第170話 トレラーガでの約束
出発して1週間、馬車移動で馬よりゆっくりだけど、その分宿に泊まらず行けるとこまで行って野営というスケジュールでトレラーガが見える所まで来た。
ウルスカを出発して数日は辛かった…、最初のシチューとパンに始まり、豆スープとパン、野菜スープとパン、ソーセージスープとパン……。
かと言ってちょっと味を足すだけならともかく、他の食事を出したら他の冒険者達にロックオンされるのは目に見えているし、毎回一所懸命準備してくれてる御者のおじさん達にも無言の圧力掛けてる様で申し訳無い。
そんな私達が取った行動は、朝1番と夜に野営テントの中で食欲を満たすという事。
ストレージに入ってるから手ぶらで男性陣やガブリエルのテントに行って渡して戻ればただの挨拶か話しているとしか思われない。
コッペパンで作ったタマゴサンドや焼そばパン系が大活躍してる、私とビビアナは同じテントだからゆっくり食事するのも可能なので普通のおかずをコッソリ…ゲフンゲフン。
幸い他のパーティに獣人は居ないので匂いでバレる事も無いだろう、実際バレてない様だ。(たまにホセがジト目で見て来る気はするけど)
とりあえずトレラーガで食材を買い足す為、1泊する事になっている。
ギルドの通信を使って『
その事を知ったガブリエルがちょっとゴネたけど、泊まらせてもらう立場なのに勝手に人数増やすのはちょっと…、という事で納得してもらった。
何かウルスカのギルドからトレラーガのギルドに私達が行くと言ったら「エドガルドさんのお屋敷に宿泊されるんですよね!?」と有無を言わせぬ勢いだったとか。
やはりトレラーガを表でも裏からも牛耳ってるからギルドもエドに気を遣ってるのかもしれない、領主様からの信頼も厚いみたいだしね。
国からの要請だからなのか、ギルドの馬車だからなのか、住人用の門からサッと街に入れた。
ストレージに収納してあったほぼ空の食料箱だけ馬車に戻し、ガブリエルの恨めしげな視線を受けつつ私達はエドの屋敷へと向かう。
「久々にベッドで眠れるわね、エドガルドの屋敷なら質も良さそうだから期待できるわ」
「ずっとテントだったもんね、いくら節約する為とはいえ、まさか本当に1度も宿に泊まらずトレラーガまで来るとは思わなかったよ。バレリオが全部野営になっても大丈夫なくらい作っておけって言わなかったらもっと持って来てる料理少なかっただろうし、バレリオ様々だね」
「あはは、アレは本人が色んな種類の料理教えて欲しいからだとは思うけど、結果的に僕達が助かったよね」
「俺はバレリオの手際の良さに驚いたがな」
「だよな! あのデケェ身体と手で何であんなに器用なんだか。手伝いは助かったから良いんだけどよ」
実際バレリオは料理で女性が口説けるだろうと思えるくらい上手だった、千切りなんかも私と速度が変わらなかったし。
新たなレシピを覚えた事だし、ウルスカに戻ったら「結婚が決まった」とか言っても不思議じゃないね。
「それにしてもここが
キョロキョロと辺りを見回しながらエリアスが感心した様に言った、治安が良くなってからエリアスが来るのは初めてだっけ、確かに貧民街特有の臭いとか座り込んでる人とか居ないもんね。
「認めたかねぇけどエドガルドの功績だな」
「うふふ、コレをアイルに褒めて貰う為にやっちゃうなんて、アイルったら愛されてるのね」
「あはは…」
否定は出来ない、思わず乾いた笑いが漏れた、ある意味凄く愛されてるとは思うし、そんな話をしていたらエドの屋敷の前に到着した。
元チンピラその1がドアを開け、その2が中へ報せに行った、玄関を潜るとすぐにビシッとスーツを着こなしたエドとアルトゥロが出迎えてくれた。
「よく来たね、待ってたよ。移動で疲れただろう、部屋は準備してあるから夕食までゆっくり休んでいるといい、挨拶はまたその時改めて。アルトゥロ、案内を頼む、申し訳ないが私は執務があるのでまた後ほど」
「こちらです、どうぞ」
「おい、アイル行くぞ」
おおお…、デキる大人の男の姿だ。
尊敬の眼差しを込めてエドの背中を見送っていたらホセに頭を掴まれた。
2階の客間がある廊下に差し掛かると最初のドアの前でアルトゥロが足を止めた。
「ここから3部屋が男性用の個室となっております、作りは基本的に同じですのでお好きな部屋を選んで下さい。女性の部屋はこちらです」
そう言ってアルトゥロは階段を挟んだ反対側へ向かったので私とビビアナがついて行く。
「男性用と女性用で何か違うの?」
首を傾げながら尋ねると丁度最初のドアの前でアルトゥロが足を止めた。
「こちらがアイル様の部屋です、その隣がビビアナ様の部屋になってます。ちなみにこちら側の女性用の部屋は浴室付ですが、向こうはシャワールームのみとなってます。夕食の時間になったらお呼びしますので、それまでどうぞごゆっくりお寛ぎ下さい」
アルトゥロはペコリと頭を下げて階段を降りて行った。
「アイル、早く部屋を見てみましょ! どうせあの3人はお風呂に拘ったりしないから気にしなくていいわよ」
ビビアナに促されて私の部屋を開けた、男性用の部屋みたいに好きな方ではなく「アイル様の部屋」と言ったのでちょっと引っかかったのだが、開けた瞬間膝から崩れ落ちそうになった。
ピンク。20畳程の部屋がピンクと白のツートンなのですよ、レースとフリルで10歳までの女の子ならキャッキャ言って喜びそうな天蓋付きベッドにクッションたっぷりソファ、ビスクドールみたいな女の子がお茶会してたら似合いそうなテーブルセット、その上にはピンクと赤の薔薇が飾られていた。
「…………ッ!!」
「うわぁ…、アイルへの愛がたっぷり詰まってる部屋ねぇ…」
「も、もしかしたらここだけじゃなくて女性用の部屋全部同じかもしれないよ!? ビビアナの見ようよ!」
ビビアナの背中を押して隣の部屋を開けると、そこにはシンプルながらも上品で落ち着いたナチュラルカラーの家具、飾られた薔薇まで配置こそ同じではあるが、明らかにコンセプトというか、様相が違い過ぎる。
「へぇ、作りは左右対称になってるのね、お風呂やトイレが位置的にアイルの部屋と互い違いになってるもの。それにしても……、ふふっ、アイルったらやっぱり愛されてるのね♡」
「あはは…」
揶揄う様なビビアナの視線に、私はその日2度目の乾いた笑いしか出なかった。
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