第309話 ご対面

 貧民街スラムを抜けて辻馬車を拾うと、チャルトリスキ伯爵家へと向かった。



「ところで伯爵家は代替わりしてるのかな? ベルトランは次男だって言ってたでしょ? 父親に渡して欲しいって頼まれたのに、お兄さんに渡しちゃまずいよね?」



「あ~…、そういや名前とか聞いてねぇもんな、何つって呼び出しゃいいんだ?」



「そうねぇ、お母さんの名前だすと面倒な事になりそうだし、ベルトランから普通にパーティとして依頼されたって事でいいんじゃないかしら?」



「「賛成」」



 ビビアナの提案に乗る事にした。



「とりあえず最初ホセは下がっててね、出来るだけリスクは減らしておこう」



 伯爵家ともなると貧民街からは遠くて馬車でも30分は掛かった。

 それというのも領地を持っていない貴族の敷地はとても広く、庭の幅の分だけお隣さんが遠いのである。

 貴族の屋敷が並ぶ通りで教えられた紋章が掲げられている門前で馬車を降りた。



 門番は見当たらず、門に付いている鐘を鳴らすと、門横の木に隠れて気付かなかったちょっとした一軒家から犬獣人が出て来た。



「どちら様でしょう? ご用件は?」



 執事の格好をしたおじさんは門越しに値踏みする様な視線を私達に向けた。



「こんにちは、私達はAランクパーティの『希望エスペランサ』と申します、あなたはこちらで20年以上働いている方ですか?」



「え、ええ、こちらのお屋敷で25年お仕えしております」



 良かった、おじさんだから大丈夫だとは思ったけど、再就職で数年前からだったりしたらベルトランの事知らないもんね。



「私達は旅の途中でこちらの次男のベルトラン様より父君にお手紙を渡す様にと依頼を受けたのです」



「な…っ!? それは本当ですか!?」



「はい、諸事情によりこれまで連絡出来なかったそうです。ここでは言えませんが手紙には書いてあるかと思います」



「では待合室にご案内致ししますので少々お待ちいただけますか」



「わかりました」



 顔色を変えた執事は門の側の一軒家の一室に案内すると、お茶とお菓子を出して部屋を出て行った。

 そしてしばらくしてからさっきの執事の声が聞こえて来た。



『本当です! エルフでも無い限りあの若さでベルトラン様のお名前を知っているはずがありません!』



 どうやら信じて貰えず思わず大声を出してしまった様だ、20年以上音信不通だった屋敷の坊ちゃんから連絡が来たと言われてもすぐには信じられないよね。

 それから数分後に執事が戻ってきて馬車に乗せられた、帰されるのでは無く敷地内を移動する為の馬車らしい。



「よくぞお越し頂きました、当家の家令を勤めておりますグスマンと申します。旦那様の元へご案内致しますのでこちらへどうぞ」



 さっきの執事より幾分年上の…狼獣人の様だ、段々犬獣人と狼獣人の区別がつく様になって来たなぁ。

 すれ違う使用人達は皆犬や狼ばかりなのに気付いた、狼って元々群れで生活するからだろうか。



「旦那様、お客様をお連れ致しました」



『うむ、通せ』



 グスマンがノックをして声を掛けると、ドア越しに渋い声が聞こえて来た。

 通された部屋は応接室でも執務室でも無く、綺麗な花が飾られていてどう見ても女性の部屋にしか見えなかった。

 そこに居たのはベルトランを渋くした様な狼獣人と、狼獣人だった。



「お初にお目もじつかまつります、Aランクパーティ『希望エスペランサ』のアイルと申します、こちらは仲間のホセとビビアナです。ベルトラン様の父君でお間違い…ありませんね」



 伯爵はホセの名前を聞いてピクリと耳を動かした、もう1人は鑑定する前からわかっていたけどホセのお父さん…つまりは王様だ、何で居るの!?



「ああ、ベルトランから手紙を預かったというのは本当か?」



「はい、こちらです」



 後ろ手でストレージから手紙を取り出し伯爵に近付いて手渡した。

 王様はその間無言だった、しかしジッとホセを見ており、ホセは無表情で無反応を貫いていた。

 手紙を渡した私は王様からホセを隠す様に間に立った、私の身長じゃあんまり隠せてないけど。



「ふむ…、孫が世話になった様だな」



 え!? ホセの事が書かれているの!?

 一瞬そう思ったがすぐにアンヘルの事だとわかった。



「孫…とは?」



 びっくりした、初めて声を出した王様の声がホセにそっくりだったから。



「ベルトランの息子がこの者達に助けられたそうです」



「ベアトリスと…息子の事は書かれているか?」



 悲痛な表情で伯爵に問う王様。



「はい、ですが…刺客から逃す為に別れて以来10年以上記憶喪失になっており、行方がわからぬそうです。そして…この者達に信用して貰えれば新たな情報が手に入る…と」



 そして伯爵と王様は私達に視線を向けた。

 私はホセを振り返って目で訴えた、するとチラリと私を見てから任せると言う様に小さく頷いた。



「話を聞くのならば約束して下さい、これから聞く内容はあなた方の心の内だけに留めると。そして…『探索サーチ』ドアの向こうとベッドの天蓋に隠れている者も含めて人払いをお願いします、その条件を飲んで頂けるのならばお話ししましょう」



 魔法が使える者で無ければ治癒魔法の様に見てわかるもの以外呪文だと気付かずただの呟きだと思うだろう。

 そのせいか伯爵も王様も私の指摘に固まってしまった。



「伯爵は何となくお気付きかと思いますが…、お嬢様とそのお子様の現在をお知りになりたければ条件を飲んで頂きます。飲めないと仰るのならば私共はこのまま立ち去りますが如何いかが致しますか?」



「………みな、下がれ…」



 王様がそう言うと天蓋の陰から狼獣人な1人出て来て音も無く部屋から出て行った。

 ちゃんと人払いがされたけど保険をもう1つ。



「では今から私が話す内容はこの部屋に居る者以外に知らせないと誓って頂けると言う事で間違いありませんか?」



「ああ、誓おう」



「我も誓おう」



「『契約コントラクト』『防音サウンドプルーフ』」



 キィンと空気が震え、契約魔法で何かを感じ取ったのか一瞬で警戒態勢になった2人。



「約束を破られない為の処置です。改めまして私は4人目の賢者と呼ばれているアイルと申します、そして仲間の1人は…『魔法解除マジックリリース』見ての通りです」



「お前いきなりかよ!」



 キメ顔で言った瞬間、私の頭にホセの手刀が落とされた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る