第82話 初めての夜会 後編

 ん~…、私へのご褒美より先に犯人探しが優先だと思うんだけどなぁ、お約束だったら他の王子様の母親である側室だよね。

 変なお家騒動に巻き込まれる前に退散したい……あ。



「決めました! 今後冒険者パーティ『希望エスペランサ』のメンバーは意に沿わぬ要求であれば王侯貴族の命令を拒否する事が出来るという許可証が欲しいです。拒否した事に対する報復行為も許さないという条件も付けて頂けると重畳ですね」



「王侯貴族…、ならば余の命令であっても…という事か?」



 王様は片方の眉をピクリと上げて不快だと伝えてきた、部屋に居る騎士達も怒気を孕んでいる。



「王族も対象に入れて頂いたのはもしもの時に先程の刺客の雇い主から何かを命じられても拒否したいからです。誰が黒幕かはわかりませんから王族が黒幕の可能性はゼロではありませんし。断った途端理不尽な理由で投獄される、なんて事があったら困りますので」



 我ながら際どい事を言っている自覚はある、王様からも怒気が発せられ、騎士達からは怒気どころか殺気もぶつけられている。



「あ、それにその許可証があれば先程の王太子殿下と第2王子殿下の求婚をお断りした件も許されますよね?」



 ニッコリ微笑んでそう言うと、王様は面食らった様にポカンとした表情を見せた。



「子供達が…求婚……? …くっ、はは、ははははは! そうか、それはさぞかし困っただろう」



「いえ、お断りした理由には納得頂けた様ですので」



「ほぅ…」



 王様は完全に面白がっている表情で王子様達を見るが、2人は断られたせいかションボリしている。

 もしかして父親に知られたくなかったのだろうか、でも恐らく騎士から報告されちゃうと思う。



「陛下、準備が整いました」



「わかった、では城へ戻ろうか。許可証は後日先生の屋敷に届けさせよう」



「感謝致します」



 騎士が呼びに来て王様は立ち上がった、どうやら馬車や護衛の準備をしていた様だ。

 許可証をくれる様なので感謝を込めて90度の礼をしておいた。

 王子様達も人数が増えた護衛騎士達に安心したのかすぐに立ち上がり、王太子が振り向いて口を開く。



「アイルと言ったな、また会おう」



「王太子殿下にそうおっしゃっていただいて光栄ですが…私は平民です、活動拠点もウルスカですからもうお目にかかる事は無いかと…」



「まぁまぁ、絶対会えないという訳ではありませんからそう落ち込まずに。さぁ、お迎えが待っていますよ」



 私の返事にショックを受けてしまった王太子をガブリエルが宥めて帰りを促した。

 ちょっと可哀想だけど、適当に話を合わせて後日嘘をついたとか言われても困るからね。



 王様と共に王子様や騎士達がゾロゾロと部屋から出て行く、その一行に紛れて会場へ戻ろうとしたら私に剣を向けた騎士が腕を掴んで止めてきた。



「その手に持っているナイフを弾いたという武器、それは何の為に持っていた? そしてそれをどこに隠していたのだ?」



 暗殺未遂犯と仲間では無いとわかったが、私の事はまだ怪しいと思っている、そんな考えがハッキリ伝わってくる鋭い視線を向けられた。

 職務に忠実で真面目、とても好感が持てる、そして同時にビビアナの真面目なタイプにちょっかいを掛けたいという気持ちもわかってしまった。



「うふふ、これでも年頃の女性なので不埒な殿方から身を守る為ですよ? どこに…と聞かれたから答えますが、あまり見られると恥ずかしいな…。ここにです」



 横のドレスの隙間から太腿に手を滑り込ませて片付けるフリをした、某有名な小悪魔美女スタイルのイメージだ。

 その時一瞬太腿から下の生脚がチラリと見え、騎士はパッと視線を逸らした。



「わ、わかった。しかし王族がいらっしゃる時に武器を携帯するのは控える様に、特に登城する様な時は絶対持ち込んではならんぞ」



「わかりました。ですが…王宮の敷地内に入るのは今夜が最初で最後でしょう」



 一瞬何か言いたげだったが、騎士はすぐに王様達を追い掛けて行った。

 結構イケメンでモテそうなのに意外に純情だったのか、文化の違いのせいか可愛い反応をされてしまった、個人的にとても満足だ。



「じゃあ私達も行こうか、陛下が居なくなったから私1人で居たら娘を連れた貴族達に囲まれてしまう」



「そうだね、私が来た本来の役目を全うしないと」



 差し出されたガブリエルの肘に手を絡めて階下の会場へと戻ると、既に王様は挨拶をして退場した後だった。

 会場が穏やかな状態なところを見ると、刺客の襲撃は知らされていないらしい。

 会場では私が居ても親娘でガブリエルに嫁候補アピールする人も居て、私が平民と知るとあからさまに見下してきた。



「あらぁ、貴女平民でしたの? それではリニエルス伯爵の妻にはなれませんね、残念ですこと」



「友人でいるのに身分は必要ありませんから、その様なくだらない事に拘る人はも好みませんし」



「そ、そうよねぇ。それにしても貴女、素敵なイヤーカフなのにネックレスは貧相なのね? もう少しお洒落の勉強なさったら?」



 1人の令嬢が脱落したと見ると私の言葉に便乗して別の令嬢が口撃を仕掛けてくる。

 しかしネックレスに関しては返り討ちにする為に敢えてコレにしたのだ。



「このネックレスはガブリエルから初めてプレゼントされた物なのです、しかも魔石が使われているので防御の魔法を付与までしてくれた私の宝物ですわ、ね?」



 加工で出たクズ魔石って言わなきゃそれなりの値段だと勘違いしてくれるだろう。

 ニコリと微笑んでガブリエルを見ると、私の言葉に感激したのか抱き締めてきた。



「そんなに大切にしてくれてるなんて嬉しいよ!」



 ちょっと待って髪型が崩れる、じゃなかった、牽制の為に言ってるのわかって…なさそう。

 え? これで後から牽制の為に言っただけって言ったら私悪女?

 とりあえずそんなガブリエルを見た令嬢達は諦めた様なのでついてきた目的は果たせたと思う、帰りの馬車でもずっと機嫌の良いガブリエルに妙に罪悪感を抱かされたけど。

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