第422話 エルフの生態 その2

「えらくグッタリしてるじゃねぇか、座って話してただけだろ?」



 おじいちゃんの膝枕で慰めて貰っていた私にホセが呆れた様に言った。



「……………色々あったもん」



「それがねぇ、お爺様が「言わないでね、言ったら絶交だから」



 ガブリエルが暴露しそうになったので牽制けんせいすると、キュッと口をつぐんだ。

 私とイェグディエルが話をしている時から気付いてはいたのだ、妙に見られているな、と。

 私はイェグディエルの寝室での出来事を思い返す。












 ベッドの上に小さなテーブルが運ばれて来てお茶も出して貰い、イェグディエルが色々話を聞かせてくれた。

 エルフの始祖は世界樹から産まれたとか、1本の木に咲く花同士が受粉しても大丈夫な様にエルフは近親婚をしても問題が無い事。



 しかしその場合、ひとつの病気で一族が全滅する恐れがあるから一時的に里から出て伴侶を見つける事も許されているなど。

 イェグディエルはあと百年若ければ私の仲間を受け入れる事もやぶさかでは無かったと言い出したので、全員事情があったり亡くなった伴侶を想っているからこの里で女性の相手は出来ないと言っておいた。



 きっと百年前はイェグディエルもサリエルみたいな美人だったんだろうなぁ。

 千年生きると一気に老化が進むと言っても、それまでが異常なだけで人族だったらむしろゆっくりな程だった。



「ひとつ聞いて良いかな?」



 不意にミカエルが問いかけて来た。



「? どうぞ」



「ここには何を詰めているのかな?」



 そう言ってミカエルは伸ばした手で私の胸を掴んだ。

 屋敷に入る時に防具は外したので私の胸を覆っているのは下着と夏仕様の薄手のシャツのみ、反射的に平手打ちをした私は悪く無いと思う。



 パァンと良い音がして私の胸から手が離れたので両手で胸を庇う、ミカエルは呆然としながら自分の手を見てまるで私の胸の感触を思い出すかの様にワキワキと動かした。



「もしや…、詰め物ではなく胸…なのか?」



「当たり前でしょう!? 勝手に女性の胸を触るなんてありえない!」



 さっきの私の恋心を返せ!



「お爺様! アイルは子供に見えても成人しているんです、胸だって人族としては小さい訳じゃ無いけど大きいって訳でも無いんですよ」



「なんと…!! てっきり幼子だとばかり…! …………これで大きい訳ではないとは人族は凄いな(ポソ)」



「私も驚きました、驚くなんていつ以来の事でしょうか…」



 これまで話さなかったサリエルまでが軽く目を見開いていた、サリエルの驚いている理由はどっちだろう。

 私の年齢か、それとも胸の大きさだろうか。

 エルフの里から出た事無くて、エルフ女性の胸のサイズが当たり前になってたら子供だと思っていた私の胸がこのサイズっていうのが信じられない…だったりして。



 もしもビビアナが来ていたら大変な事になっていたかもしれない、特に今は妊娠中でサイズアップしてるもんね。

 ただ納得いかないのはミカエルから性的な目で見られている訳では無くて、明らかに好奇心の目を向けられているという事だ。



「全く…、子供と勘違いしたとしても子を成した相手の前で他の女性の胸を触るのは如何いかがなものかね」



「も、申し訳ない…」



 イェグディエルが無表情のままミカエルに言うと、ミカエルは申し訳無さそうな顔をして私とサリエルに謝り、サリエルがコクリと頷いた。



「……もしかしてミカエルとサリエルは夫婦なの?」



「五百年程前に二人子を成したので五十年程夫婦だったと言っていいだろう」



「そうですね」



 声が震えない様に気を付けながらたずねると、ミカエルが無表情で淡々と答え、サリエルも再びコクリと頷いた。

 エルフの倫理観というか、恋愛や結婚に対する考え方が違い過ぎて頭が混乱する。



 大氾濫スタンピードで会ったアリエルは比較的若いせいか表情はあったものの、一般的なエルフなのかもしれない。

 あんなにアリエルが好きだとわかるハニエルはかなり特殊な部類なのだろう、ミカエルとサリエルの態度は人族の感覚からすれば元夫婦だとは思えなかった。



 どうやら子供が巣立って行って数百年も2人で暮らしていると飽きるらしく、百年以内に関係解消するのは暗黙の了解らしい。

 たまに相性が凄く良くて、それこそ千年を共に生きる者も居るんだとか。



 元々恋愛感情が薄く、大抵は百年待てば関係解消されるのがわかっているので浮気や三角関係といった問題は発生しないと聞いた時は一瞬羨ましかったけど、落ち着いて考えてみたら浮気をしないだけで一途という訳では無いと気付いたので全然羨ましくない。



 食事は区画別でまとめて摂るので一人暮らしでも寂しく無いせいか、殆どの者が一人暮らしをしていて、気が向いたら一緒に暮らすというスタイルだという。

 私、エルフに転生しなくて良かった。



 里全体が身内で同い年の子供が居ない状態で育ってるのならガブリエルの人との距離感がおかしいのは仕方ないのかもしれない。

 そんな事を考えていたらウリエルが気まずそうに口を開いた。



「あの…、そろそろ報告をしてもよろしいでしょうか?」



「あ、じゃあ私達は皆の所に行こうか、どうせウリエルの報告はアイルも知ってる事だから聞かなくていいでしょ?」



 この時はこれまでで一番ガブリエルが頼もしく見えた、私は即座に頷き脱出に成功したのである。

 尚、部屋を出る時にミカエルの腫れ上がった頬にウリエルが治癒魔法を掛けていたのは気付かないフリをした。

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