第536話 幸せタイム

「んぁ? お前一緒のテントで寝るのか? あっちの二人と寝るかと思ったぜ。それにお前が最初に見張りやるんじゃねぇの?」



 周囲に障壁魔法を展開させてからテントに入ると、ホセが気付いて話しかけてきた。



「そうだよ、だってコレは三人用のテントだし、見張りも問題ないよ。それにあの父娘おやことは仲間でも仲良しでもないから一緒には寝ないの」



 調査に向かっている時は、最近ホセが私の事を好きだと隠さなくなってきたから気まずくて別々のテントを使っていたが、記憶が無い今なら気にしなくていいのだ。



「お前成人してるんだろ、それでいいのか? まぁ、見た目が子供ガキだから気にする必要もねぇか、ははは」



「ぐぬぅ……。そ、そうそう、気にしなくていいから早く寝よう。明日は早めに出発してアーロンを早く休ませてあげたいからね、ホセもビビアナの顔見て安心したいでしょう? ホセの身体は大きいから獣化して寝てね」



 言い返しそうになったけど、なんとかこらえた。

 我慢よアイル、ここで喧嘩したらモフらせてくれなくなっちゃうかもしれないからね。

 いつものようにホセに背中を向けて服を脱いで獣化してくれるのを待つ。



「アイル、もうホセは獣化してるよ」



 エンリケの声に振り向くと、ホセは獣化していた。



「え? あれ? なんで服を着たままなの!?」



 ショックを受けつつ問い詰めると、ホセは再び人型に戻った。



「なんでって……、ここは森の中じゃねぇか。何かあった時、さすがに森を全裸で走り抜けるようなマネしたくねぇからに決まってるだろ」



 盲点だった!

 そうか、普段野営の時でも服を脱いで獣化してくれるのは、『希望エスペランサ』の皆と一緒だったら大丈夫っていう信頼があるからなんだね。



「森を全裸で……ププッ」



「エンリケ! 笑わないの! テントの周りは障壁魔法で囲ってあるから安全だよ。だから夜の見張りもしなくていいんだもん。それにホセも獣化してる時には脱いでる方が楽って言ってたでしょ」



 ホセにヘソを曲げられたら困るので、笑ったエンリケをたしなめてから説明した。



「ん……まぁ、それなら……」



 すでにこれまでに私の魔法を見ているせいか、すんなりと納得しておもむろに服を脱ぎ始めたホセ。

 慌てて後ろを向いて衣擦れの音が止むのを待つ。



 静かになったので振り向くと、隅にはきちんと畳まれたホセの服が置いてあった。

 今のホセは脱いだ服をくしゃっとまとめて置いてある事が多いのに、十四歳の頃はビビアナと冒険者を始めて孤児院を出て間もないせいか、躾けられた通りの生活をしていたようだ。



「ねぇホセ、普段獣化したホセと一緒に寝る時はモフらせてもらってたんだけど、今夜もモフらせてもらっていい?」



 伏せの体勢で目を瞑ったホセにソロソロと近付き、頭を優しく撫でる。

 モフるという言葉が理解できなかったのか、起き上がると私を伺うように首を傾げてからエンリケの方を見る。

 言いたい事を察したエンリケはホセに向かって笑顔で頷いた。



「そうだね、宿屋に泊まる時も一緒のベッドで獣化したホセをモフりながら寝ちゃうのがお決まりみたいなものだし」



 エンリケのナイスアシストのおかげで、ホセはコクリと頷いてくれた。

 しかし何をするのかと警戒するように私をジッと見てはいるが。



「えへへ、ありがとう」



 お礼を言ってからホセの毛並みを掴むように、ワシワシと耳の付け根と顎をモフる。

 ちょうど指が埋もれて隠れるほどの毛の長さ、そらと同じくらいので最高なのだ。



 気持ちいいのか、ブンブンと音がしそうなくらいに振られた尻尾が、私の手が脇の方へと移動すると落ち着いた動きになり、手前の脇だけをコショコショとすると段々体をひねっていわゆるヘソ天の体勢になった。



 こうなったら両手で腹毛を高速で撫で回すようにモフる。

 お腹の毛は背中側より薄いので程々にし、顎から頬にかけてモフモフわしわしとする頃には最初に見せていた警戒の色は全く無くなっていた。



「ふぅ……」



 警戒どころか、むしろ私のフィンガーテクに篭絡ろうらくされた一匹の犬……じゃなくて狼がいるだけだ。

 久々にホセの毛並みを堪能した私は満足して息を吐くと、コロンと寝転がってホセの首毛に顔をうずめた。



 ホセはといえば、もう終わりなのかと言わんばかりにチラッチラッと私を見てから足をエンリケ側に倒した。

 背中を向けられた事によって抱き着きやすくなったのでムギュウと抱き締め、時々さわさわと撫でながら眠りについた。



 翌朝、マルシアのものと思われる泣き声で目が覚めた。

 慌ててテントから飛び出て二人が休んでいたテントの中を確認すると、上半身を起こしたアーロンにマルシアがすがりついて泣いている。



「よかった、目が覚めたんだね。昨日ギリギリ間に合ったけど、今朝までずっと意識が無かったからマルシアが凄く心配してたんだからね! いっぱい出血したから朝食には血を作るのにいい料理出すよ」



「……マルシア? 君達はいったい……」



 キョトンとして呟くアーロン。まさか出血のせいでアーロンまで記憶喪失なんて言わないよね!?

 こっちの血の気が引きそうになった時、アーロンがニヤリと笑った。



「な~んてな、冗談だよ、冗談。……って、痛いっ! いたたたた! マルシアやめっ、痛い!」



「…………ッ! ……!!」



 マルシアが無言で泣きながらアーロンの身体を殴り始めた。

 うん、思う存分殴っていいと思うよ。ホセの事もあったし、シャレにならない冗談は冗談の内に入らないって叩き込んでおくべきだね。



「マルシア、気が済むまで殴ったら朝ご飯食べに出ておいで。二人の分も準備しておくから」



 生温かい笑みを浮かべ、私は朝食の準備を始めた。



◇◇◇


フォロワーさんが14,000人突破しました!

ありがとうございます!! "(ノ*>∀<)ノヤッター


そして現時点で最新話まで読んで下さっている皆様、あなた方は精鋭(?)です。

ここまで飽きずに読んでいただき感謝しております!


あとどれくらい続くか作者にもわかりませんが、面白くなるよう頑張ります‎( ˶•̀֊•́ ˶)و

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る