第360話 心の傷の対価
「むふふふふ」
私はホセの部屋で獣化したホセをモフっていた、時々ホセが呆れた様にため息を吐いているが気にしない。
最近おじいちゃんをモフらせてもらう事が多かったけど、やっぱりホセの方が空と毛並みが似ていてホッとするのだ。
ホセには喧嘩腰に文句を言うより悲しそうに訴える方が効果があるので、さっきのホセの態度で傷付いたのだと大袈裟に言い、心の傷を癒す為にはモフらせて貰わないと立ち直れないと強く主張させてもらった。
そんな訳でホセは大人しく私にモフられていて、獣化してる時は何も話せないので私が一方的に話しながらホセをワシワシしたりナデナデしている。
「だからね、これからはビビアナが重い物持とうとしてたら止めて欲しいの、出産後も暫くは赤ちゃんより重い物を持たせない様にしないと。確か妊娠後期になると眠れないくらいトイレも近くなる人もいるって聞いたからいっそ主寝室にトイレを増設した方がいいかな!? 一階のトイレと同じ洗浄魔法を付与したやつなら設置するのも簡単に出来るよね!」
「あぁ~っ! もう、うるせぇな!! いつまでビビアナの事喋り続けてんだよ! 家の事なら皆揃ってる時にでも相談すりゃ良いだろ!」
不意にもふもふの感触が無くなったかと思ったら、ホセが人型になって文句を言い出した。
身体を起こしたから見えちゃうよ!
「ぎゃーっ! ちょっとホセ!!」
咄嗟に目を隠したけど、見えたんですけど!?
「バカッ、叫ぶんじゃねぇよ!」
思わず叫んだ私の口をホセが塞いだ、口を手で押さえられた勢いでベッドの上でコロンと倒れてホセも体勢を崩した。
こんな状況誰がに見られたら確実に誤解される、そんな時に限って現れる人がこの家に居るし!!
「アイルの声が聞こえたけど、どうしたの!?」
若干嬉しそうな声のエリアスがバーンとドアを開けた。
多分エリアスからだと全裸で私をベッドに押し倒して口を塞いで襲おうとしている様に見えただろう。
「ちがっ、違うからな!!」
口を押さえられているせいで横を向けなかったけど、目だけ動かしてドアの方を見ると面白いモノを見つけた顔をしているエリアスが見えた。
「その状態で言い訳が通じると思ってるの~? どこからどう見ても犯罪現場だよ?」
今すぐにでも皆に言いふらしに行きそうな顔をしている、早く誤解を解かないと大変な事になるよ…!
むしろわかってても面白おかしく皆に報告する姿しか思い浮かばない。
「本当だ! その証拠にその気になってねぇだろうが!!」
そう言ってホセは体の向きを変えてエリアスに対し、正面を向いた。
「………わかった、信じるよ」
残念そうに首を振るエリアス、上を向いて転がった状態で口を押さえられたままの私からは見えないが、ナニを証拠に見せたのかは予想がついた。
「ふぐふぐぐむぐぐ!!(まず服を着てよ)」
「チッ、元はと言えばお前がビビアナと赤ん坊の事を延々と聞かせたせいなんだからな?」
抗議すると口を塞いでいた手が離れた、見えちゃうのでとりあえず寝転んだ状態のまま両手で目を覆って着替えの衣擦れの音が止むのを待った。
「だからって急に人化する事ないじゃない。私の話を聞くのも含めて謝罪なんだからね、それに大事な話だもん」
衣擦れの音が止んだので身体を起こして言い返す。
「えっ!? 何々!? ホセがアイルに謝らなきゃいけない様な事したの?」
エリアスの言葉と表情を見れば完全に面白がっているとわかった、しかし聞き出すまで引き下がる事はしないだろう。
ホセの主観による話をされる前に孤児院での出来事からさっきまでの事を掻い摘んで話した。
私の心の傷に関してはちょっと盛った気がしなくもないが、それは些細な事だ。
「ふぅん…、傷付いた…ねぇ」
ニンマリと笑うエリアスに悪寒が走る、余計な事を言い出す前に気を逸らさないと!
「あっ、もうこんな時間! ホセ、ビビアナ達とおじいちゃん呼んで来て、エリアスはリカルドとエンリケをお願いね、私は食堂で準備してくるから!」
「「わかった」」
2人は素直に頷いて皆を呼びに行ってくれた、ふぅ、引き離しておいたら余計な事言われる心配は無いもんね。
ホッとしつつ食堂へと向かい、さっき準備しておいた昼食をテーブルに並べた。
ビビアナにはヘルシーで、それでいて栄養たっぷりのご飯を食べてもらわないとね、食べ過ぎずにしっかり栄養摂取が今後の課題だ。
今日のお昼はとりあえずブロッコリー多めで葉酸もビタミンも食物繊維も摂ってもらうのだ。
白だしが手に入ったからマヨネーズと混ぜてブロッコリーに合うソースも作れるし、その内ブロッコリー農家まで行ってスプラウトも売ってもらわなきゃ。
冬の間にブロッコリーたっぷり買ってストックしておこうっと。
肉類はシンプルに焼いた
すぐに皆が揃って食事を開始した。
よしよし、ホセもエリアスもさっきの事は忘れたみたいだね。
そうホッとしていたら食後のお茶を淹れる為に台所へと移動した私にエリアスがついて来た。
「アイル、さっきの事だけどさ、孤児院での出来事ってモフらせてもらう程の事じゃ無かったと思うんだけど?(ホセは満更でもないからモフらせてたんだろうけどね)」
「そ、そんな事ないもん、私の繊細な心が傷付いたんだから…」
「それに僕が見ちゃった状況を皆が知ったら何て言うかなぁ? あ、そうだ、僕夕食に赤鎧食べたいな、披露宴で久々に食べたらまた食べたくなっちゃた、出してくれるよね?」
そんなエリアスの脅迫に私は頷くという選択しか出来なかった。
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