第167話 答えは4択
朝、目を開けると既に見慣れた自室の天井が視界に映る。
えーと、食堂で…バレリオがたっぷり注いでくれたお酒を飲み干すくらいから記憶が無い…、私は身体を起こして頭を抱えた。
「お客さんを招待しておいて放置して寝るなんて…! 今度会ったら謝らなきゃ…、ん? 何でボタン外れてるの!?」
ワンピースの胸元のボタンがひとつ外れている事に気付いた、縫製がしっかりしてるから勝手に外れるなんて事あり得ないのに。
待て、ウエイトウエイト、オーケー、クールに行こうぜ私、いくつか予想を立てようか。
その1、部屋に運んでくれた誰かが寝苦しそうだからひとつだけ外した。
これはよくある話だよね、寝かせた時にワンピースがズレて首が詰まってたかもしれないし、胸ぐら掴んで襟元整えるなんて乱暴な直し方しないだろう。
その2、酔ったまま自分で部屋に戻ってパジャマに着替えようとしたけど力尽きて寝た。
あり得なくも無いけど、それだとしっかりベッドの上で寝てるのはおかしいかな。
その3、ベッドに運んだ誰かが私の色香に惑わされてひとつボタンを外したところで我に返った。
無い。無いな…、自分で言ってて虚しいレベルでコレは無い。
そして1番私が恐れている「だったら嫌だな」と思う理由は…。
その4、とうとう脱ぎ癖が発生して、脱ごうとボタンをひとつ外した時点で自室に強制的に放り込まれた。
今まで脱いだって怒られた事は無いから大丈夫だと思いたいけど、大学の飲み会で脱ぎ癖ある人とか居たし…。
あれって最初からそういう癖がある人だけなんだろうか、途中から癖に目覚めるとか無いよね!?
きっと寝苦しそうだからひとつだけ外してくれたんだよ、うん。
そう冷静に考えた私は皺くちゃになったワンピースを脱いで洗浄魔法を掛けた。
今日も休養日だからこの若葉色をワンピースを着よう、日本ではパンツスタイルが多かったけど、こっちに来てからは休養日にワンピースが普通になってしまった。
着替えを済ませて食堂へ向かうとリビングや食堂で潰れてる人は居なかった、残された食器に洗浄魔法を掛けてストレージに収納。
厨房で食器を出して片付け、朝食を作る。
この前3体分解体した赤鎧の本体を使ってカニ玉雑炊にしよう、あと豆腐と葱の味噌汁、あとはデザートに一応オレンジくらいは準備しておこう。
今朝は皆ぐったりしてるだろうからこれだけでいいかな?
ピッチャーに水と氷を入れて定食に使われるサイズのトレイにお一人様ご飯をセット、まだ6時だからきっと皆まだ寝てるだろう。
しかし食堂に戻るとそこにはバレリオが昨日の席に座っていた。
「おはよう、アイル。二日酔いは大丈夫か?」
あれ? いつの間にか嬢ちゃんから名前呼びに変わってる、でもそんな事より昨夜の事謝らなきゃ。
「おはよう…、泊まっていったんだね、昨夜は先に潰れちゃってごめんね。私は二日酔いにはならないタイプだから平気だよ、バレリオこそ朝食は食べられそう?」
「おぅ、楽しかったから気にすんな。昨夜は飲んでて遅くなったから客間を使わせてもらったんだよ。俺も滅多に二日酔いにゃならねぇから食欲はバッチリだ、さっきから赤鎧の良い匂いがしてたから待ってたんだぜ」
そう言ってニカッと笑ったので持っている自分用に準備した朝食をバレリオの前に置いて厨房へ自分の分を取りに行く。
「おほっ、こいつも美味そうだな! ……んん、美味ぇ! あ~ぁ、あいつと別れてなきゃアイルみたいな娘が居たかもしれねぇのになぁ…」
背中越しにしみじみとしたバレリオの言葉を聞いてしまった、まだ奥さんと別れた事を後悔しているのかな。
昨夜の会話で普段は女性関係もしっかり充実してそうな発言があったけど。
自分用の食事をトレイに乗せ直してバレリオの向かいの席に座ると、バレリオは微笑んで黙々と食事を続けた。
「いただきます」
やはり赤鎧の旨味を味わい尽くすにはとろみをつけて正解だった、とろみの分冷めにくいせいで火傷してヒリついた舌を冷たい水で宥めつつ完食。
途中でホセとエリアスがやってきて自分の分をよそって席に着いた。
ホセが何か言いたそうにしていたけど、バレリオが居るせいか何も言わずに食事を始めたのでバレリオには是非とも今日1日家に居てもらいたい。
食べ終わる頃には額に汗が浮き出る程に身体が熱くなっていた、デトックス効果があるかも。
「デザートにオレンジ持ってくるね、ホセとエリアスの分も一緒に持って来ようか?」
「ああ、頼む」
「ありがとう、お願いするよ」
2人分のトレイを厨房へ持って行き、冷蔵庫に小分けにして冷やしておいたオレンジを4つ取り出す、しまった、バレリオが居るから1人分足りないや。
器を1つ取り出し、他の器から半月状にカットしてあるオレンジをひと切れずつ移し替えた。
ククク…これでよし、6等分にカットしていたので丁度数も皆同じだし完璧。
食堂に戻りオレンジに齧り付いて皮からムシャァと引き剥がす様に食べる、端っこに切れ目を入れてあるので綺麗に剥がれる。
「はぁ、昨日も言ったが本っ当~にお前らが羨ましいぜ、アイルは料理上手だわ気が利くわ、酒を飲ませたら面白いわ「あっ、そ、その事なんだけど…、私変な事しなかった!?」
「酔っ払いとしての行動ってんなら普通の範疇だったと俺は思うぜ?」
「………ある意味普段通りだったぞ」
「あはは、ホセの言う通りだね」
皆の言葉にホッとしたけど、一応きちんと確認はした方がいいだろう。
「あ、あのね、今朝…起きた時ボタンが1つ外れてたんだけど…、私が部屋に戻ってからか…ここでなのか…と思って…」
しどろもどろと聞くとエリアスがニッコリ微笑んで口を開いた、この時点で嫌な予感がする。
「それはここでアイルが自分で「うわー! もういいっ、わかったからもう言わないでぇっ!!」
まさかの4番目!?
思わず耳を塞ぎながらエリアスの言葉を遮った、ヤバいくらい顔が熱い。
「あっはっはっは! アイルはそうしてると間違っても賢者にゃ見えねぇな!」
私達の遣り取りを見て笑い出したバレリオが、いきなり爆弾発言を投下した。
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