第496話 対抗心

「待たせてごめんねガブリエル、向こうの事は解決してきたから安心してね」



「そっか、それならもう出発する? 早くビビアナに会いたいんでしょ?」



「なッ!?」



 ガブリエルの言葉に、エドの目が限界まで開かれた。

 数日前に会ってお腹撫でて来たから大丈夫とは言えないけど、皆のお世話をさせておいて「ハイさよなら」というのはさすがに申し訳なさすぎるよ。



「早く会いたいのは確かだけど、私とリカルドもだけど馬達も休ませてあげないと可哀想だからひと晩お世話になるつもりなの。エド、いい?」



「もちろんだよ! ひと晩と言わず何日でもいてくれていいんだよ」



「ありがとう、それじゃあお世話になるね」



 嬉しそうに言うエドに、あくまでもひと晩だと強調して答えておいた。



「まぁ……、エトレンナの港に降りた途端にビビアナに待ってろって叫んだくらいだから何日もいるという事はないだろうな、ククッ」



「え? アイルってば人前で叫んだの!? 一緒にいるリカルドが可哀想じゃないか、やめてあげなよ」



 私の行動をリカルドがバラしたせいで、エリアスはやれやれと言わんばかりに肩を竦めた。



「ちょっと気持ちがたかぶっちゃっただけだもん。普段はおとなしくしてるでしょ?」



「「「「おとなしく!?」」」」



 『希望エスペランサ』のメンバー全員が聞き返してきた。

 本来仲間であり味方のはずが、この時は敵となったのだ。



「アイルは自ら騒ぎを起こそうとはしていないんじゃないか? だがアイル本人がいくらおとなしくしていても、周りから騒ぎが寄って来るのだから仕方ないだろう」



「騒ぎの筆頭が何言ってるのさ」



 エドが私を庇う発言をしたが、エリアスにジトリとした目を向けられている。



「ふふ、私が筆頭というのならむしろ光栄だね。『希望君達』以外では最もアイルに近しい人物だという事だろう?」



 さすがエド、物凄くポジティブな考えにびっくりだよ。



「ちょっと待ったぁ! 言っておくけど、君より私の方がアイルと親しいからね! 一緒に王都へ行ったのもこれで三度目だし、他の依頼で一緒に行動した事もあるし、お互いの手料理だって食べてるし、私の故郷に一緒に行って母にも合わせたんだからね」



 ドヤァ……と胸を張るガブリエル。だけどエドの両親は亡くなってるし、故郷も組織に襲われて壊滅したって言ってなかったけ?

 そんなエドには無理な事を自慢するのはさすがに可哀想、そう思ってエドを見た……が。



「お互いの手料理を……だと……!? 確かにアイルの手料理を食べた事は何度もあるが、私の手料理を食べてもらった事が無い……! 料理なんてここ何年も作っていないが、今からでも料理人達に頼んて指導してもらうべきか……。しかし、料理上手のアイルに満足してもらえるような料理が一朝一夕いっちょういっせきで作れるとは思えない、く……っ」



 あ、大丈夫だったみたい。

 私の心配とは明後日の方向で懊悩おうのうしてるけど、まぁいいや。



「そういえばアイルが熱出して寝込んだ時に、賢者サブロー直伝の玉子粥をガブリエルが作って食べさせてたねぇ」



 エリアスが懐かしそうに呟いてクッキーをかじった。

 そういえばそんな事もあったなぁ、あの時はガブリエルが私が異世界から来た事に気付いて勝手に皆にバラしてくれたんだよねぇ、うふふふ。

 思い出して怒りが込み上げて来たが、頭を抱えていたエドが錆びたロボットみたいにぎこちない動きでこちらを見たので思わず私の動きが止まった。



「食べさせ……た? アイルに?」



 怖い怖い、物凄く追い詰められた顔をしているエドに正直引いた。



「あ、あの時は熱が高くて自分で食べるのすら大変だったから……」



「そうだよ。顔も凄く真っ赤かったし、自分で食べたら器を落としそうだったからね。だからちゃんとふぅふぅって冷まして食べさせてあげたのさ!」



 エドを落ち着かせようと言い訳じみた事を言っているというのに、煽ってどうする!

 キッとガブリエルを睨んだが、ドヤ顔しているだけで何もわかっていない。

 ちょっと待って、そんな期待に満ちた目を私に向けられてもエドに食べさせてもらったりしないからね!?



「さ、さぁて。報告は終わったし、食事の時間までゆっくりしようか」



「僕達はさっきからゆっくりしてるけど? そういやアイル、予定外の移動があったから食材とか料理とか買い足さなくていいの? それに調味料がどうとか言ってなかったっけ?」



 一瞬裏切り者かと思ったけど、エリアスが見事な助け船を出してくれた。



「そうだね! 先に報告しなきゃと思って急いで来たけど、移動中に食べるための屋台料理を買い足しておこうと思ったんだった」



 ポム、と手を打ち立ち上がろうと肘掛けに手を置いたら、エドが手を重ねて私を止めた。



「料理ならウチの料理人に言って作らせればいいさ。それよりもあと数ヶ月でビビアナの出産だろう? ベビー服の新しい店ができたから一緒に行かないか? 少し早いが私からビビアナへの出産祝いを送らせてもらうよ、だからアイルが一緒に選んで欲しいんだ」



「行く! ちょっと台所へ行ってお願いしたい料理伝えて、材料も置いて来るね!」



 エドの嬉しい提案に思わず即答してサロンを飛び出した。

 出来るだけ料理人達の負担にならないように、今日のメニューを多めに作ってもらって余った分を持ち帰ろう。

 そして彼らにはお土産兼手数料としてタリファスで買い足したソーセージ食べ比べセットを渡そうかな。



「相変わらず見事だねぇ」



「ふふ、なんの事かな? 私は純粋にビビアナに出産祝いを送りたいだけさ」



 私がいなくなったサロンで、エリアスとエドがそんな会話をしたとかしなかったとか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る