主人であるクロードより偉そうな訳!?

 従者はクロードより年上に見えるから23歳くらいだろうか、よくある乳兄弟だからこの2人に対しても礼儀が緩いというやつかもしれない。



「公爵家の馬車の質は凄いのに従者の質はイマイチみたいだね?」



「な…っ!?」



 コテリと首を傾げて言うと、カルロはカッと目を見開いて私を睨みつけてきた。



「済まないアイル、カルロは乳兄弟で私達の兄同然の存在なせいか周りもあまり厳しく教育されてないんだ」



「クラウディオ様が謝った!? クラウディオ様、この様な者に貴方が謝る必要などございません! こんなぁうッ」



 カルロが興奮しながら言い募っているとフェリスが手にしていた扇でカルロの頭をビシッと叩いた。



「フェリシア様何を「アイルはわたくし達の友達なのです、友達は身分に関係なく対等なのよ、あなたが口出しする事は許しません」



「かしこまりました…」



 言葉こそ従順ではあるが、明らかに顔が不服だと訴えている。

 この2人が傲慢な態度だったのはコイツが原因なんじゃなかろうか、ここはひとつ意趣返しといこう。



「クロード、道中の食事ってあなたとフェリスの2人分で良いのかしら? 彼もが作った様な食事なんて食べたくないだろうし」



「ふ、ふん、その通りだ。お前の作った様な食事なんぞ食べないぞ」



 カルロが大人気なくそっぽ向きながら言ったのを聞いてニヤリと笑う、そんな私を見てクロードは苦笑いをしつつ頷いた。



「本人もこう言っているからそれで良い、私達は絶対食べるからな」



「わかってるって! 出発を遅らせた分ちゃんと作って来たからね。野営を極力減らして夜は宿に泊まれる様にするんでしょ?」



「ああ、私はともかくフェリスが夜テントに1人だと不安で眠れない様だからな。ウルスカに向かう時に野営したら翌日の隈が酷かったからそのつもりだ」



「もうっ、お兄様そんな事バラすなんて酷いわ!」



「ははは、大丈夫だ。フェリスは隈があっても可愛いからな」




「お兄様ったらぁ」



 カルロはさっきの言い合いを忘れたかの様に兄妹のやり取りを微笑ましそうに眺めていた。

 少なくとも2週間をこのメンバーで狭い馬車の中で過ごすのかと思うと胃の辺りの服をギュッと握ってしまう私だった。

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