第141話 奴隷少年
リカルドと少年の主人が睨み合っていると、殴られて吹っ飛んだ少年がヨロヨロと起き上がって主人を護る様に前に立った。
「ククッ、そうだ、それでいい。俺に手を出す前にコイツを何とかしねぇとな? 隷属魔導具で俺を護る様に縛られちまってるからよ」
少年の後ろで腕を組んだままムカつくニヤニヤとした笑い方をしている男の言葉は私の耳に届いている、しかし私は少年の姿に釘付けになっていてリアクションする事すら忘れていた。
何故なら吹っ飛ばされて倒れた拍子にフードが外れ、フワッとした丸っこい可愛い茶色い耳と趣味の悪い首輪が見えたからだ。
「ど…れい…?」
自分が思っているより動揺しているのか、掠れた声しか出なかった。
「あぁん? へっ、奴隷を初めて見た訳でもあるまいし、見りゃわかんだろ?」
「何で…、だって、こんな子供が…」
奴隷は犯罪奴隷と借金奴隷なんじゃないの!?
借金のカタに売られちゃったって事!?
「ははっ、とんだ箱入りお嬢様なんだな。見ての通り獣人だぜ? 奴隷の子供は奴隷に決まってんだろ! ん…? そっちの獣人は奴隷じゃねぇのか?」
男は値踏みする様な目をホセに向けた、自分の中でフツフツと怒りが込み上げてくるのがわかる。
「リカルド…、これはタリファスでは普通の事なの…? 犯罪や借金以外の奴隷って…違法なんじゃ…」
口の中が乾いて喋りづらい。
「タリファスでは昔程ではなくても獣人は殆ど人扱いされない…、だから奴隷として捕らえられた獣人の子供も産まれて乳離れする前に隷属の首輪を着けられるんだ。犯罪奴隷や借金奴隷と違って書類が無いから首輪が無ければ奴隷では無くなるが…、勝手に解呪されない様に解呪の魔導具を使って貰うのに最低でも金貨が必要になるんだ。奴隷は財産でもある、だから媚薬を使って敢えて子供を作らせる奴も多い」
背中を向けているから表情はわからないけど、苦渋を滲ませた声でリカルドが教えてくれた。
ふぅん、首輪が無ければ自由になれるのか…、でもこのまま拐って行ったら泥棒扱いになるよねぇ。
頭の中で色々計算をしてどうやって辻褄を合わせるか数秒考え、結論を出した。
「じゃあ…、もしその子が攻撃してきて殺しちゃっても正当防衛よね? とりあえずこの
「ハッ、やれるもんならやってみな。伊達に熊獣人じゃねぇんだぜ? こんなナリでも力だけは人族の大人以上なんだ。おい、黒猪を渡すんじゃねぇぞ、やれ!」
黒猪に近づこうとしたら男が少年をけしかけて来た、よし、計算通り!
殴りかかって来た少年を避けながら、仲間達にウィンクして大丈夫とサインを送る。
ウィンクなんてちょっと恥ずかしかったけど、ヘタな合図したら男達にもバレちゃうもんね。
「ははっ、そんなんじゃあ当たらないよ。ホラホラこっち、遅い遅い」
紙一重で避けながら男達から少年を引き離していく、山だから50mも離れれば殆ど見えない。
苦しそうな表情で攻撃を繰り出しているが、私は身体強化しているお陰で余裕である。
「ここまで来たら見えないよね」
「ッ!?」
ずっと攻撃を避けていただけの私が自分に向かって突っ込んで来たせいか、少年は慌てて突進を止めて息を飲んだ。
私はそのまま少年を抱き締める様に捕まえ、首輪に手を触れる。
「『
キィンと大気を震わせる様な甲高い音がしたかと思うと、少年の首からポトリと一見革製に見える首輪が落ちた。
ホホホホ、解呪の魔導具が無ければ呪文を唱えればいいじゃない作戦!!
鑑定で魔法でも解呪出来る事は分かっていたもんね、呆然とする少年の顔を覗き込む。
「ふふ、私が解呪の魔導具持ってたって言ったら信じる? もう君は自由だよ、でも生きてると分かったらアイツら君を取り戻そうと躍起になるだろうから…ちょっとココで待っててね、諦めさせるから」
「なんで…」
「え?」
「なんでボクを解放したりしたんだ! これからどうやって生きていけばいいのさ! 父さんも母さんも死んじゃったから…獣人のボクはこの国じゃ生きていけない…!!」
少年は膝から崩れ落ち、外れてしまった首輪を掴んで再び首に着けようとした。
しかし契約魔法か魔導具が無ければ隷属の首輪は着けられない、不安の為か少年は震えている。
地面に蹲る様に泣いている少年の頭を撫で(さりげなくフワフワ耳も堪能)ながら話しかけた。
「この国で生きていけないなら私達とパルテナに行く? 私達はパルテナから来てるの、私の仲間に狼獣人が居たでしょ? 彼はパルテナの孤児院で15歳まで育って今は立派なAランク冒険者なの、あなたもそんな人生を選んでみない?」
「そ、そんなの…」
「出来るよ、あとはあなたの気持ち次第」
「い、行きたい…、パルテナに」
「わかった。よし、なら早速裏工作しないとね~」
鞄から出すフリでストレージに収納してあった黒猪を取り出し、ナイフで首を斬りつけた。
既に死んでいるからあまり血は飛び散らないけど、多少の返り血を浴びて再びストレージに収納する。
「今のところ近くに魔物は居ないけど、木の上にでも隠れててね。アイツら追い返したら迎えに来るから待ってて」
これだけ獣臭い血を浴びて小細工したんだからちゃんと騙されてよね。
リカルド達が見える距離まで走って行き、そこから血を滴らせたナイフを持ったまま敢えてゆったりと歩いて近付いて行った。
私に気付いて視線が集まると、ホセ以外がギョッとした顔をした。
「あはは、ちょっと力加減間違っちゃったみたいでさ。さて、黒猪は持って行くからね、まだゴネる様なら…」
言葉を途中で切って黒猪の眉間に刺さっている棒手裏剣を抜き取ると、ズチュッという生々しい音がした。
敢えて微笑みを浮かべたまま血塗れの棒手裏剣とナイフをチラつかせつつ黒猪を収納、そしてゆっくり立ち上がり男と視線を合わせる。
「あなた達も同じ目に遭うかもよ?」
「ひ…っ、ヒィィィ」
「あっ、待てよ!」
男は後退り、悲鳴を上げながら走って行き、仲間もその後を追って行った。
◇◇◇
もでさんよりお勧めレビュー頂きました、ありがとうございます!(*´∇`*)
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