第477話 フェリシアとの再会
ボルゴーニャ公爵家に到着した私達は、急いでフェリスの部屋へ向かい……途中で阻まれた。
「公爵様より是非ともご挨拶したいと言付かってまいりました。どうぞこちらへお越し下さい」
恐らく家令だろう、白髪で執事服に金色の公爵家の家紋ブローチを着けている。
「サントス様、後からではいけませんか? まずはフェリシアお嬢様と会って頂きたいのです」
「いけませんね、旦那様のご命令ですから」
ロレンソが遠慮がちに言ったが、サントスと呼ばれた紳士は取り付く島も無い。
鑑定したところ、やはり家令であり男爵とはいえ貴族だった。
だから冒険者上がりのロレンソがこんなに遠慮がちな態度なんだね。
だけど私には関係無い、私は今フェリスの友人として来ているのだ。
サントスを返り討ちにする言葉を頭の中で組み立ててニヤリと笑うと、それに気付いたリカルドが頬を引き攣らせる。
「へぇ、公爵家では娘の友人に毎回挨拶させるの? 挨拶がしたいならそっちから出向くべきじゃない? それとも挨拶をしに来いっていう命令なのかなぁ?」
「な……っ、公爵様に対して失礼ですよ!」
腕を組んで不機嫌丸出しで言ってやると、サントスは眉を吊り上げた。
身分を笠に着るんならこっちも対抗しちゃうもんね。
「女神様に遣わされた賢者に対して挨拶をしに来いと言うのは失礼じゃないの? そういう態度なら今後タリファスにだけ魔法を使える子供が生まれなくても文句言わないでね? タリファス王にはボルゴーニャ公爵と家令が失礼な態度をとったせいだと報告させてもらうから」
にっこり微笑んでやったらサントスの顔から血の気が無くなってしまった。
サントスだけじゃなくロレンソとリカルドの顔からもだけど。
「そ、それはどうかご勘弁願いたく……! 公爵様にはお伝えしておきますので、フェリシアお嬢様のお部屋へどうぞ!! ロレンソ、案内をお願いします」
「わかりました。アイル、リカルド、こっちだ」
心の中で悪役のような悪い笑みを浮かべつつも、無表情で頷いてロレンソについて行く。
ロの字型の公爵邸の為、角を曲がる時に家令のサントスを見やるとフラつきながら頭を抱えて歩いていた。
「アイル、その……さっきのタリファスだけ魔法が使えない子供が生まれるというのは……」
「ああ、あれね。当然ハッタリだよ」
「「はぁ!?」」
リカルドが戸惑いながら聞いてきたので、素直に本当の事を言ったら二人が同時に声を上げた。
「だって、リカルドには魔法が使える仕組みを話したでしょ? 産まれた瞬間から少しずつ女神様に魔力を奉納するから魔力を使う為の出口ができるって。そんなのこの国だけなんて……あ、魔力を通さない障壁を張って私が二度とタリファスに来なきゃ可能かも?」
「「やめてくれ!」」
再びリカルドとロレンソの声がハモった、仲良しなの?
「そんな面倒な事しないって! …………公爵が余計な事しなきゃ」
「アイル?」
「しない、本当にしないから」
足を止めたリカルドが、私の両肩を掴んで顔を近付けてきたので慌てて首を振る、リカルドに笑顔で凄まれたのは初めてで怖かったです。
この二人旅で結構新しいリカルドを発見した気がする。
「あの扉がフェリシアお嬢様の部屋だ」
再び歩き出したロレンソが指差した先には、部屋の前にロレンソとお揃いの鎧を着た騎士二人と侍女らしき女性が二人立っていた。
侍女はこちらに気付くと部屋の中に声を掛ける。
「お嬢様! 賢者様がいらっしゃいました! ですから食事をなさって下さいませ!」
もう一人の侍女は急ぎ足で部屋から離れた、食事の準備でもしに行ったのだろうか。
しばらく何も聞こえなかったが、私達が部屋の前に到着した時に声が聞こえた。
『アイルだけ入って……』
扉越しに聞こえた力なの無い声に焦燥感に襲われた、私達が向かっていた間もまともに食事を摂って無かったのだろう。
鍵が閉まってるから入れなかったんじゃなくて、誰かが入ると取り乱して泣くから入れなかったんだろうか。
三人くらい余裕で寝られそうな大きな天蓋付きベッドの上にモッコリとした膨らみがある、シーツに
「フェリス? 久しぶりだね、何があったの?」
極力優しく声を掛けると、シーツの膨らみが微かに震えだして
「……ひっく、わ、わたくし……っ、もうすぐ死んでしまうの……っ!」
「えっ!? どういう事!? もうすぐ結婚するんじゃないの!?」
まさかの言葉に顔を見る為に思わずシーツを剥ぎ取った。そんな私の目に飛び込んできたのは最後に見た美少女なフェリスと違い、ゲッソリとやつれて顔色の悪いまま涙を流す姿だ。
「わたくし……っ、五年前に亡くなった大お婆様と同じ病気なの、あの時も治す
ボロボロと大粒の涙を流すフェリスをギュッと抱きしめた、病気だったら治癒魔法では治せない。しかも五年前で治療法が無いって事はかなり難しい状態だろう。
「フェリス、治癒魔法では病気は治せないけど、鑑定したら原因くらいはわかると思うの。だから諦めないで一緒に頑張ろう、ね?」
唇を噛み締めたまま涙を流すフェリスは、私の言葉にコクリと頷いた。
そしてフェリスを鑑定した私は衝撃の結果に思わず息を飲んだ、生前の友人と同じだと……。
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