第346話 シドニア男爵家にて
「リカルド様! いつこちらにお戻りに!?」
門を開けた時点で来訪に気付いた家令が玄関で出迎えてくれた。
隣に私の姿を見つけて嬉しそうな笑顔を浮かべると、
「間もなく旦那様がいらっしゃると思いますので、こちらでお待ち下さい。すぐにお茶をお持ちしますね」
リビングまで案内してくれたメイドさんはニコニコしながら一旦出て行った。
そして入れ替わる様にシドニア男爵が入って来て挨拶を交わす。
「お帰りリカルド、元気だったか?」
「はい、父上もお元気そうでなによりです」
「アイ…賢者様もお久しぶりです、ようこそおいで下さいました」
賢者様と呼ばれてしまった、バシリオも知ってたんだから当然知ってるか。
だけど仲間の家族からそんな呼ばれ方するのは嫌だな。
「お久しぶりです。あの…、どうか私の事はリカルドみたいにアイルと呼んで下さい、言葉遣いも以前と同じでお願いします」
「む…、そうか? そう言ってくれるのなら…」
「是非!」
「はは、わかった」
うん、笑うと更にリカルドと似てるよね。
その後すぐにメイドさんが戻って来てお茶を淹れてくれたので、ソファに向かい合って座ってお話をする。
「それで、今回も突然だったが何か報告でもあるのか?」
何だか私の方をチラチラ見ながら期待した目を向けられている様な…?
「今回はちょっと買い出しに来たんですよ、せっかくこの町に来たから顔を出しておこうと思って寄っただけですぐにパルテナに戻る予定です」
「そ、そうか…」
なんだかシドニア男爵がガッカリしてしまった、やはり何日か滞在してほしかったのだろうか。
私はリカルドの袖をクイクイと引っ張った。
「リカルド、何ならリカルドだけ何日か泊まっていく? また1週間休養日にするでしょ? 皆には私から言っておくから」
「それならばリカルドだけと言わずアイルも泊まって行けば良い、妻も娘達も今はお茶会に行っているが、2人が来たと知ったらお茶会に行った事を後悔してしまうだろう」
1人だけ帰ろうとしたら男爵に引き留められたが、私はビビアナの結婚式の準備もあるし忙しいのだ。
男爵にだけ転移魔法の事を教えて行き来するって事で良いかな?
今はメイドさんも下がっているから話すチャンスだよね。
「数日後にリカルドを迎えに来るので大丈夫ですよ、これは王族も教会本部も知らない事なのでご家族にも秘密にして欲しいのですが…」
私が声を
「そ、その様な話を私にして良いのか…?」
「はい、その方が今後動き易くなるので。実はここに来た方法なんですが、女神に授けられた転移の魔法で来たんです」
「てん…い? …………転移ッ!?」
「しーっ! 声が大きいですよ!」
「あ…っ、ムグ」
驚いて大きな声を出した男爵に口の前で指を1本立てて注意すると、男爵は慌てて自分の口を押さえた。
「そういう事なので今後誤魔化す時はご協力をお願いしますね。例えば…直接この屋敷に転移する時の為に部屋を用意してもらうとか…」
「ふむ、ならばリカルドの私室がそのままになっているからその部屋を使えば良いだろう。だが頻度が高ければ気付く者も出てくるだろうな…」
「まぁその辺りは不自然でない程度に抑えますよ、多くても数ヶ月に1度だと思います。依頼のついでに来たと言っても不審に思われない様にするので安心して下さい」
「そうだな、そのくらいのであれば問題無いだろう」
男爵が頷いたので半年か年に1回くらいなら問題無く来れるだろう。
「ではそういう事で。リカルド、3日後のこのくらいの時間に迎えに来るって事で良い?」
「ああ、何かあればすぐに迎えに来てくれ。迎えに来る頃にはビールがひと樽消えてるなんて事にならない様にな」
「大丈夫だよ、結婚式には何樽か無くなるかもしれないけど」
「ははは、さすがに祝い事で野暮な事は言わさない「結婚式!?」
私とリカルドの会話を聞いて男爵がいきなり驚いて立ち上がった、そういえば前回こっちに来た時はまだビビアナとセシリオが婚約すらしてなかったもんね。
「そうなんですよ、仲間のビビアナがもうすぐ結婚するんです。依頼の都合で延期してたのでその分盛大にやろうかと思って色々準備中なんです」
「あ…、仲間の…そうか…」
力が抜けた様にストンとソファに座る男爵。
「?」
「アイル、今の内に俺の部屋へ案内しよう、転移する場所は見ておいた方が良いんじゃないか? 父上、アイルを案内してきますね」
「あ、ああ」
どうしたのかと首を傾げだが、苦笑いを浮かべたリカルドに促された。
「そうだね、一度行った場所じゃないと転移出来ないから見ておきたいかな。皆と来てる時だと皆もリカルドの部屋が見たいとか言い出しそうだし。エリアスなんかはリカルドが見られたくない物隠してないか探しそうだもんね」
「エリアスなら嬉々として探してそうだな。あっ、別に見られたくない物なんて無いからな!?」
「大丈夫だよぅ、例え裸の女性の絵や娼婦のお姉さんから貰った下着が出て来てもリカルドの事を嫌ったり軽蔑したりはしないから」
「だから無いって!」
「はいはい、信じてる。あははは」
「アイル!」
焦るリカルドという珍しいものとリカルドらしいシンプルな部屋を見た後、街中でソーセージやサラミを買い込んでから門を出て1人でウルスカの家へと帰った。
しかしあの焦り方、本当に娼婦のお姉さんの下着を隠してたりして。
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