第494話 報告追加

「報告する事はこれくらいかな? ね、リカルド」



「他にもあるはずだろう、思い出してみろ。それに公爵家でドレスを着たとか、そういう事は報告しなくていいのか?」



 そう言ってリカルドはニヤリと笑った。



「えっ!? なにそれ! あっ、そうか、簡易的とはいえ結婚式だったから着せられたんだね。だけどエドガルドからもらったドレスだと結婚式には相応ふさわしくないよね、王都で王宮に行った時のやつにしたの? だけどアレも結婚式に出るにはちょっと合わない気がするなぁ。貴族の結婚式って花嫁は白いドレスなんでしょう? あのドレスも白が基調だったからヘタしたら花嫁より目立っちゃいそうだよね」



 さすがエリアスと言うべきか、ドレスに関してよくここまで語れるものだ。

 他の三人はふ~ん、と言わんばかりに興味無さそうに頷いているだけだし。



「ドレスはフェリスがくれたのを着たというか、着せられたというか」



「へぇ、よくアイルに合うサイズがあったね。ウルスカで出会った時点でフェリシア嬢の方が大きかったよね?」



「ぶふっ。なんでも彼女が従姉いとこの結婚式でブライズメイドをした時のドレスを貰ったらしいぞ、十歳の時に着た物をな」



 首を傾げて問うエリアスの言葉に、リカルドが吹き出してバラしてしまった。



「アイルは十歳の大きさなんだね」



「おいおい、本人は小せぇの気にしてんだから言ってやるなょ」



 ポツリと呟いたエンリケにホセが言ったが、顔を背けて肩を震わせながら言うのはおかしいと思うの。



「他には!? 他にも何か面白い……じゃなくて、何か無かったの? アイルがお酒を我慢できなくて飲んじゃったとかさ」



 ワクワクしながらリカルドに聞くエリアス。

 一瞬リカルドが私をチラリと見たが、何か特別な事あったかなぁと首を傾げて考える私。

 そんな私を見てリカルドはため息を吐いた。



「はぁ……、どうしてあの事を忘れられるんだ」



「え!? あの事ってまさかダブルベッドの事!? だって結局一緒に寝なかったんだから別に話すような事じゃないよね?」



「何それ!? どうしてダブルベッドの部屋に!? それは話すような事だよ! さぁ、話して!」



 エリアスはワクワクした顔で、ホセは驚いた顔で前のめりになった。



「違うだろ! タリファスの第三王子の事をそんなにすっかり忘れられるんだ!?」 



「あっ」



「『あっ』じゃない! こっちはあの時気が気じゃなかったんだぞ!」



 珍しく私に対して声を荒げるリカルドに驚く三人。



「ちょっと待て、お前また王族に関わったのかよ!? 今度はその王子相手に何をやらかしたんだ!?」



 一応王族であるホセが立ち上がった。



「そうだけど大丈夫なの。それに私は何もしてないもん。もう関わらないだろうから、言うまでも……ないかなぁって……えへ」



「お~ま~え~は~」



 ホセの広げられた大きな掌が私の頭に向かって伸びて来る。私は慌てて隣に座るリカルドとソファの背もたれの間に頭を突っ込むようにして頭を守った。



「その王子はもうナジェール行きの船に乗って行っちゃったから、たぶん会う事は無いって!」



 リカルドの背に隠れているせいでくぐもった声のため、大きめの声で主張した。



「ナジェール? 聞き覚えはあるけど、どこだ?」



「ほら、アイルがイカのバター醤油焼き作ったり、バナナ農園の女の子が賢者を名乗って捕まったりしたところだよ」



 首を傾げたホセに、エリアスが説明した。

 同時にホセがソファに座りなおす音がしたので、リカルドと背もたれの間からそっと頭を抜く。



「で? 結局そのタリファスの第三王子とはどんな関わりを持ったの?」



 カートに乗せられたポットから、自分の分のお茶のお代わりを注ぎながらエンリケが聞いた。



「タリファスの港町の宿で食事をしていたんだが……。いきなりひざまずいてアイルの手を握ったかと思ったら、『美しい』だなんて言い出して……あの時はさすがに焦った」



「「「………………」」」



 眉間に皺を寄せつつリカルドが言うと、三人は口を開けたまま固まった。



「私もあの時は色んな意味で衝撃を受けたけどね」



 鏡代わりにされた屈辱を思い出して苦虫を潰したような顔になる私。



「えっと……、エドガルドと同類だったって事? それなのにあっさり他の国に行ったんだ?」



 エリアスが混乱しつつも質問すると、ホセとエンリケも同意とばかりにこちらを見ている。



「エドとは全然違うよ、第三王子は完全なる自分大好き人間ナルシストだったもん」



「ハァ? だったらなんでお前に美しいだなんて言ったんだよ」



「クククッ、ホセ、アイルの瞳をジッと見てみるとわかるぞ」



 自分の口では答えたくなくてムスッと口を閉じていると、笑いを漏らしながらリカルドがホセにヒントを与えた。

 そしてホセは私に近付いて瞳を覗き込む。


「どれどれ? 普通にいつも通り黒いな?」



「その黒い瞳の中に何が見える?」



「あぁ~? ……あっ。わはははは! そういう事か! 確かに鏡みてぇにくっきり見えるな! 自分の事じゃなくて残念だったなぁ、アイル? なるほどなぁ、だったらそいつがナジェールに行ったのも納得だぜ、黒い目をしたヤツを探しに行ったって事か」 



 ホセは目尻に涙を滲ませる程に笑いながら、慰めるように私の頭を撫でた。

 エリアスとエンリケも納得したように俯いて肩を震わせながら頷いている。



「あはは、やっぱりアイルといたら退屈しないよね。僕も一緒に行きたかったなぁ。で、ダブルベッドってどういう事なんだい?」



 強引に話を戻したエリアスに、その夜は私だけウルスカに帰って寝た事も含めて説明する事になった。

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