第540話 確認

 翌朝は早く寝たせいか、いつもより二時間も早く目が覚めた。

 ホセの記憶喪失問題はあるけど、久々の全員集合だから張り切って朝ご飯作っちゃうもんね!



 二種類のパン生地をねて発酵させている間に、野菜スープと厚切りベーコンと目玉焼き、とろとろのスクランブルエッグと選べる方がいいかな?

 あとは飲み物と果物を数種類でいいでしょ。



「アリリオ用にオレンジ果汁も準備しておこうかな、まだちょっと早いかな? 確か半年以降だったような……、もうちょっとよだれが増えたら作ってあげようっと。あとは~、そろそろ卵を補充しておいた方がいいかも、今日は買い物に行かなきゃ」



 ブツブツ言いながら作業を進める、先に野菜スープを一般家庭のカレー鍋サイズに作る。

 これが依頼で数日かかる時は給食室の寸胴鍋サイズに変わるから、一人で作る気にはなれないのだ。



 火を使っているキッチンで室温が上がったせいか、野菜スープが出来た頃にはちょうど一次発酵が終わった。

 空気を抜いたらいくつかに切り分け、濡れ布巾を被せてベンチタイム。その間に目玉焼きを一人二個の計算と、予備のいくつかをフライパンのスペースが許す限り作る。



 目玉焼きが出来た頃にはベンチタイム終わり。

 更にパン生地をいくつかに分けて形成。バターの多い方はバターロールで、少ない方を食パンの型に入れたら二次発酵しつつ途中で魔導具のオーブンの予熱を開始だね。



 その間にフライパンの上に大きめ片手鍋を使って、湯煎でとろとろスクランブルエッグをまとめて作る。

 あとは一番香りの強い厚切りベーコンを焼く作業だけど、その前にオーブンにパン生地を入れて……っと。



「『洗浄ウォッシュ』」



 皮付のまま食べられるサクランボとプラムに洗浄魔法をかけた、プラムは皮を剥いた方が好きだけど、お店のおばさんがこの仕入先のは皮ごと食べても美味しいからって薦めてきたのだ。

 そして温まったフライパンに厚切りベーコンが触れるとジュワ~ッといい音と、独特の香りが立ち上る。



「んん~! ベーコンの焼ける匂いってどうしてこんなに食欲をそそるんだろう」



 思わず胸いっぱいに鼻から空気を吸い込んじゃうよね。

 お代わりの分も合わせて余分に焼いていると、段々オーブンからパンの焼けるいい香りがしてきた。



 いつもならこんなにいい香りがしたらホセが顔を出すんだけど、記憶が無いから遠慮して来ないのかな?

 だけどホセの性格なら来そうなんだけどなぁ、もしかして昨日キスしたから気まずくて来れないとか?



 …………ちょっと待って、もしかして私ってば幼気いたいけな青少年に戯れに手を出した悪い女状態なのでは。

 いやいや、だけどホセだって私の事を十四歳の自分より年下って思ってたからそれはないよね!?



「ハッ! もしかして私と顔を合わせるのが嫌になるくらい不快に思ってるなんて事は……」「ねぇよ!」



「わぁっ!?」



 独り言を漏らしていたら、いきなりキッチンのドアが開いてホセが入って来た。

 突然入って来たから心臓がバクバク言ってるけど、とりあえずキスされて怒っているわけではなさそうだ。



「お、おはようホセ。今朝の調子はどう? 頭が痛いとか、気持ち悪いとかな……い……って、思い出したの!?」



 なぜか目を合わせようとしないホセを不思議に思って、ほぼ無意識に鑑定してしまった。

 そして気付いた、ホセの記憶喪失が治っていると。



「え……っ、あ、ああ……、その、昨日じいさんとオレの部屋に戻った時、ドアに頭をぶつけてよ……。てっきりにはじいさんから聞いて、オレの記憶戻ったの知ってたと思ってたから……嬉しかったんだぜ。なのに……お前知らなかったんだな」



 ホセの目はせわしなく動いているのに、私の目を見ようとしない。

 ちょっと待って、今ホセはいつ記憶が戻ったって言った?

 落ち着け、落ち着くのよアイル。



「すぅ~……、はぁ~……。ホセ、昨日私が部屋に行った時にはもう全部思い出していたって事?」



 ホセは一瞬だけ視線を合わせると、再び視線を逸らしてコクリと頷いた。

 ジワリ、と自分の頬が熱くなる。



「お、おいアイル、お前顔が真っ赤……ん? ああっ、焦げてる! ベーコンが焦げてるぞ!!」



「えっ!? あっ、ああ~~ッ!!」



 頭の中が真っ白な状態だった私の耳に届いたホセの言葉は、私の意識を引き戻すには十分だった。

 慌てて火を消し、厚切りベーコンをひっくり返す。



 ちょ~っとだけ香ばしいけど、食べられなくもないかな?

 仕方ない、これは私の分にしておこう。

 それとも単体で食べるにはちょっと厳しそうだから、サンドイッチにした方がいいかも。



わりぃ、話しかけたから邪魔しちまったな。けどよ、ひとつだけ確認してぇんだ。アイルはオレとキスしても大丈夫なくらいには好意を持ってくれてるって事で間違いねぇよな?」



 うごぉぉ……改めて言われるとめちゃくちゃ恥ずかしい。

 だけど大丈夫じゃなかったらキスなんてしない訳で……。戸惑いながらも私は頷いた。



「へへっ、そっか。そういや手伝わなくていいのか? 何かする事あるなら手伝うぜ?」



 ホセはニカッと笑っていつものホセに戻った。



「ううん、もうベーコン焼いたら終わりだから食堂で待っててくれればいいよ」



「わかった、必要ならすぐに言えよ」



 そいう言って食堂に繋がるドアをホセが開けると、そこには笑顔全開のエリアスが立っていた。



「ちょっと皆聞いてよ~! アイルってばホセと」「にぎゃあぁぁぁ! ホセ!! エリアスの口を塞いで!!」



 私の叫びを聞いてホセはエリアスに飛びついたが、匂いに釣られて食堂に集まっていた仲間達の連携により全てが知られる事になるのだった。



   ◇   ◇   ◇

いつもお読みいただきありがとうございます!

@nanashidesuさんからおすすめレビューを書いていただきました!

ありがとうございます (*´▽`*)

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