第421話 エルフの生態

【三人称です】


「ねぇホセ、さっきあの…イェグ…イェグディエル? っていう人何て言ってたの?」



 アイルをベッドに座らせると、イェグディエルと会話を始めたのでホセは仲間達の元へ戻った。

 ホセとブラウリオ以外には先程のイェグディエルの言葉が聞こえなかった為エリアスが聞いたが、ホセが説明しようとした瞬間、ゆっくり休める部屋へと案内すると1人のエルフが声を掛けてきた。



「アイルには私が付いているから皆はゆっくりしてて良いよ。レミエル、皆の事は頼んだからね」



「わかったわ」



 アイルの事ははガブリエルに任せて東の対屋たいのやに移動する事になり、置いて行かれて不安そうな顔をしたアイルにエリアスは笑顔で手を振って行ってしまった。

 本人達が居る前だと話づらいが、別室であればレミエルからも色々聞けると考えているせいだろう。



「ウリエルも向こうに残ったんだな」



 5mくらいありそうな掘り炬燵ごたつくつろぎながら出されたお茶をひと口すすり、リカルドが口を開いた。



「そうね、長老達に報告があるって言ってたのにイェグディエル様がアイルに夢中だもの、落ち着いたら報告するんでしょ。何十年も子供を見てなかったから仕方ないかもね…、アイルが成人してるだなんてまだ信じられないくらいだから長老達も絶対気付いて無いと思うわ」



 そう言ってレミエルは肩を竦めた。



「そういえばさっき聞き損ねたけど、そのイェグディエルは何を言っていたんだい?」



「ククッ、ミカエルにずるいってよ。数十年ぶりに見れた子供を1人ででる気かって文句言ってたぜ。んで、東の対屋に連れて行くならしばらく可愛がりたいから自分のところに連れて来いってな事を言ってたんだよ」



 エリアスの問いにニヤニヤしながらホセが答えた、内容を知っているブラウリオも笑みを深めながらお茶を飲んでいる。

 そしてお茶を飲む音だけしかしない時間が過ぎ、エンリケが口を開く。



「レミエル、いくつか質問していいかな?」



「良いわよ」



 普段であれば真っ先に話し掛けているであろうエリアスは、レミエルに対して少々どころで無く気まずいせいで無口になっていた。

 本当はエリアス自身色々聞きたかったが、聞けないでいたのでエンリケが質問してくれると言い出して密かに喜んでいたりする。



「まずは長老達って何歳?」



「何歳だったかなぁ、確かミカエル様とサリエル様は八百歳超えてて、イェグディエル様は…えーと、千歳を超えてるのは間違いないんだけど…。ほら、エルフって寿命で死ぬと世界樹の一部になるから千歳過ぎると個人差はあるけど老化が加速して木に近付くじゃない?」



「「「「「えぇっ!?」」」」」



「やだ、知らなかったの? あ、そうか、途中から当たり前みたいに世界樹の話をしていたけど、元々エルフ以外は世界樹自体知らなかったものね」



 レミエルは当然の様に言ったが、その場に居た全員が驚きの声を上げた。

 エルフが千年生きる事は知られていたが、世界樹の事は秘匿ひとくされていたので当然それに関わる事は知られていなかったのだ。



「もうひとつ聞いて良いかい? さっきの長老達は家族だったりするのかな? ここで一緒に住んでるみたいだし、ベッドの両脇に居た2人は夫婦とか?」



「家族というのなら里全体が大きな家族って言ってもいいのよね、全員血の繋がりはあるはずだから。ミカエル様とサリエル様はうんと前に夫婦だった時もあったみたい、だけどサリエル様はガブリエルの祖母ではないわ。エルフって子供が産まれて独り立ちしたら関係を解消する場合が多いの、百年以上一緒に暮らす人はかなり珍しくて里には5組くらいじゃないかしら」



「寿命が長過ぎるエルフならではの文化…といったところか。獣人の様につがいという感覚は無いのだな」



 ブラウリオが複雑そうな顔で呟いた、亡くした愛妻となら何百年でも楽しく過ごせただろうと想像したせいだ。



「でもそれだと寿命が長いせいでうっかり兄弟きょうだいや親子で夫婦になっちゃったりしそうだよねぇ、あはは」



「さすがに親子は無いけど、腹違いなら兄と妹とか姉と弟で子供を作ったりはあるわよ。百年や二百年間が空いてたら教えて貰わないと兄弟だって気付かないもの」



「「…………」」



 エリアスは冗談で言ったつもりだったが、アッサリと返って来たレミエルの言葉に姉や妹の居るリカルドとエリアスが眉間に皺を寄せた。



 その後も沈黙が支配する時間の合間にポツリポツリと会話をし、エリアスが積極的に話さない今、『希望エスペランサ』の面々とブラウリオはアイルとビビアナの存在の大切さを噛み締めた。



 そして2時間程して憔悴しょうすいした様子のアイルが皆の前に姿を現した。

 憔悴の理由はレミエル達が話していた内容と同じ様な事をイェグディエルから聞いたからだ、当然ミカエルとサリエルの事も、である。



 もしも話の途中でミカエルとサリエルの2人が照れ臭そうにはにかみでもしたら「やめて! 私の生命値ライフはもうゼロよ!」と叫んだかもしれないが、幸い数百年前の事のせいか2人共無表情だったお陰で何とか平静を保てた。



「おじいちゃん膝枕して…」



 しょぼくれた顔で返事を待たずに座ってくつろいでいるブラウリオに自分の頭を乗せるスペースを空ける為に机から離れる様に服を引っ張るアイル。

 身体を縮こまらせてブラウリオのお腹に顔をうずめ、さり気なく尻尾を撫でる様子にブラウリオは余程疲れているのだろうと苦笑いを浮かべながら頭を撫でた。

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