第363話 確認
「ベビーベッドはここに置く?」
「そうね、だけど準備するのが早すぎないかしら?」
ビビアナの妊娠発覚から約ひと月後、痣の花びらが1枚減った頃に注文しておいたベビーベッドが完成した。
私は休養日に例によって運搬係として出動し、主寝室に設置した。
今セシリオはお仕事なので居ないのだ。
「ここに少しずつベビー用品が増えていくのを見ながら赤ちゃんの誕生を待つのが
「ふふっ、本当にどっちが妊婦かわからないわね。これだけ誕生を楽しみにしてもらえるこの子は幸せ者だわ」
ビビアナは笑いながらまだ少しも膨らんで無いお腹を撫でた。
冒険者を休業しているビビアナは、普段私達が依頼で出掛けている間にギルドの訓練場で新人の指導をしている。
本当は『
ちなみにセシリオの食費は毎月銀貨2枚だけ貰っている、酒代も込みなので少々安いが時々手伝って貰っているので妥当なところだろう。
『アイル! アイルは居ますか!?』
いきなり切羽詰まった様なセシリオの声が玄関から聞こえた、どうしたのかとビビアナと顔を見合わせて首を傾げ、階段の上から玄関に声を掛ける。
「ここに居るよ、どうしたの?」
「アイル! さっき門のところにエドガルドが来ていたんです! しかも怒った様な凄い顔をしていたからアイル絡みかと急いで報せた方が良いと思って抜けて来たんですよ!」
「えぇっ!? もしかしてビビアナの結婚式に呼ぶって言っておいて呼ばなかったから怒ってるのかな!? 準備が忙しくてエドの事をすっかり忘れてたんだよねぇ…」
ポリポリと
「一応ビビアナは部屋に入ってて」
「わかったわ。だけどあたしの結婚式くらいでエドガルドがどうこう言う事は無いと思うのよねぇ」
ビビアナは肩を竦めながら寝室へと入って行った、私はすぐに階段を降りてセシリオに玄関を開ける様にと頷く。
ガチャリとドアが開いた瞬間、取り乱した様子のエドが入って来て、私を見た瞬間抱き締めて来た。
「どうして私に何も言ってくれなかったんだ! 私はいつもアイルの連絡が来るのを待っていたというのに!」
やはりビビアナの結婚式に招待し忘れた事の文句を言いに来た様だ。
「ご、ごめんね…、知らせようとは思ってたんだけど準備とか忙しくてすっかり連絡する事忘れてぅぐっ」
申し訳無さにエドの背中をポンポンと優しく叩いたら、苦しい程更にギュッと抱き締められた。
「ああ…、噂は本当だったんだね、まさか…そんな事あるわけ無いと信じていたのに…! しかし今のアイルを見たら信じるしか無い…く…っ」
拘束が緩んだかと思うとエドは膝から崩れ落ち、私の腰に抱きついたまま肩を震わせて泣き出したので、私とセシリオは訳がわからずポカーンと口を開けてエドを見ていた。
我に返ってとりあえず話を聞こうと、セシリオは職場に戻ってもらってリビングへと移動した。
ちなみにリビングでお茶を淹れた時には騒ぎを聞きつけたおじいちゃん、エリアス、エンリケも集合している。
リカルドとホセはお出掛け中だ。
「あっはははは! おな、お腹が痛い~! あははははは!!」
「もうっ、エリアス笑い過ぎ!」
ソファの隣に座って爆笑するエリアスの膝をペチンと叩く、エドはこんな事にそんな羨ましそうな目をするのはやめて頂きたい。
「だってさぁ、アイルが娼婦になるって噂はひと月くらい前じゃなかった!? Aランクの冒険者でそれ以外でも大儲けしてるアイルが娼婦になる訳ないのにさぁ、それで娼婦になるなら余程の男好きだよ! アイルが男好き…ぷぷっ、笑える~!! あはははは!」
私の目の前にはぶすくれた顔のエドが座っている、話を聞いたらウルスカで一時的に噂になった『アイル娼婦に転職説』が4日前にエドの耳に届いたらしい。
当然嘘の噂なのでギルド経由ではなく、ウルスカからトレラーガに移動した冒険者が面白おかしく話しただけなので情報が入るのが遅かったとか。
話を聞いて最低限の荷物を持って飛び出したが、貸し馬が出払っていて途中交換が出来なかったので4日も掛かってしまったと嘆いていた。
馬車で1週間のところを4日って、結構飛ばしてきてるよね?
「エリアス、笑っているが私の気持ちも考えてみてくれ。事情は一切わからずアイルが娼婦になるとか娼館で見習いしていたのを目撃されたとか聞かされて私が正気で居られると思うか!?」
「………まぁ、無理だよね」
「だろう!?」
エドの真剣な眼差しに負けたのか、エリアスの笑いが収まった。
「嘘の噂だって思わなかったの? 私が娼婦になる必要なんて無いでしょ?」
「私も信じていなかったとも! しかし居ても立ってもいられなくて馬を飛ばしてやって来たら今までとは比べ物にならないくらいの色香を放つアイルを目にしたんだ! そして申し訳なさそうに謝るから誤解してしまったんだよ…」
「だって、それはビビアナの結婚式の事を言ってるのかと思ったんだもん」
どうやら女神様の化身になった事で起きた変化が余計に誤解を深めた様だ。
「ビビアナの結婚式に呼んで貰えなかったからと押しかける程
「ゔ…っ」
説明するには少々恥ずかしい事を聞かれて思わず言葉に詰まる。
「アイルはこの世界で大人の女性が当たり前に知っている知識を知らなかったから学びに行ったのだ、ついでに賢者の
おじいちゃんは最後のひと言と共に片眉を上げてチロリと私を見た。
「なるほど…! しかし、賢者の叡智とは…?」
何故か嬉しそうに納得し、首を傾げたエドに対してはお茶に口をつけて黙秘を貫いた。
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