第574話 最終話

 私達がウルスカに到着して一週間、色々な事があった。

 エドの遺体はトレラーガまで運ばれると思っていたけど、以前から墓は私の隣にしたいからウルスカにと言っていたそうだ。



 通信魔導具での連絡で、エドには国から賢者を救った英雄という事で騎士爵の位が与えられ、葬儀は盛大なものになったが本人の希望もあって貧民街スラムの教会のお墓に葬られた。

 ホセのお母さんも入っているし、『希望エスペランサ』の皆も将来的にここがいいって言いそう。



 結局転移の事はまことしやかに囁かれる程度で済んでいて、私の憔悴っぷりを見たウルスカの人達は直接私に何も言って来ない。

 ビビアナの胸でいっぱい泣いた後は心がある程度回復したものの、まだあの日のエドを夢に見る。



 ホセは「お前を口説くのは一年待ってやる」と謎の宣言をしてきた。

 どうやらエドに対するけじめらしい。

 だけど私がうなされていると、獣化して寄り添ってくれる。

 一時は外に出るのも怖くて、もう冒険者としてやっていけないと思ったけど、なんとか周りの人達に支えられてひと月後には復帰した。







 そして五年後、私の膝の上にはケモ耳の可愛い幼児が座っている。



「エド~、エドワードはママが一番好きだよね~? チュッチュッチュッ」



「うん! ママ大好き! チュ~ッ」



「またやってるよ、本当に飽きないね~。ホセが愛情の偏りを感じるって嘆いてたよ」



 リビングのソファで息子とイチャついてる私に、果実水を飲むエンリケが呆れた目を向けてきた。

 エドの死後、ホセは献身的に私を支えてくれて、そして葬儀から一年経った日から予告通り口説かれ始めて翌年に結婚したのである。



 つまり私の膝の上にいるのはもうすぐ三歳になる私とホセの子供だ。

 さすがにエドガルドという名前をつけるわけにはいかなくて、愛称だけ同じエドになる名前をつけた。

 あの時エドが私を護ってくれなかったら、死んでいたのは私なのでホセも反対しなかったし。



 ちなみに部屋は私と隣の部屋の壁をブチ抜いて、向かいのビビアナ達の主寝室と同じ大きさの部屋を作った。

 現在『希望エスペランサ』の家は中央の階段を挟んで既婚者と独身者に分かれている状態だ。



 エンリケはともかく、リカルドもエリアスもまだ独身だったりする。

 理由は奥さんをこの家に住まわせるのは難しい事、居心地がいいからこの家から出たくないというのが理由らしい。



 確かにね、ビビアナみたいな美人が同居していたら、奥さんも気が気じゃないだろう。

 結婚相手を紹介したいという連絡は日増しに増えているようで、頭を抱えているけど。

 貴族からと思われる蝋封された手紙もよく届いているもんね、リカルドは実家からのプレッシャーもあるらしい。



「だってエドはこんなに可愛いんだよ? 毎日可愛いが更新されるんだから!」



「ふふっ、アイルは相変わらずだね。だからこそ私は以前も今も幸せだよ、無論今の方が比べられないくらい幸せだけどね?」



 突然、エドがまるであのエド・・・・みたいな話し方をしだした。



「エド……?」



「やぁアイル、そうだよ。どうやら私は君を護った事で女神の化身に対する殉教者として女神に認めてもらえたらしい。だから望みを聞かれた時に迷わずアイルの子供に生まれたいと願ったんだ。アイルが私の死に心を痛め続けないように、会話ができるようになったら数分だけ以前の記憶が戻るようにと付け加えてね」



 バシャンと音がして、そちらを見ると、エンリケが果実水の入ったカップを取り落としていた。

 そうだよね、まさかあのエドがエドとしてここにいるなんて……。



「ふ、ふふふ、さすがエドガルド、すごい執念だね。ホセには言えないなぁ」



 エンリケは笑いながらも泣きそうな顔をしている。



「ふふふ、かつての恋敵にアイルの愛を奪われているのだから絶望するだろうね。アイル、たくさんの愛情を注いでくれてありがとう、今の私はとても幸せな子供だよ。……もう時間だね、最後に……チュッ」



 しょっちゅうしているけど、エドは私の唇にキスをした。



「夢も叶ったし、もうこの私が出てくる事はないけれど……これからも愛しているよ……今後は子供としてね」



 そう言うと、エドはパチパチと瞬きを繰り返した。



「エド?」



「なぁに、ママ。……なんで泣いてるの? 痛いの?」



 小さなエドは心配そうに私の頬を撫でた、どうやら私は泣いていたらしい。



「ううん、エドが幸せで嬉しいなぁって思っただけ」



 顔中にキスをすると、キャッキャと喜ぶエド。

 その時リビングのドアが開いた。



「まぁたチュッチュしてたのか、アイルは好きだねぇ。どうしたのエンリケ、絨毯がビショビショになってる『洗浄ウォッシュ』……落ちてたカップはキッチンに置いておくね」



「ああ……、ありがとアリリオ。魔法が随分上手になったね」



「そりゃあ優秀な先生が三人もいるからね。王族より先生が多いんだから早く上手になるよ」



 もうすぐ六歳になるアリリオは、私だけじゃなくガブリエル達からも魔法を教わっているおかげか、同年代の子供の誰より上手に魔力を操る。

 リビングを出て行くアリリオを見送り、私とエンリケはさっきの事を胸に秘めておくと誓い合った。



 その夜、エドをベッドの真ん中に寝かせて川の字で寝転ぶ。

 エドの事は話せないけど、キスした事は告白すべきか悩ましい。



「ホセ……、私エドとキスしちゃった」



「あぁ? いつもの事じゃねぇか。せめてその半分くらいはオレともしてくれよ……チュッ」



「ふふっ、おやすみ」



「ああ、おやすみ」



 ちょっとだけ悪い女の気分を味わいながらも、私は目を閉じた。

 今夜は夢の中で女神様とちょっとお話しが必要だと思うから。



   ◇   ◇   ◇



ここまでお付き合いくださり応援してくださった皆様、ありがとうございます!!

そしてお疲れ様でした!


エンディングに関して正直賛否両論あるとは思いますが、作者としては満足です。

ホセとエド、どっちが勝ち組なのか怪しいところとかw

両方と言えば両方なんですけどね、知らぬが仏です。


本編はここで終わりですが、いくつか番外編を書いていきたいと思うので、あと一年くらいはフォローをそのままにしていただける嬉しいです。


死んだエドと女神の会話とか、あの人は今……的な知りたい人のリクエストもあればぜひ!

最終話の時点でカリスト大司教はきっと貧民街スラムの教会にいそうですしw


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自由に生きようと転生したら、史上4人目の賢者様でした!?〜女神様、今の時代に魔法はチートだったようです〜 web版 酒本アズサ@自由賢者2巻発売中 @azusa_s

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